間違って舞踏会に一番乗りしてしまったシンデレラ

矢野りと

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3.シンデレラになりました…?

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良いことが起こりそうな予感はほぼ外れるのに、悪い予感だけはよく当たるのはなぜだろうか。

継母は義姉達に向かってこれから彼女たちがするべきことを告げる。

「ムーア子爵家がこれ以上落ちぶれないように全力を尽くさなければいけません。その為に上の二人は我が家を援助してくれるような立派な結婚相手をこれから見つけなさい。とても大変なことだけれどあなた達ならきっと成し遂げてくれると信じているわ」

「「はい、お母様。一生懸命頑張るわ」」

二人の義姉は声を揃える。その声音は不満を言ってい時とは違って明るい。
それはそうだろう、彼女たちの願いが叶った形となったのだから。
でも話はそれだけで終わらなかった。

「そして私は女主人としての
本当は家事だってやりたいのよ、でも両立は難しいと思うの。ほら、女主人って本当に忙しいでしょう、ねっ?
ああ残念で仕方がないわ、やりたかったのに~」

言葉と裏腹に後半部分の声音はちっとも残念そうに聞こえないのは気のせいではないない気がする。
疑いの眼差しで私は継母を見てしまう。

それに義姉達だけでなく、継母まで家事をやらないのなら誰がやるというのだ。

 
残っているのは『私』しかいない……。


不自然なほど明るい口調で継母はまた話し始める。体は私の方を向いているが、決して目は合わせない。
これは後ろめたいことがある人がする仕草だと子供の私にだって分かる。

「あっそうそう、リリミアもいたわね。すっかり忘れていたわ、ごめんなさい。えっと、あなたには何をしてもらおうかしら~。まだ幼いから結婚相手を探すのは難しいわね。
いいの、いいのよ、気にしないでちょうだい」

 気にしていませんから。
 ご心配なく!

心のなかでだけきっぱりと言う。
でも口に出すのは状況を見極めてからにしよう。

「そうね、こうしましょう!あなたは使用人がしてきた簡単な家事全般だけしてくれればいいわ。いいのよ、お礼なんてわざわざ言わなくても。
役割分担して良い結果が出るようにお互いに頑張っていきましょうね」

『四人で』という方針ではなくなったらしい。
どうやら継母は私にだけ家事を押し付けることにしたようだ。


 お義母様、お礼なんて言う予定はありません…。

家事をするのは仕方がないとはいえ全てを押し付けられられるのは納得いかない。

「あの私だけでは難しいかと…。少しだけでもいいので手伝ってもらえませんか?」

義理の娘らしく控えめにお願いを口にする。普通なら彼らは『分かったわ』と了承の言葉を告げるのが常識ってものだと思う。その気がなくても一応はそう口にするものだろう。
でも彼らから返ってきたのは反応は素直過ぎるものだった。

「リリミア、何を言ってるのよーーー!
私達は忙しいの、ダンスの練習やお茶会への参加とかすることがいっぱいあるんだから。私はあなたよりも凄く大変になるのよ」

「えっと忙しい…ですか…??」

気持ちを隠すことがない淑女とはほど遠い反応。忙しいなんてただの言い訳で『のっぽお義姉様』は協力する気はないようだ。

「そうよ。あなたに私達の代わりができるというの?そんな子供っぽい体型のお子様に惹かれる令息なんていないわよ」

ふくよかな身体を見せつけるように揺らしながらぽっちゃりお義姉様は私の控えめな胸を見て鼻で笑ってくる。

「………代わりは難しいかもしれませんね」

確かに義姉達と比べて私はちょっとだけ控えめかもしれない。義姉は人の痛いところをついてくるのが本当に上手い。
悔しいから気にしてないふりをしているけれど、ちょっと心が抉られた。

 うっ…、成長途中なんだから。
 これからなのよ……きっと。
 …………た…ぶん。

幼い頃に亡くなった実母の姿を覚えているので、自信は…ない。ちなみに私は姿形は母親に似ているとずっと言われてきた。

「リリミア、適材適所って言葉を知っている?
今のあなたでは義姉達がやっている婚活は無理なのよ。ほら、ちょっとばかり体型が可愛らし過ぎるでしょう?
あっ、でもその体型がお好きな特殊性癖のご老人に嫁ぎたいとういのなら話は別ね、ふふふ」

ネチネチといやらしく攻めてくる継母。
心のなかで盛大に『あっかんべー』をしながら『継母が足の小指を扉にぶつけてヒーヒー言っているところ』を想像して気を落ち着かせる。

この方法はあの父からの直伝だ。
教わった時は『またお父様ったらくだらないことを…』と内心思っていた。でも今日初めて実践してみたがこれはなかなか効いた。湧き上がってきていた怒りがだいぶ小さくなっている。

ちょっとだけお調子者の父を見直した。

 お父様、ありがとう。
 こんな秘策を教えてくれて!
 

笑顔を浮かべて決断を迫ってくる継母。
実物へのダメージがないことが返す返すも残念だった。

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