4 / 72
第4話 私の作戦
しおりを挟む
翌朝、日も明けぬ夜明け前―
「フェリシアよ…本当にこんなボロ馬車でコネリー家へ向かうのかい?」
父は屋敷の前に現れた馬車を見て、愕然とした表情で私を見た。そしてボロ馬車と呼ばれた馬車に乗る御者はバツが悪そうにしている。
「お姉ちゃん!どうしてこんなしようもない馬車を用意したのよ?内装も酷くて座りり心地が悪そうだし、外装だってところどころ剥げているじゃないの。こんな馬車であの敵地に戻るつもりなの?ここは我が家の財力を見せつける為にも二頭立ての金ぴか馬車にするべきよ?」
妹のマリーは生まれたばかりのを息子を母に任せ、産後間もない身体を気遣って車いすで屋敷の外まで迎えに出てくれていたが、用意された馬車を見て憤慨している。
「フェリシア、貴女に言われた通りこの馬車を用意したけど、こんな乗り心地の悪い馬車でコネリー家へ向かうのは無理があるわ」
母も心配そうだ。だけどこれは私の秘策の一つ。
「お父さん、お母さん、そしてマリー。私は堂々とコネリー家に帰るわけじゃないからこれくらいの馬車がちょうどいいのよ。だいたい普通に帰ったら追い帰されるだけじゃなく、離婚届を郵送するように言ってくるに決まってるじゃない」
「それはそうだけど‥」
マリーはそれでも目の前の馬車を見て不満そうに見ている。
気の毒なのはボロ馬車に乗る御者の男性だ。
「すみませんすみませんすみません…」
彼は小声で謝罪を続け、小刻みに震えて縮まっている。
「まあまあ、皆取り合えず落ち着いて。実はもう1台馬車を用意してあるのよ。あ、そろそろ来る頃ね?」
すると、遠くからガラガラと馬車が近づいてくる音が聞こえ始め、立派な一等車の馬車がこちらへ向かって走ってきた。そして私たちの目の前で止まった。
「お待たせ致しました。」
ハンサムな御者の男性が恭しく挨拶をする。やはり一等車の御者は顔も一等級だ。
「コネリー家に到着する少し前まではこっちの馬車で向かうつもりなの。それで直前にこっちの馬車に乗り換えてコネリー家へ向かう事にするのよ」
「え?フェリシア。一体どういうことなのかしら?」
母は首を傾げる。そこで私は説明した。
「私はね、内緒でコネリー家へ乗り込むつもりなのよ。私だとばれないように変装して、それで馬車もわざとボロ馬車にしたの。あ、ごめんなさい。ボロ馬車なんて言ってしまって」
私は此方をじっと見つめているボロ馬車…もとい、みすぼらしい?馬車に乗る御者の男性に謝罪した。
「なるほど、だからわざとボロ馬車を借りさせたのね?我が家の馬車を使わないのもその為だったの…」
母が納得したようにうなずく。
「どうりでお姉ちゃんの来ている洋服が随分みすぼらしいと思ったわ。それでどんな方法でコネリー家に乗り込むの?」
「それはね…」
私は3人を呼び寄せて耳元で説明した―。
****
「皆、それでは行って来ます」
一等車の馬車に乗り込むと私は窓から顔を出した。
「頼んだよ、フェリシア。何としても爵位を奪われないように頑張っておくれ」
父が窓から伸ばした私の手を握りしめると言った。
「ええ、任せて下さい。」
「お姉ちゃん。ファイトよ!」
マリーが激励してくれる。
「お母さん。手紙は必要になるまで保管しておいてね?」
私は母に頼んだ。
「ええ、分ったわ。フェリシア」
母は頷いてくれた。
「御者さん。では出発して下さい」
私は御者に頼んだ。
「はい、かしこまりました。行きます!」
御者の掛け声と共に、馬車は走り出した。そしてその後ろをボロ馬車が付いていく。
「みんなー行ってきまーすっ!!」
馬車の窓から身を乗り出し、私はハンカチを振って皆に挨拶をする。父も母もマリーも皆が手を振って見送ってくれる。
やがて屋敷が見えなくなると私は椅子に座り、デニムからの手紙を再度読み直した。
待ってなさい、愚かなデニム。そしてお義父様、お義母様。
私は馬車の中で闘志をみなぎらせるのだった―。
「フェリシアよ…本当にこんなボロ馬車でコネリー家へ向かうのかい?」
父は屋敷の前に現れた馬車を見て、愕然とした表情で私を見た。そしてボロ馬車と呼ばれた馬車に乗る御者はバツが悪そうにしている。
「お姉ちゃん!どうしてこんなしようもない馬車を用意したのよ?内装も酷くて座りり心地が悪そうだし、外装だってところどころ剥げているじゃないの。こんな馬車であの敵地に戻るつもりなの?ここは我が家の財力を見せつける為にも二頭立ての金ぴか馬車にするべきよ?」
妹のマリーは生まれたばかりのを息子を母に任せ、産後間もない身体を気遣って車いすで屋敷の外まで迎えに出てくれていたが、用意された馬車を見て憤慨している。
「フェリシア、貴女に言われた通りこの馬車を用意したけど、こんな乗り心地の悪い馬車でコネリー家へ向かうのは無理があるわ」
母も心配そうだ。だけどこれは私の秘策の一つ。
「お父さん、お母さん、そしてマリー。私は堂々とコネリー家に帰るわけじゃないからこれくらいの馬車がちょうどいいのよ。だいたい普通に帰ったら追い帰されるだけじゃなく、離婚届を郵送するように言ってくるに決まってるじゃない」
「それはそうだけど‥」
マリーはそれでも目の前の馬車を見て不満そうに見ている。
気の毒なのはボロ馬車に乗る御者の男性だ。
「すみませんすみませんすみません…」
彼は小声で謝罪を続け、小刻みに震えて縮まっている。
「まあまあ、皆取り合えず落ち着いて。実はもう1台馬車を用意してあるのよ。あ、そろそろ来る頃ね?」
すると、遠くからガラガラと馬車が近づいてくる音が聞こえ始め、立派な一等車の馬車がこちらへ向かって走ってきた。そして私たちの目の前で止まった。
「お待たせ致しました。」
ハンサムな御者の男性が恭しく挨拶をする。やはり一等車の御者は顔も一等級だ。
「コネリー家に到着する少し前まではこっちの馬車で向かうつもりなの。それで直前にこっちの馬車に乗り換えてコネリー家へ向かう事にするのよ」
「え?フェリシア。一体どういうことなのかしら?」
母は首を傾げる。そこで私は説明した。
「私はね、内緒でコネリー家へ乗り込むつもりなのよ。私だとばれないように変装して、それで馬車もわざとボロ馬車にしたの。あ、ごめんなさい。ボロ馬車なんて言ってしまって」
私は此方をじっと見つめているボロ馬車…もとい、みすぼらしい?馬車に乗る御者の男性に謝罪した。
「なるほど、だからわざとボロ馬車を借りさせたのね?我が家の馬車を使わないのもその為だったの…」
母が納得したようにうなずく。
「どうりでお姉ちゃんの来ている洋服が随分みすぼらしいと思ったわ。それでどんな方法でコネリー家に乗り込むの?」
「それはね…」
私は3人を呼び寄せて耳元で説明した―。
****
「皆、それでは行って来ます」
一等車の馬車に乗り込むと私は窓から顔を出した。
「頼んだよ、フェリシア。何としても爵位を奪われないように頑張っておくれ」
父が窓から伸ばした私の手を握りしめると言った。
「ええ、任せて下さい。」
「お姉ちゃん。ファイトよ!」
マリーが激励してくれる。
「お母さん。手紙は必要になるまで保管しておいてね?」
私は母に頼んだ。
「ええ、分ったわ。フェリシア」
母は頷いてくれた。
「御者さん。では出発して下さい」
私は御者に頼んだ。
「はい、かしこまりました。行きます!」
御者の掛け声と共に、馬車は走り出した。そしてその後ろをボロ馬車が付いていく。
「みんなー行ってきまーすっ!!」
馬車の窓から身を乗り出し、私はハンカチを振って皆に挨拶をする。父も母もマリーも皆が手を振って見送ってくれる。
やがて屋敷が見えなくなると私は椅子に座り、デニムからの手紙を再度読み直した。
待ってなさい、愚かなデニム。そしてお義父様、お義母様。
私は馬車の中で闘志をみなぎらせるのだった―。
275
あなたにおすすめの小説
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さくら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
成人したのであなたから卒業させていただきます。
ぽんぽこ狸
恋愛
フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。
すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。
メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。
しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。
それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。
そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。
変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。
冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。
ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。
事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
「予備」として連れてこられた私が、本命を連れてきたと勘違いした王国の滅亡フラグを華麗に回収して隣国の聖女になりました
平山和人
恋愛
王国の辺境伯令嬢セレスティアは、生まれつき高い治癒魔法を持つ聖女の器でした。しかし、十年間の婚約期間の末、王太子ルシウスから「真の聖女は別にいる。お前は不要になった」と一方的に婚約を破棄されます。ルシウスが連れてきたのは、派手な加護を持つ自称「聖女」の少女、リリア。セレスティアは失意の中、国境を越えた隣国シエルヴァード帝国へ。
一方、ルシウスはセレスティアの地味な治癒魔法こそが、王国の呪いの進行を十年間食い止めていた「代替の聖女」の役割だったことに気づきません。彼の連れてきたリリアは、見かけの派手さとは裏腹に呪いを加速させる力を持っていました。
隣国でその真の力を認められたセレスティアは、帝国の聖女として迎えられます。王国が衰退し、隣国が隆盛を極める中、ルシウスはようやくセレスティアの真価に気づき復縁を迫りますが、後の祭り。これは、価値を誤認した愚かな男と、自分の力で世界を変えた本物の聖女の、代わりではなく主役になる物語です。
婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました
瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。
そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!
山田 バルス
恋愛
王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。
名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。
だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。
――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。
同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。
そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。
そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。
レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。
そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる