48 / 57
45.大切なもの④〜エドワード視点〜
しおりを挟む
俺が何よりも大切にしたいものは変わらない。
それは愛する人の幸せ。
彼女の幸せが何よりも優先すべきもの。
そのためにするべきことなんて決まっている。
分かっていたけど、認めたくなかっただけだ。
もう止めよう、…進もう。
分かっていたんだ、もう俺は彼女の隣りにいるべき人間ではない。
それはもうヒューイの役目だ。
マリアを愛し、彼女に愛されているのは彼だから。
『俺ではない』
目の前にいる彼に視線をやる。彼は俺が正しい答えを出すのを静かに待っている。
「……ありがとう、ヒューイ。
俺は君のお陰で今度こそ間違えずに済みそうだ」
彼のお陰で辿り着けた答えだった。
「勘違いするな、お前の為じゃない。
俺が守るべき人はマリアだけだ。
だがお前が俺の従兄弟であることは変わらない。縁は切らずにおいてやる」
礼を言う俺に優しい言葉は掛けてはこない。
だがヒューイの眼差しは穏やかになっている。
俺の覚悟がちゃんと伝わっているのだろう。
そうだな、お前はそういう奴だ。
上手く周りを操って進むべき道に導いてくれる。
ありがとう…ヒューイ。
彼が思い描いていた通りにきっと俺は動いているのだろう。だが不満なんてない、それは俺が望んでいたものでもあるから。
背中を押してくれる人が弱い俺には必要だった。
だから感謝しかなかった。
そして愛しい人をこれ以上悲しませずに済むことに心から安堵していた。
トントンッ…。
扉がノックされマイル侯爵家の侍女がヒューイに客人の来訪を告げる。
「ヒューイ様、お約束していたお客様がいらっしゃっています。どちらにお通しいたしますか?」
「分かった、天気がいいから東屋に案内しておいてくれ。すぐに俺もそちらに向かう」
侍女は『承知致しました』と言うと丁寧にお辞儀をしてから部屋から出ていった。
ヒューイが俺の方を見て声を掛けてくる。
「会っていくか…」
誰にとも言わずにそう尋ねてきた。きっと彼の約束の相手はマリアなのだろう。
俺のことを信じてくれているようで嬉しかった。
だがまだ駄目だと思った、彼女に会うのは今じゃない。ちゃんといろいろなことを済ませてからでないと会う資格はない。
それにまだ…笑える自信はなかった。
彼女は俺の笑顔が好きだったから、今度会う時は最高の笑顔で会いたい。
「いや、止めておくよ」
俺の言葉に頷く彼は、俺がそう言うのを分かっていたような顔をしている。
彼には敵わない、何もかも…。
だからこそ俺は彼女の幸せを確信しているのだ。
深く頭を下げる俺の背をバンッと叩き『じゃあなっ』とヒューイは振り返らずに部屋から出ていった。
その後すぐに、マリアに会わないように案内され俺はそっとマイル侯爵邸から去っていった。
その足で久しぶりに屋敷に戻ると、ケビンを抱いたラミアが目を潤ませ俺を出迎えてくれた。
「おかえりなさい、エディ…」
「ラミア、ただいま」
久しぶりに会うとは思えない簡素な挨拶。
彼女は俺に何も聞いてこない。
一生懸命にぎこちない笑顔を浮かべながら俺の外套を脱がせてくれ、いつもと変わらずに接しようとしてくれる。
記憶を取り戻していなかったら『夫を愛している健気な妻』にしか見えなかっただろう。
だが今はそう思えない自分がいる。
記憶を取り戻した俺はわずかに感じた違和感をつなぎ合わせ、今まで信じてい事実に疑問を覚えていた。
『本当にそうだったのか…』と。
それは愛する人の幸せ。
彼女の幸せが何よりも優先すべきもの。
そのためにするべきことなんて決まっている。
分かっていたけど、認めたくなかっただけだ。
もう止めよう、…進もう。
分かっていたんだ、もう俺は彼女の隣りにいるべき人間ではない。
それはもうヒューイの役目だ。
マリアを愛し、彼女に愛されているのは彼だから。
『俺ではない』
目の前にいる彼に視線をやる。彼は俺が正しい答えを出すのを静かに待っている。
「……ありがとう、ヒューイ。
俺は君のお陰で今度こそ間違えずに済みそうだ」
彼のお陰で辿り着けた答えだった。
「勘違いするな、お前の為じゃない。
俺が守るべき人はマリアだけだ。
だがお前が俺の従兄弟であることは変わらない。縁は切らずにおいてやる」
礼を言う俺に優しい言葉は掛けてはこない。
だがヒューイの眼差しは穏やかになっている。
俺の覚悟がちゃんと伝わっているのだろう。
そうだな、お前はそういう奴だ。
上手く周りを操って進むべき道に導いてくれる。
ありがとう…ヒューイ。
彼が思い描いていた通りにきっと俺は動いているのだろう。だが不満なんてない、それは俺が望んでいたものでもあるから。
背中を押してくれる人が弱い俺には必要だった。
だから感謝しかなかった。
そして愛しい人をこれ以上悲しませずに済むことに心から安堵していた。
トントンッ…。
扉がノックされマイル侯爵家の侍女がヒューイに客人の来訪を告げる。
「ヒューイ様、お約束していたお客様がいらっしゃっています。どちらにお通しいたしますか?」
「分かった、天気がいいから東屋に案内しておいてくれ。すぐに俺もそちらに向かう」
侍女は『承知致しました』と言うと丁寧にお辞儀をしてから部屋から出ていった。
ヒューイが俺の方を見て声を掛けてくる。
「会っていくか…」
誰にとも言わずにそう尋ねてきた。きっと彼の約束の相手はマリアなのだろう。
俺のことを信じてくれているようで嬉しかった。
だがまだ駄目だと思った、彼女に会うのは今じゃない。ちゃんといろいろなことを済ませてからでないと会う資格はない。
それにまだ…笑える自信はなかった。
彼女は俺の笑顔が好きだったから、今度会う時は最高の笑顔で会いたい。
「いや、止めておくよ」
俺の言葉に頷く彼は、俺がそう言うのを分かっていたような顔をしている。
彼には敵わない、何もかも…。
だからこそ俺は彼女の幸せを確信しているのだ。
深く頭を下げる俺の背をバンッと叩き『じゃあなっ』とヒューイは振り返らずに部屋から出ていった。
その後すぐに、マリアに会わないように案内され俺はそっとマイル侯爵邸から去っていった。
その足で久しぶりに屋敷に戻ると、ケビンを抱いたラミアが目を潤ませ俺を出迎えてくれた。
「おかえりなさい、エディ…」
「ラミア、ただいま」
久しぶりに会うとは思えない簡素な挨拶。
彼女は俺に何も聞いてこない。
一生懸命にぎこちない笑顔を浮かべながら俺の外套を脱がせてくれ、いつもと変わらずに接しようとしてくれる。
記憶を取り戻していなかったら『夫を愛している健気な妻』にしか見えなかっただろう。
だが今はそう思えない自分がいる。
記憶を取り戻した俺はわずかに感じた違和感をつなぎ合わせ、今まで信じてい事実に疑問を覚えていた。
『本当にそうだったのか…』と。
330
あなたにおすすめの小説
氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
ご安心を、2度とその手を求める事はありません
ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・
それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる