25 / 221
第25話 息詰まる食卓
しおりを挟む
カチコチカチコチ……
時計の針が秒針を刻む音と、時折ナイフとフォークがカチャカチャと小さな音を立てる音しか聞こえてこない。
う…き、気まずい‥‥。
目の前に並べられた食事を口にしながら、僕はチラリと周りの様子を伺った。
今、僕がいるのはエディットの屋敷のダイニングルームだ。
大きな丸テーブルに向かって着席している僕の真正面には気難しそうな表情を浮かべたエディットの父親が座っている。
そして右側にはエディット、左側にはエディットの母親が座っている。
母親の方は余程僕の存在が気になるのか時折チラチラとこちらの様子を伺っているし、エディットもどこか緊張しているように感じる。
それにしても気詰まりだ。
誰も先ほどから一言も言葉を発していない。食事も何処を通っているのか分からないくらい緊張している自分がいる。
まずい‥‥。
いや、この場合のまずいは決して食事がまずいと言ってるわけではない。
このまま何も会話をしないで食事を続けるのは非常にまずい……と言うことだ。
何か…何か、会話をしなければ……。
そこで僕は思い切って口を開いた。
「それにしても、こちらのお屋敷の食事はとても美味しいですね。特にこのオムレツは最高です。上にかかったソースがまた絶妙ですね」
「そうですか。それは良かった」
むすっとした表情で返事をするエディットの父親の言葉は、少しも良かったようには感じられない。
「お口に合ったようですわね」
夫人‥‥台詞がまるで棒読みですよ。
「ええ。本当に美味しいですよ。ね?エディットもそう思うだろう?」
この際、エディットも巻き込むことにした。
「えっ?!あ、は、はいっ!そうですね!」
急に僕に話しかけられて余程エディットは驚いたのか、慌てて顔をこちらに向けた。
すると―。
「ゴホンッ!」
突然ロワイエ伯爵が咳払いをした。
「あ、申し訳ございません」
咄嗟に頭を下げて謝る僕。
しまった……。
ひょっとしてエディットの家では食事中の会話はマナー違反なのだろか?
何故だか伯爵は日本人として働いてた時の会社の上司を思わせる人なので、ついつい委縮してしまう自分がいる。
「いや、そうではない。アドルフ君、昨日迄君は馬に蹴られて5日間も意識を失っていたようだが……もう動いても大丈夫なのですかな?」
伯爵が話しかけて来た。
折角会話の糸口が出来たのだからここは会話が途切れないようにしないと。
「はい、そうなんです。自分でも不思議なことに、5日間もベッドの上にいたにも関わらず元気です」
自分でもそこが不思議だった。
ひょっとして、前世の記憶が突然蘇った事と何か関係があるのだろうか?
「なるほど‥‥お元気になられたなら、それで良いです」
重々しい口調で魚料理を口に運ぶ伯爵。
「それにしても随分雰囲気が変わられたようですね?初めにお会いした時はどなたか分からずに驚いてしまいましたわ」
夫人が食事の手を休めると僕に声を掛けて来た。
「ああ、それは私も感じた。雰囲気も顔つきも変わっていたからかな。正直別人では無いかと思ったくらいだ」
そして伯爵が僕を凝視してくる。その視線が‥‥何故か痛い。
けれど、今の2人の言葉で納得した。
道理で伯爵夫妻が僕を迎えてくれた時に、何故か2人とも目を見開いてこちらを見ていたのはそういう意味だったのか。
「いえ。馬に蹴られたショックで多少なりとも記憶が混濁しておりますが、正真正銘、アドルフ・ヴァレンシュタインです」
今の自分の曖昧な記憶に不安が残るけれども、ここはきっぱり言い切った。
「なるほど‥‥それで、本日開催される『ランタンフェスティバル』にエディットとどうしても一緒に行きたいと言うことですか?」
「はい、そうなんです。エディットと一緒にランタンが運河を流れる様子を見たいと思ったからです」
何しろ漫画の原作通りに話が進めば、僕は追放されてしまう身だ。ここはエディットに親切にして…好感度?を上げておかなければ。
「お父様、お願いです。どうかアドルフ様と一緒に『ランタンフェスティバル』に行かせてください」
伯爵に頭を下げるエディット。
「うむ…」
何やら考え込む伯爵に夫人が声を掛けた。
「あなた、宜しいではありませんか。以前のアドルフ様ならいざ知らず、今のアドルフ様は好青年のように見えるじゃありませんか」
夫人は本人を前に中々歯に衣着せぬ言い方をする人だ。
「…確かに…それは言えるかもしれない…。宜しい、2人で参加することを許可しましょう。その代わり‥‥」
何故かジロリと僕を見る伯爵。
「昼食後‥‥少し私のお話に付き合って頂きましょうか?」
伯爵の言葉は、有無を言わさないものに僕には感じられた――。
時計の針が秒針を刻む音と、時折ナイフとフォークがカチャカチャと小さな音を立てる音しか聞こえてこない。
う…き、気まずい‥‥。
目の前に並べられた食事を口にしながら、僕はチラリと周りの様子を伺った。
今、僕がいるのはエディットの屋敷のダイニングルームだ。
大きな丸テーブルに向かって着席している僕の真正面には気難しそうな表情を浮かべたエディットの父親が座っている。
そして右側にはエディット、左側にはエディットの母親が座っている。
母親の方は余程僕の存在が気になるのか時折チラチラとこちらの様子を伺っているし、エディットもどこか緊張しているように感じる。
それにしても気詰まりだ。
誰も先ほどから一言も言葉を発していない。食事も何処を通っているのか分からないくらい緊張している自分がいる。
まずい‥‥。
いや、この場合のまずいは決して食事がまずいと言ってるわけではない。
このまま何も会話をしないで食事を続けるのは非常にまずい……と言うことだ。
何か…何か、会話をしなければ……。
そこで僕は思い切って口を開いた。
「それにしても、こちらのお屋敷の食事はとても美味しいですね。特にこのオムレツは最高です。上にかかったソースがまた絶妙ですね」
「そうですか。それは良かった」
むすっとした表情で返事をするエディットの父親の言葉は、少しも良かったようには感じられない。
「お口に合ったようですわね」
夫人‥‥台詞がまるで棒読みですよ。
「ええ。本当に美味しいですよ。ね?エディットもそう思うだろう?」
この際、エディットも巻き込むことにした。
「えっ?!あ、は、はいっ!そうですね!」
急に僕に話しかけられて余程エディットは驚いたのか、慌てて顔をこちらに向けた。
すると―。
「ゴホンッ!」
突然ロワイエ伯爵が咳払いをした。
「あ、申し訳ございません」
咄嗟に頭を下げて謝る僕。
しまった……。
ひょっとしてエディットの家では食事中の会話はマナー違反なのだろか?
何故だか伯爵は日本人として働いてた時の会社の上司を思わせる人なので、ついつい委縮してしまう自分がいる。
「いや、そうではない。アドルフ君、昨日迄君は馬に蹴られて5日間も意識を失っていたようだが……もう動いても大丈夫なのですかな?」
伯爵が話しかけて来た。
折角会話の糸口が出来たのだからここは会話が途切れないようにしないと。
「はい、そうなんです。自分でも不思議なことに、5日間もベッドの上にいたにも関わらず元気です」
自分でもそこが不思議だった。
ひょっとして、前世の記憶が突然蘇った事と何か関係があるのだろうか?
「なるほど‥‥お元気になられたなら、それで良いです」
重々しい口調で魚料理を口に運ぶ伯爵。
「それにしても随分雰囲気が変わられたようですね?初めにお会いした時はどなたか分からずに驚いてしまいましたわ」
夫人が食事の手を休めると僕に声を掛けて来た。
「ああ、それは私も感じた。雰囲気も顔つきも変わっていたからかな。正直別人では無いかと思ったくらいだ」
そして伯爵が僕を凝視してくる。その視線が‥‥何故か痛い。
けれど、今の2人の言葉で納得した。
道理で伯爵夫妻が僕を迎えてくれた時に、何故か2人とも目を見開いてこちらを見ていたのはそういう意味だったのか。
「いえ。馬に蹴られたショックで多少なりとも記憶が混濁しておりますが、正真正銘、アドルフ・ヴァレンシュタインです」
今の自分の曖昧な記憶に不安が残るけれども、ここはきっぱり言い切った。
「なるほど‥‥それで、本日開催される『ランタンフェスティバル』にエディットとどうしても一緒に行きたいと言うことですか?」
「はい、そうなんです。エディットと一緒にランタンが運河を流れる様子を見たいと思ったからです」
何しろ漫画の原作通りに話が進めば、僕は追放されてしまう身だ。ここはエディットに親切にして…好感度?を上げておかなければ。
「お父様、お願いです。どうかアドルフ様と一緒に『ランタンフェスティバル』に行かせてください」
伯爵に頭を下げるエディット。
「うむ…」
何やら考え込む伯爵に夫人が声を掛けた。
「あなた、宜しいではありませんか。以前のアドルフ様ならいざ知らず、今のアドルフ様は好青年のように見えるじゃありませんか」
夫人は本人を前に中々歯に衣着せぬ言い方をする人だ。
「…確かに…それは言えるかもしれない…。宜しい、2人で参加することを許可しましょう。その代わり‥‥」
何故かジロリと僕を見る伯爵。
「昼食後‥‥少し私のお話に付き合って頂きましょうか?」
伯爵の言葉は、有無を言わさないものに僕には感じられた――。
21
あなたにおすすめの小説
子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!
屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。
そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。
そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。
ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。
突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。
リクハルド様に似ても似つかない子供。
そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。
愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。
ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。
ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。
二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。
時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し……
全ては、愛する人と幸せになるために。
他サイトと重複投稿しています。
全面改稿して投稿中です。
せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません
嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。
人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。
転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。
せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。
少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
竜王の「運命の花嫁」に選ばれましたが、殺されたくないので必死に隠そうと思います! 〜平凡な私に待っていたのは、可愛い竜の子と甘い溺愛でした〜
四葉美名
恋愛
「危険です! 突然現れたそんな女など処刑して下さい!」
ある日突然、そんな怒号が飛び交う異世界に迷い込んでしまった橘莉子(たちばなりこ)。
竜王が統べるその世界では「迷い人」という、国に恩恵を与える異世界人がいたというが、莉子には全くそんな能力はなく平凡そのもの。
そのうえ莉子が現れたのは、竜王が初めて開いた「婚約者候補」を集めた夜会。しかも口に怪我をした治療として竜王にキスをされてしまい、一気に莉子は竜人女性の目の敵にされてしまう。
それでもひっそりと真面目に生きていこうと気を取り直すが、今度は竜王の子供を産む「運命の花嫁」に選ばれていた。
その「運命の花嫁」とはお腹に「竜王の子供の魂が宿る」というもので、なんと朝起きたらお腹から勝手に子供が話しかけてきた!
『ママ! 早く僕を産んでよ!』
「私に竜王様のお妃様は無理だよ!」
お腹に入ってしまった子供の魂は私をせっつくけど、「運命の花嫁」だとバレないように必死に隠さなきゃ命がない!
それでも少しずつ「お腹にいる未来の息子」にほだされ、竜王とも心を通わせていくのだが、次々と嫌がらせや命の危険が襲ってきて――!
これはちょっと不遇な育ちの平凡ヒロインが、知らなかった能力を開花させ竜王様に溺愛されるお話。
設定はゆるゆるです。他サイトでも重複投稿しています。
愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。
人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。
それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。
嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。
二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。
するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる