間違って舞踏会に一番乗りしてしまったシンデレラ

矢野りと

文字の大きさ
2 / 29

2.シンデレラの誕生…?②

しおりを挟む
流石に言い疲れてきたのか継母の勢いもだんだんと弱まってくる。
 
 もうそろそろ終わるかしら…。
 
心のなかで少しだけ期待をしてしまうくらいは許して欲しい。

だが淡い期待はすぐに砕け散ることになる。
継母は手をパパンっと大きく叩いてから『とても大事なことをこれから言うわ。これだけはよく聞いてちょうだい』と前置きをする。

大事な話なら長い愚痴よりも優先して欲しかった…と思ってしまう。
 
「我が家にいた三人の使用人達には暇を出しました。もう彼らに給金を支払う余裕なんてないのよ。今までと同じ生活は出来ないけれども、それは仕方がないことだわ。
これからはが彼らがやっていた家事全般も行わなければいけません。分かりましたね?」

14歳になっていた私は我が家の財政事情は理解できていた。
長年仕えてくれた使用人達がいなくなるのは寂しくて仕方がないが、援助してくれそうな裕福な親戚もいないのだから選択肢なんてない。

 …無い袖は振れないわよね。

「分かりました、お義母様」

今まで家事はやったことはないけれども、四人で協力すればなんとかなるだろう。
そう思い私は素直に頷いた。
けれども空気を読まないというより、財政事情なんて考えもしない義姉達は違った。
遠慮することなく口々に不満を唱えてくる。

「嫌よ!家事なんてしたら手が荒れてしまうわ。
ああ、どうしようせっかく美しく生まれたのに、その美貌を活かすどころか損なうことをするなんて…」

背が高いので心のなかで『のっぽお義姉様』と呼んでいる上の義姉が大袈裟に嘆いてみせる。
ふくよかな身体をしている下の義姉『ぽっちゃりお義姉様』も負けじと続く。

「私達が使用人の真似事なんてして惨めったらしくなったら、良い嫁ぎ先だって見つからなくなるわ。
お母様、そうなったら大変でしょう?
それにこんなこと言いたくないけれど私達よりも年を取っているお母様はきっとあっという間に老けちゃうかも…」

「えっ!私が老ける……」

明らかに動揺する継母。『老ける』という言葉に異様に反応している。
年齢は聞いても教えてくれないので知らないが、いろいろと難しいお年頃なのだろう。

「そうよ、そう!お母様、…本当にそれでもいいの?!老けたら元に戻る可能性は極めて低いわよ」

動揺を隠せない母親にここぞとばかりに強い口調で揺さぶりを掛けるのっぽお義姉様。

「で、でも…使用人は雇えないわ……」

継母は震える声でそう言いながら俯いている。
そんな母親に畳み掛けるように言葉をぶつけてくるのはぽっちゃりお義姉様だった。

「それで本当に後悔しないの?あとから後悔しても遅いのよ。本当に、本当に…大丈夫なの?お母様が後で悲しむ姿なんて見たくないわ」

見事なまでの連携プレーだった。
日頃は喧嘩ばかりしているのになんで今日はこんなに息があっているのだろう。


義姉達は実の娘だけあって母親のことをよく知っている。
継母が気にしていることを絶妙に突いて揺さぶりを掛けるのがもの凄く上手い。
そのうえ最後には母親のことを心配する言葉も忘ちゃんと忘れない。

 お義姉様達、さすが?…ですね…。

普段は賢いとは言えない発言ばかりしているのにこんな時だけ賢さを発揮してくる不思議な義姉達。
ある意味『能ある鷹は爪を隠す』のなのかもしれない??

『凄いわ…』と私が感心している一方で、継母は明らかに心が揺れている。

「…ふ、老ける?…嫌だ…わ、そんな…どうしましょう…」

なにやらブツブツと呟いて、部屋の中を歩き周りながら考えている。
暫くすると足を止め、私と義姉達の方に顔を向ける。

なぜかもうその表情に動揺は見られない。

「おっほほほほー、私ったら旦那様の死を悲しむあまり冷静さを欠いていたみたいね。
確かに我が家の窮地を救ってくれるような良い嫁ぎ先にあなた達は嫁がなくてはいけないわ。
それに私も女主人としての品位は保たなくては…。べ、別に私がそうしたいわけではないけど、そ、それがムーア子爵家の為なのよ!!」

継母はそう言いながら不自然に私から目を逸らす。

 ……なぜ目を逸らすのですか、お義母様。


もし私が熊だったならば確実にやられている、というかやっているだろう。
『熊だったらよかったのにな…』と心のなかで熊の自分を想像してみる。

 『がおぅー』と吠える可愛い子熊
 『おっほほー。私に勝とうなんて百年早いわよっ、このちび熊!』
 扇を手にした継母が追いかけてくる。
 必死に逃げる子熊の私…。

なぜだろうか、そんな場面しか頭に浮かばない。
無謀な戦いはするべきだはないのは分かっている。だって父がその身を持って教えてくれた最後のことだから。

はっ!、もしや父はこれを教えるために飛び出したのだろうか。
いやいやそんなはずはないだろう。子豚に命を差し出してまで教えることでは絶対にないはずだ。

 …そうよね?お父様。


気を取り直し、身体をずらしてなんとか継母と目を合わせようとするが、絶対に目を合わせてくれない。
『お義母様、どうしたのですか?』
『どうもしないわよ…』
『ではどうして私から視線をそらすのでしょうか?』
『一体何のことをかしら…おっほほ』

挙動不審と言っていいほど怪しすぎる態度を継母は取り続ける。

もう正直嫌な予感しかしなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃

ぜらちん黒糖
恋愛
​「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」 ​甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。 旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。 「それは本当に私の子供なのか?」

望まない相手と一緒にいたくありませんので

毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。 一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。 私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

契約書にサインをどうぞ、旦那様 ~お飾り妻の再雇用は永年契約でした~

有沢楓花
恋愛
――お飾り妻、平穏な離婚のため、契約書を用意する。  子爵家令嬢グラディス・シャムロックは、結婚式を目前にしてバセット子爵家嫡男の婚約者・アーロンが出奔したため、捨てられ令嬢として社交界の評判になっていた。  しかも婚約はアーロンの未婚の兄弟のうち「一番出来の悪い」弟・ヴィンセントにスライドして、たった数日で結婚する羽目になったのだから尚更だ。 「いいか、お前はお飾りの花嫁だ。これは政略結婚で、両家の都合に過ぎず……」 「状況認識に齟齬がなくて幸いです。それでは次に、建設的なお話をいたしましょう」  哀れなお飾り妻――そんな世間の噂を裏付けるように、初夜に面倒くさそうに告げるヴィンセントの言葉を、グラディスは微笑んで受けた。  そして代わりに差し出したのは、いつか来る離婚の日のため、お互いが日常を取り戻すための条件を書き連ねた、長い長い契約書。 「こちらの契約書にサインをどうぞ、旦那様」  勧められるままサインしてしまったヴィンセントは、後からその条件を満たすことに苦労――する前に、理解していなかった。  契約書の内容も。  そして、グラディスの真意も。  この話は他サイトにも掲載しています。 ※全4話+おまけ1話です。

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね

江崎美彩
恋愛
 王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。  幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。 「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」  ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう…… 〜登場人物〜 ミンディ・ハーミング 元気が取り柄の伯爵令嬢。 幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。 ブライアン・ケイリー ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。 天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。 ベリンダ・ケイリー ブライアンの年子の妹。 ミンディとブライアンの良き理解者。 王太子殿下 婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。 『小説家になろう』にも投稿しています

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

処理中です...