母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
166 / 199

第7章 11 リヒャルトの過去 7

しおりを挟む
「…おい、起きろ!」

突然上から踏みつけられ、リヒャルトは意識を取り戻した。

「う…」

何度か呻き、目を上げるとリヒャルトは狭い小屋の中で転がされていることに気が付いた。もう夜明けが近いのだろうか。窓からは満月が白く見え、空が少し明るくなっていた。リヒャルトの手足を縛り付けられていたはずのロープはいつの間にか解かれている。更に何故かリヒャルトは粗末な服に着替えさせられている。あちこち擦り切れたYシャツにズボン…靴はかかとがすっかり磨り減り、ところどころ破けていた。

「やっと目が覚めたようだな?」

薄暗い部屋からかろうじて人影が見えるのが分かった。

「誰だ…?お前は?それにここは一体何処だ?」

すぐ近くで水音が聞こえる。

「ああ、ここは運河の側さ」

シュッとマッチをする音が闇の中で聞こえ、一瞬男の顔を照らした。それは見たこともない人物だった。男は加えていたパイプに火を付けると、ゆっくりと煙を吐き出した。

「質問に答えろ。お前は一体誰だ?」

「生憎、私にはそれに答える義務はないよ。」

「…ッ!」

リヒャルトは一瞬の隙をついて逃げようと考えていると、まるで見透かしたかのように男は言った。

「おっと、逃げようなどとは考えないことだ」

カチャ…

金属製の音が聞こえた。見ると、男は拳銃を構えてリヒャルトに向けていたのだ。

(こ、この男…ま、まさか私を殺すつもりなのか…っ?!)

リヒャルトの背中を嫌な汗が伝う。

「不用意に動くなよ…手元が狂ってお前を撃ってしまうかも知れない」

至近距離で銃を向けられ、リヒャルトは言葉を発する事も出来なかった。

その時―

キィ~…

きしんだ音が聞こえて扉が開かれた。夜明けの光が暗い小屋の中に差し込む。

「署長、連れてきましたぜ」

ガラの悪そうな男が小屋の中に入ってきた。

「馬鹿!下手な事を口に出すなっ!」

リヒャルトに銃を向けていた男が非難めいた言葉を浴びせる。

(署長…?この男は署長…だが、一体何処の署長なのだ…?)

拳銃を向けられた切羽詰まった状況に置かれながらも、まだリヒャルトはどこか冷静だった。

「あ、す、すみません」

叱責された男はすぐに謝罪すると、突然背後を振り向くと言った。

「何をしている、お前も入れ」

すると、男の背後から別の人間が小屋の中に入ってきた。

(な、何…?)

そこにはいつの間にかリヒャルトが着ていた服を着た金髪の男性がリヒャルトの前に現れたのだ。

「お、お前は誰だ…?」

リヒャルトは声を震わせながら尋ねるが、金髪の男はそれには答えずに、署長と呼ばれた男に向き直ると言った。

「へへへ…旦那、よろしいんですか?こんな立派な服を頂いても…」

「ああ、勿論だ。お前が適任だからな。よく似合っているじゃないか?彼によく似ているしな?」

リヒャルトをチラリと見た。

「どうもありがとうよ。それで俺は一体何をすればいいんです?」

「ああ、簡単な事だ。…今から死んでもらう」

「「!!」」

その言葉に金髪男とリヒャルトは驚いた。

「おい、連れて行け!」

署長は背後にいた男に声を掛けた。

「はい」

そして金髪男を羽交い締めにした。

「お、おい!嘘だろうっ?!何故俺を殺そうとするんだよっ!」

金髪男は必死でもがくが、男の力が強いのか、振りほどくことが出来ない。

「お、おい!やめろっ!」

さすがのリヒャルトもこれには黙っていられず、男に飛びかかろうとすると後頭部に激しい衝撃を感じた。

「あ…」

後頭部を拳銃で殴打されたのだ。激しい目眩に襲われ、リヒャルトは床の上に倒れ込んだ。

「お前はそこでじっとしていろ」

署長は言うと、リヒャルトの脇を通り抜けて金髪男に近付くと思い切り腹を殴りつけた。

ドスッ!

「ガハッ!」

金髪男は苦しげな声を上げて、ガックリと力が抜けた。

「よし、意識を失ったようだな…そのまま運河に落としてしまえ」

「分かりました」

そして小屋の中で半分意識を失いかけているリヒャルトを残し、男たちは小屋を出ていった。それから少し立った頃…

バシャーン…!

大きな水音が響き渡るのをリヒャルトは耳にした―。



しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

【完結】うちの大公妃は肥満専攻です!

ariya
恋愛
ルドヴィカは一度目の人生を虚しく終える時に神に願った。  神様、私を憐れむならどうか次の生は大事な方を守れるだけの知識と力を与えてください。 そして彼女は二度目の人生を現代日本で過ごす。 内科医として充実な人生を送っていたが、不慮の事故によりあえなく命を落とす。 そして目覚めた時は一度目の生の起点となった婚約破棄の場であった。 ------------------------------------ ※突然イメージ画像が挿絵で出ることがあります。 ※ストーリー内に出しているのはなんちゃって医学です。軽く調べて、脚色を加えているので現実と異なります。調べたい方、気になる方は該当学会HPなどで調べることをおすすめします。 ※※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

婚約破棄!ついでに王子をどん底に突き落とす。

鏡おもち
恋愛
公爵令嬢パルメは、王立学院のパーティーで第一王子リュントから公開婚約破棄を突きつけられる。しかし、周囲の同情をよそにパルメは歓喜した。

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

処理中です...