罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
2 / 98

2  森の中の第二離宮

しおりを挟む
 森を抜けると、目の前に無数の松明に照らされた石造りの城が浮かび上がっていた。
 あの城が今回クラウスが私を呼び出した第二離宮だ。城門は閉ざされ、門番の兵士が2名で扉を守っている。

「着いたようね……」

 私の呟きと同時に、馬車は止り御者のサムが扉を開けてくれた。

「ユリアナ様。第二離宮に到着致しました」

 今にも雨が降り出しそうな夜空の下、馬車から降りると御者のサムに声を掛けた。

「ありがとう、サム。悪いけどここで待っていてくれるかしら。きっと今回もすぐに話は終わると思うから。1時間以内には戻るわ」

「分かりました。しかし相変わらず身勝手な王子ですね。勝手に呼びつけて30分も経たないうちに追い返すのですから」

 サムが眉をしかめて私を見る。彼は18歳の若者だ。だからなのか、相手が王族であろうと私の前で平気で不平不満を言う。

「気にしても仕方ないわ。いつものことだから。それでは行ってくるわね」

 サムに背を向けると、私は門番のいる城門へと向かった。



「お待ちしておりました。ユリアナ様」
「クラウス殿下がお待ちです」

 2人の門番は私を見ると敬礼し、鉄製の城門を開けてくれた。

「ありがとう」

 門をくぐり抜けようとした時、1人の門番が声を掛けてきた。

「ところでユリアナ様、剣は今お持ちなのでしょうか?」

「え?剣?」

 妙なことを尋ねてくる門番だ。今迄城に入るときに剣を持っているかなど聞かれたことが無いのに」

「いいえ。持ってないわ。そもそも剣を持っているように見える?」

 今の私はつま先まで隠れているドレス姿である。
 普段の私はあまりロングドレスを着用することは無い。けれど王族であるクラウスと会うときだけは、礼儀を尽くす為にロングドレスを着用することにしていた。

「そうですね。剣は所持されていないようですね。妙なことを尋ねてしまい、申し訳ございませんでした」

「いえ……?別に構わないけど……?」

 訝しげに思いながら、私は城門をくぐり抜け、目の前にそびえ立つ城を目指した。



「このような夜分にようこそ、おいで下さいました」

 城の大扉の前で私を待っていたのは、この第二離宮で執事を務める顔なじみの初老の男性だった。

「クラウス殿下はもういらしているのかしら?」

「はい。すでに大広間にてユリアナ様をお待ちになっております。御案内致しますので、こちらへどうぞ」

 恭しく頭を下げる執事。

「ありがとう」

 そして私は執事に連れられて、大広間へと向かった。



 松明で照らされた長い廊下を歩いていると、突然雷のゴロゴロと鳴り響く音が城内に響き渡ってきた。

「どうやら雨になりそうですね」

 前を歩く執事が私に声を掛けてきた。

「ええ、そうですね……」

 サムは大丈夫だろうか……。私は彼の心配をしながら、これから対面するべきクラウスのことを思い、再び憂鬱な気分がこみ上げてくるのだった。



「こちらの大広間にてクラウス様がお待ちしております」

 白い大きな扉の前に立つと執事は扉を開けた。

 ギィィ~……

 重い扉の開く音と同時に目の前に大広間が現れ、私は中へと足を踏み入れた。


 そして私は見た。

 大広間の中心に、クラウスと……今迄見たことのない女性が彼の側に寄り添うように立っている姿を――。


 



しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...