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2.シンデレラの誕生…?②
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流石に言い疲れてきたのか継母の勢いもだんだんと弱まってくる。
もうそろそろ終わるかしら…。
心のなかで少しだけ期待をしてしまうくらいは許して欲しい。
だが淡い期待はすぐに砕け散ることになる。
継母は手をパパンっと大きく叩いてから『とても大事なことをこれから言うわ。これだけはよく聞いてちょうだい』と前置きをする。
大事な話なら長い愚痴よりも優先して欲しかった…と思ってしまう。
「我が家にいた三人の使用人達には暇を出しました。もう彼らに給金を支払う余裕なんてないのよ。今までと同じ生活は出来ないけれども、それは仕方がないことだわ。
これからは私達四人が彼らがやっていた家事全般も行わなければいけません。分かりましたね?」
14歳になっていた私は我が家の財政事情は理解できていた。
長年仕えてくれた使用人達がいなくなるのは寂しくて仕方がないが、援助してくれそうな裕福な親戚もいないのだから選択肢なんてない。
…無い袖は振れないわよね。
「分かりました、お義母様」
今まで家事はやったことはないけれども、四人で協力すればなんとかなるだろう。
そう思い私は素直に頷いた。
けれども空気を読まないというより、財政事情なんて考えもしない義姉達は違った。
遠慮することなく口々に不満を唱えてくる。
「嫌よ!家事なんてしたら手が荒れてしまうわ。
ああ、どうしようせっかく美しく生まれたのに、その美貌を活かすどころか損なうことをするなんて…」
背が高いので心のなかで『のっぽお義姉様』と呼んでいる上の義姉が大袈裟に嘆いてみせる。
ふくよかな身体をしている下の義姉『ぽっちゃりお義姉様』も負けじと続く。
「私達が使用人の真似事なんてして惨めったらしくなったら、良い嫁ぎ先だって見つからなくなるわ。
お母様、そうなったら大変でしょう?
それにこんなこと言いたくないけれど私達よりも年を取っているお母様はきっとあっという間に老けちゃうかも…」
「えっ!私が老ける……」
明らかに動揺する継母。『老ける』という言葉に異様に反応している。
年齢は聞いても教えてくれないので知らないが、いろいろと難しいお年頃なのだろう。
「そうよ、そう!お母様、…本当にそれでもいいの?!老けたら元に戻る可能性は極めて低いわよ」
動揺を隠せない母親にここぞとばかりに強い口調で揺さぶりを掛けるのっぽお義姉様。
「で、でも…使用人は雇えないわ……」
継母は震える声でそう言いながら俯いている。
そんな母親に畳み掛けるように言葉をぶつけてくるのはぽっちゃりお義姉様だった。
「それで本当に後悔しないの?あとから後悔しても遅いのよ。本当に、本当に…大丈夫なの?お母様が後で悲しむ姿なんて見たくないわ」
見事なまでの連携プレーだった。
日頃は喧嘩ばかりしているのになんで今日はこんなに息があっているのだろう。
義姉達は実の娘だけあって母親のことをよく知っている。
継母が気にしていることを絶妙に突いて揺さぶりを掛けるのがもの凄く上手い。
そのうえ最後には母親のことを心配する言葉も忘ちゃんと忘れない。
お義姉様達、さすが?…ですね…。
普段は賢いとは言えない発言ばかりしているのにこんな時だけ賢さを発揮してくる不思議な義姉達。
ある意味『能ある鷹は爪を隠す』のなのかもしれない??
『凄いわ…』と私が感心している一方で、継母は明らかに心が揺れている。
「…ふ、老ける?…嫌だ…わ、そんな…どうしましょう…」
なにやらブツブツと呟いて、部屋の中を歩き周りながら考えている。
暫くすると足を止め、私と義姉達の方に顔を向ける。
なぜかもうその表情に動揺は見られない。
「おっほほほほー、私ったら旦那様の死を悲しむあまり冷静さを欠いていたみたいね。
確かに我が家の窮地を救ってくれるような良い嫁ぎ先にあなた達は嫁がなくてはいけないわ。
それに私も女主人としての品位は保たなくては…。べ、別に私がそうしたいわけではないけど、そ、それがムーア子爵家の為なのよ!!」
継母はそう言いながら不自然に私から目を逸らす。
……なぜ目を逸らすのですか、お義母様。
もし私が熊だったならば確実にやられている、というかやっているだろう。
『熊だったらよかったのにな…』と心のなかで熊の自分を想像してみる。
『がおぅー』と吠える可愛い子熊。
『おっほほー。私に勝とうなんて百年早いわよっ、このちび熊!』
扇を手にした継母が追いかけてくる。
必死に逃げる子熊の私…。
なぜだろうか、そんな場面しか頭に浮かばない。
無謀な戦いはするべきだはないのは分かっている。だって父がその身を持って教えてくれた最後のことだから。
はっ!、もしや父はこれを教えるために飛び出したのだろうか。
いやいやそんなはずはないだろう。子豚に命を差し出してまで教えることでは絶対にないはずだ。
…そうよね?お父様。
気を取り直し、身体をずらしてなんとか継母と目を合わせようとするが、絶対に目を合わせてくれない。
『お義母様、どうしたのですか?』
『どうもしないわよ…』
『ではどうして私から視線をそらすのでしょうか?』
『一体何のことをかしら…おっほほ』
挙動不審と言っていいほど怪しすぎる態度を継母は取り続ける。
もう正直嫌な予感しかしなかった。
もうそろそろ終わるかしら…。
心のなかで少しだけ期待をしてしまうくらいは許して欲しい。
だが淡い期待はすぐに砕け散ることになる。
継母は手をパパンっと大きく叩いてから『とても大事なことをこれから言うわ。これだけはよく聞いてちょうだい』と前置きをする。
大事な話なら長い愚痴よりも優先して欲しかった…と思ってしまう。
「我が家にいた三人の使用人達には暇を出しました。もう彼らに給金を支払う余裕なんてないのよ。今までと同じ生活は出来ないけれども、それは仕方がないことだわ。
これからは私達四人が彼らがやっていた家事全般も行わなければいけません。分かりましたね?」
14歳になっていた私は我が家の財政事情は理解できていた。
長年仕えてくれた使用人達がいなくなるのは寂しくて仕方がないが、援助してくれそうな裕福な親戚もいないのだから選択肢なんてない。
…無い袖は振れないわよね。
「分かりました、お義母様」
今まで家事はやったことはないけれども、四人で協力すればなんとかなるだろう。
そう思い私は素直に頷いた。
けれども空気を読まないというより、財政事情なんて考えもしない義姉達は違った。
遠慮することなく口々に不満を唱えてくる。
「嫌よ!家事なんてしたら手が荒れてしまうわ。
ああ、どうしようせっかく美しく生まれたのに、その美貌を活かすどころか損なうことをするなんて…」
背が高いので心のなかで『のっぽお義姉様』と呼んでいる上の義姉が大袈裟に嘆いてみせる。
ふくよかな身体をしている下の義姉『ぽっちゃりお義姉様』も負けじと続く。
「私達が使用人の真似事なんてして惨めったらしくなったら、良い嫁ぎ先だって見つからなくなるわ。
お母様、そうなったら大変でしょう?
それにこんなこと言いたくないけれど私達よりも年を取っているお母様はきっとあっという間に老けちゃうかも…」
「えっ!私が老ける……」
明らかに動揺する継母。『老ける』という言葉に異様に反応している。
年齢は聞いても教えてくれないので知らないが、いろいろと難しいお年頃なのだろう。
「そうよ、そう!お母様、…本当にそれでもいいの?!老けたら元に戻る可能性は極めて低いわよ」
動揺を隠せない母親にここぞとばかりに強い口調で揺さぶりを掛けるのっぽお義姉様。
「で、でも…使用人は雇えないわ……」
継母は震える声でそう言いながら俯いている。
そんな母親に畳み掛けるように言葉をぶつけてくるのはぽっちゃりお義姉様だった。
「それで本当に後悔しないの?あとから後悔しても遅いのよ。本当に、本当に…大丈夫なの?お母様が後で悲しむ姿なんて見たくないわ」
見事なまでの連携プレーだった。
日頃は喧嘩ばかりしているのになんで今日はこんなに息があっているのだろう。
義姉達は実の娘だけあって母親のことをよく知っている。
継母が気にしていることを絶妙に突いて揺さぶりを掛けるのがもの凄く上手い。
そのうえ最後には母親のことを心配する言葉も忘ちゃんと忘れない。
お義姉様達、さすが?…ですね…。
普段は賢いとは言えない発言ばかりしているのにこんな時だけ賢さを発揮してくる不思議な義姉達。
ある意味『能ある鷹は爪を隠す』のなのかもしれない??
『凄いわ…』と私が感心している一方で、継母は明らかに心が揺れている。
「…ふ、老ける?…嫌だ…わ、そんな…どうしましょう…」
なにやらブツブツと呟いて、部屋の中を歩き周りながら考えている。
暫くすると足を止め、私と義姉達の方に顔を向ける。
なぜかもうその表情に動揺は見られない。
「おっほほほほー、私ったら旦那様の死を悲しむあまり冷静さを欠いていたみたいね。
確かに我が家の窮地を救ってくれるような良い嫁ぎ先にあなた達は嫁がなくてはいけないわ。
それに私も女主人としての品位は保たなくては…。べ、別に私がそうしたいわけではないけど、そ、それがムーア子爵家の為なのよ!!」
継母はそう言いながら不自然に私から目を逸らす。
……なぜ目を逸らすのですか、お義母様。
もし私が熊だったならば確実にやられている、というかやっているだろう。
『熊だったらよかったのにな…』と心のなかで熊の自分を想像してみる。
『がおぅー』と吠える可愛い子熊。
『おっほほー。私に勝とうなんて百年早いわよっ、このちび熊!』
扇を手にした継母が追いかけてくる。
必死に逃げる子熊の私…。
なぜだろうか、そんな場面しか頭に浮かばない。
無謀な戦いはするべきだはないのは分かっている。だって父がその身を持って教えてくれた最後のことだから。
はっ!、もしや父はこれを教えるために飛び出したのだろうか。
いやいやそんなはずはないだろう。子豚に命を差し出してまで教えることでは絶対にないはずだ。
…そうよね?お父様。
気を取り直し、身体をずらしてなんとか継母と目を合わせようとするが、絶対に目を合わせてくれない。
『お義母様、どうしたのですか?』
『どうもしないわよ…』
『ではどうして私から視線をそらすのでしょうか?』
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