10 / 44
閑話~剣術稽古~
しおりを挟む
キン!キン! ドス! バサァー ドザザザァー
剣が激しく交わる音と蹴り倒され、体が地面に転がる音が響いている。かれこれ一時間も剣の稽古は続いている。
シルビアとダイとサカトの3人で、交代しながら一対一の剣術稽古をするのはもう離宮の日課である。
最初は護衛騎士である2人が仕事の合間に行っていたのだが、それを見たシルビアがドレス姿のままが飛び入り参加し、今日に続いている。
専属侍女のサーサは剣を扱うことが出来ないので、いつも木陰でひとり椅子に座り様子を眺めている。
(正妃が剣術稽古で侍女がお茶してるっていいのかしら?普通逆よね)と思いながらお茶を飲んでいると、トト爺がいつの間にかひょっこり隣りに座っている。
「もうびっくりしましたよ、トト爺」
「すまんな、長年の癖でつい気配を消してな~」癖で気配を消すのはトト爺くらいである。
「それにしても見事な剣術だの。ダイ坊など苦戦しておるわ、ダイ坊は正攻法の剣術だからシルビア様の体術を巧みに雑ぜた剣は苦手なんじゃな~。ホッホッホ」
実力の有る者しか専属護衛騎士にはなれない、もちろんダイやサカトはかなりの腕前を持っている。その2人と互角に稽古をしているシルビアもかなりの実力者といえる。
「なんであんなにお強いのかしら?ニギ国では王女も剣術の英才教育を受けるの?」
「いや、受けんよ。帝王学は学ぶが、剣術は普通嗜み程度よ」
でもあれは嗜み程度の実力ではない、サーサが不思議な顔をしているとトト爺が質問してきた。
「なんで人は剣を学ぶと思う?」
「剣術を活かした仕事に就くためや趣味や何かを守るためかしら」
「では王女が剣を学ぶ理由は?」
(王女は剣術を仕事にしない、趣味ではあんな実力にはならない、では守るため? 何を…?)
サーサは正しい答えが分かってきたような気がした、だが信じたくなかった。
「お前さんが考えている通りじゃ。シルビア様は暗殺から自分自身を守るために強くなるしかなかったんじゃよ」
ニギ国の前王妃は10年前に暗殺され、9年前に国王と現王妃が再婚し翌年王子が誕生した。シルビアは前王妃の子で、前王妃の忘れ形見である王女を国王は溺愛していた。それが現王妃には我慢ならなかった。
それからシルビアの地獄が始まった。現王妃は母として表面的には可愛がっていたが、裏では幾度となく暗殺を企てた。
小国であるニギ国の王権は強くないので、国王は有力貴族の後ろ盾がある王妃を止める力はなかった。出来る事といえば娘を愛していないように振舞うことだった。幼い王女には国の内情など分からなく、父王の拒絶に絶望した。それ以後は笑顔という仮面を被り続け、自ら剣術を鍛えて生き延びるしかなかったのである。
「周辺国がきな臭くなってきた2年前に一応ニギ国の内情も調査したんじゃ、その時シルビア王女の状況も把握した。王族にはよく有る事だが、王女ゆえに逃げることも許されず、辛かったはずじゃな」
「前向きで明るいから人族の幸せな王女だとばかり…」
何事にも前向きで明るいシルビアからは一切陰を感じることがなかった。1人遠方の国に嫁いで来たのに、それは逆におかしな事なのだと今になって気づいた。
「そもそも年頃の王女が婚約者もおらず、今回輿入れしてきたのはおかしいと思わんか?
普通なら婚約者がいて多少なりともごたつくもんじゃ」
「そういえばそうね、ごたついてたのはオーサン国側だったわ。シルビア様の婚約者はどうしたのかしら」
「元からいなかったんじゃ。王女の幸せを許せない王妃が縁談を悉く潰してた。
今回の政略結婚が成立したのは、『獣人の嫁=不幸』だと人族の王妃が考えたからじゃよ」
聞けばシルビアはあの美貌と魅惑の微笑みで『微笑みの王女』と言われていたらしい。どんな時でも微笑みを絶やさず完璧な王女だったのだ。
真実を知った今では、それが鎧だったと分かる。隙を見せず、完璧に演じなければ死が忍び寄るから。
3人の剣術稽古はまだ続いている、真剣だがどこか楽しそうに剣を合わせるシルビアの表情は笑顔だ。でもその笑顔は偽りでないように見える、獣人国でやっと仮面を外せたのだと思いたい。
サーサはシルビアを笑わそうと決めた、そして一緒に笑っていこうと。
剣が激しく交わる音と蹴り倒され、体が地面に転がる音が響いている。かれこれ一時間も剣の稽古は続いている。
シルビアとダイとサカトの3人で、交代しながら一対一の剣術稽古をするのはもう離宮の日課である。
最初は護衛騎士である2人が仕事の合間に行っていたのだが、それを見たシルビアがドレス姿のままが飛び入り参加し、今日に続いている。
専属侍女のサーサは剣を扱うことが出来ないので、いつも木陰でひとり椅子に座り様子を眺めている。
(正妃が剣術稽古で侍女がお茶してるっていいのかしら?普通逆よね)と思いながらお茶を飲んでいると、トト爺がいつの間にかひょっこり隣りに座っている。
「もうびっくりしましたよ、トト爺」
「すまんな、長年の癖でつい気配を消してな~」癖で気配を消すのはトト爺くらいである。
「それにしても見事な剣術だの。ダイ坊など苦戦しておるわ、ダイ坊は正攻法の剣術だからシルビア様の体術を巧みに雑ぜた剣は苦手なんじゃな~。ホッホッホ」
実力の有る者しか専属護衛騎士にはなれない、もちろんダイやサカトはかなりの腕前を持っている。その2人と互角に稽古をしているシルビアもかなりの実力者といえる。
「なんであんなにお強いのかしら?ニギ国では王女も剣術の英才教育を受けるの?」
「いや、受けんよ。帝王学は学ぶが、剣術は普通嗜み程度よ」
でもあれは嗜み程度の実力ではない、サーサが不思議な顔をしているとトト爺が質問してきた。
「なんで人は剣を学ぶと思う?」
「剣術を活かした仕事に就くためや趣味や何かを守るためかしら」
「では王女が剣を学ぶ理由は?」
(王女は剣術を仕事にしない、趣味ではあんな実力にはならない、では守るため? 何を…?)
サーサは正しい答えが分かってきたような気がした、だが信じたくなかった。
「お前さんが考えている通りじゃ。シルビア様は暗殺から自分自身を守るために強くなるしかなかったんじゃよ」
ニギ国の前王妃は10年前に暗殺され、9年前に国王と現王妃が再婚し翌年王子が誕生した。シルビアは前王妃の子で、前王妃の忘れ形見である王女を国王は溺愛していた。それが現王妃には我慢ならなかった。
それからシルビアの地獄が始まった。現王妃は母として表面的には可愛がっていたが、裏では幾度となく暗殺を企てた。
小国であるニギ国の王権は強くないので、国王は有力貴族の後ろ盾がある王妃を止める力はなかった。出来る事といえば娘を愛していないように振舞うことだった。幼い王女には国の内情など分からなく、父王の拒絶に絶望した。それ以後は笑顔という仮面を被り続け、自ら剣術を鍛えて生き延びるしかなかったのである。
「周辺国がきな臭くなってきた2年前に一応ニギ国の内情も調査したんじゃ、その時シルビア王女の状況も把握した。王族にはよく有る事だが、王女ゆえに逃げることも許されず、辛かったはずじゃな」
「前向きで明るいから人族の幸せな王女だとばかり…」
何事にも前向きで明るいシルビアからは一切陰を感じることがなかった。1人遠方の国に嫁いで来たのに、それは逆におかしな事なのだと今になって気づいた。
「そもそも年頃の王女が婚約者もおらず、今回輿入れしてきたのはおかしいと思わんか?
普通なら婚約者がいて多少なりともごたつくもんじゃ」
「そういえばそうね、ごたついてたのはオーサン国側だったわ。シルビア様の婚約者はどうしたのかしら」
「元からいなかったんじゃ。王女の幸せを許せない王妃が縁談を悉く潰してた。
今回の政略結婚が成立したのは、『獣人の嫁=不幸』だと人族の王妃が考えたからじゃよ」
聞けばシルビアはあの美貌と魅惑の微笑みで『微笑みの王女』と言われていたらしい。どんな時でも微笑みを絶やさず完璧な王女だったのだ。
真実を知った今では、それが鎧だったと分かる。隙を見せず、完璧に演じなければ死が忍び寄るから。
3人の剣術稽古はまだ続いている、真剣だがどこか楽しそうに剣を合わせるシルビアの表情は笑顔だ。でもその笑顔は偽りでないように見える、獣人国でやっと仮面を外せたのだと思いたい。
サーサはシルビアを笑わそうと決めた、そして一緒に笑っていこうと。
232
あなたにおすすめの小説
私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません
藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は
愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。
夫が愛人を持つことも、
その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。
けれど――
跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。
その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。
私は悟ったのだ。
この家では、息子を守れないと。
元々、実家との間には
「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。
ならば話は簡単だ。
役目を終えた私は、離縁を選ぶ。
息子と共に、この家を去るだけ。
後悔しているようですが――
もう、私の知るところではありません。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
冷遇夫がお探しの私は、隣にいます
終日ひもの干す紐
恋愛
愛人がいるなら、さっさと言ってくれればいいのに!
妻に駆け落ちされた、傷心の辺境伯ロシェのもとへ嫁いでほしい。
シャノンが王命を受け、嫁いでから一年……とんでもない場面に立ち会ってしまう。
「サフィール……またそんなふうに僕を見つめて、かわいいね」
シャノンには冷たいの夫の、甘ったるい囁き。
扉の向こうの、不貞行為。
これまでの我慢も苦労も全て無駄になり、沸々と湧き上がる怒りを、ロシェの愛猫『アンブル』に愚痴った。
まさかそれが、こんなことになるなんて!
目が覚めると『アンブル』になっていたシャノン。
猫の姿に向けられる夫からの愛情。
夫ロシェの“本当の姿”を垣間見たシャノンは……?
* * *
他のサイトにも投稿しています。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。
だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。
理由は簡単だった。
「君は役に立ちすぎた」から。
すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、
“静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。
そこで待っていたのは――
期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。
前に出なくていい。
誰かのために壊れなくていい。
何もしなくても、ここにいていい。
「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」
婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、
何者にもならなくていいヒロインの再生と、
放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。
これは、
“役に立たなくなった”令嬢が、
ようやく自分として生き始める物語。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる