政略結婚の相手に見向きもされません

矢野りと

文字の大きさ
5 / 44

4.国王帰還

しおりを挟む
離宮でシルビアが生活を始めてから、三日後、国王一行が王宮に帰還した。


そして今、国王は執務室で宰相から冷たい眼差しを受けていた。

「ギルア様。大変、大変、大変…遅いご帰還でございますね」

「悪かった…」

「政略結婚の式に本人が欠席なんて…、ありえません」

「本当に悪かった…」

「王としての責務をどう考えているのですか?」

「……」

本来であれば宰相は国王にそんな態度を取ったりしない。しかし今回は例外だ。

「政略結婚が不本意とはいえ、一国の王女を蔑ろにするにもほどがあります。これではニギ国との外交は上手くいかなくなります」

「宰相には苦労を掛けてすまなかった。明日にでもシルビア王女と会い、直接詫びる」

「もうではありません。
シルビアです」

「……」

そろそろ皮肉を言うのをやめようかと宰相が考えていると、ギルア国王が深いため息をついた。
よくよく見るとギルアは顔色が悪く、少し窶れているようだ。

「側室を三人娶り、希望通り後宮も復活されたのに元気がありませんね?どうしたのですか」

国王は正妃との結婚式をすっぽかし、側室とのハネムーン旅行を楽しんでゆっくり帰還したのだから、もっと幸福オーラが溢れているはずなのに。
全く幸せオーラが見えない…、嫌な予感しかしない…。

ギルアは番を得る夢を捨てられず、いつか巡り合えるかもしれない番の為に後宮制度を復活させた。
後宮制度復活の手段として側室三人と結婚した為、事前に面識もなかった。
種族間のバランスが崩れないように書類を見て決め、側妃を選んだのである。

これがいけなかった。ギルアは側妃を甘く、いや女同士の争いを軽く考えていた。

三人の側室達は、王宮への帰路で揉めに揉めた。
食事のたびに誰がギルアの近くに座るかに始まり、夜伽の順番まで。とにかく揉めてない時がないのである。王宮への帰還が遅れたのも、側室達が揉めていたせいであった。その都度帰還の足を止めてギルアが仲裁に入っていた。 
楽しいハネムーン旅行の実態は、ギルアの精神苦行の旅であった。 

ギルアは宰相に、側室達との道中の出来事を話した。恥ずかしい事も多々あったが、包み隠さず話した。宰相からこの解決策を教えて欲しい一心で。 

「当然ですよ。一夫多妻とはそんなものです。巡り合っていない番にばかり気を取られているから後宮復活という愚かなことしたのです。ご自分が犯した過ちですからちゃんとご自分で対応して下さい」

ギルア国王の幼少期の教師をしていた宰相の言葉は容赦ないものだった。

「解決策はないのか…?」

縋るような気持ちで再度問い掛ける。

「後宮制度が廃止になったのには理由があります。
妃達の諍いで王宮に混乱を招く事例が多々あったからです。これは事前にご説明しましたよね!
その時ギルア国王は大丈夫上手くやる自信はあると言われました。お忘れでないですよね。ご自分で蒔いた種です、ご自分で解決して下さい」

解決策はない…、ギルアは絶望的な気持ちになった。
そもそも女性の扱いに長けていないギルアが、後宮復活など無理があったのである。

そんなギルアに構わず宰相は続けた、

「とにかくまず正妃のシルビア様に謝罪を行ってください。明日の午後一番に予定を組みますから、よろしいですね?」

「分かった、謁見室で行う。一緒に重鎮達との顔合わせを行うから、重鎮達も集めておいてくれ」

「側妃方はどうしますか、呼びますか?」

「嫌だが仕方がない。いつかは顔見世をしなくてはいけないからな…。先延ばしにしても解決はせん、呼んでおいてくれ」

「承知しました」

宰相は今後の予定を通達すべく執務室を後にした。



扉が完全に閉まった後、ギルアはソファに身を投げ出した。

(はぁ~。こんなことになるなら、無理矢理後宮一夫多妻を復活するのではなかった。
あの時の俺を殴ってでも止めた!人族の正妃との対面も気が重い…。 
俺って、本当にバカかも…)
自分のことをバカだと反省しているが、すでにシルビア正妃から『バカ』認定されていることは知らないギルアである。


グダグダと考えて落ち込むギルア国王。
その姿は臣下に見せられるものではなく、英雄王として各国に知れ渡っている姿とは程遠いものだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

冷遇夫がお探しの私は、隣にいます

終日ひもの干す紐
恋愛
愛人がいるなら、さっさと言ってくれればいいのに! 妻に駆け落ちされた、傷心の辺境伯ロシェのもとへ嫁いでほしい。 シャノンが王命を受け、嫁いでから一年……とんでもない場面に立ち会ってしまう。 「サフィール……またそんなふうに僕を見つめて、かわいいね」 シャノンには冷たいの夫の、甘ったるい囁き。 扉の向こうの、不貞行為。 これまでの我慢も苦労も全て無駄になり、沸々と湧き上がる怒りを、ロシェの愛猫『アンブル』に愚痴った。 まさかそれが、こんなことになるなんて! 目が覚めると『アンブル』になっていたシャノン。 猫の姿に向けられる夫からの愛情。 夫ロシェの“本当の姿”を垣間見たシャノンは……? * * * 他のサイトにも投稿しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。 だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。 理由は簡単だった。 「君は役に立ちすぎた」から。 すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、 “静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。 そこで待っていたのは―― 期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。 前に出なくていい。 誰かのために壊れなくていい。 何もしなくても、ここにいていい。 「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」 婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、 何者にもならなくていいヒロインの再生と、 放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。 これは、 “役に立たなくなった”令嬢が、 ようやく自分として生き始める物語。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

処理中です...