3 / 72
第3話 前夜
しおりを挟む
「フェリシアよ…いつ、コネリー家へ出発するのだい?」
自室に戻った私を父が追いかけて来て、トランクケースに荷物を入れている私の傍で尋ねてきた。
「明日には出発するつもりよ。それより、ねえ見てお父さん」
私は長い黒髪のウィッグを頭にかぶせて度の入っていない眼鏡をかけてみた。
「ど、どうしたんだい?そのウィッグと眼鏡は」
「これはね、いざという時の為に変装用として用意しておいたのよ。どう?お父さんの目から見て、私だって分かる?」
「いや、全然分からないな。とても良く似合っているよ…ってそんな事言ってる場合じゃないだろう?どうしてこんなものを持っているんだい?」
「それはね、ずっとデニムの浮気を疑っていたのよ。だからいざというときは変装して後をつけようと思っていたのだけど、別の使い道が出来たわ」
「何だい?別の使い道というのは?」
父が首を傾げて尋ねてくる。
「フフフ…それはね‥‥」
私は父に自分の計画の一部を説明した―。
****
その日の夜―
「お姉さん!離婚届を郵送されてきたって本当なのですかっ?!」
マリーの部屋で赤ちゃんを抱っこさせてもらっていると、仕事から帰宅してきたトマスがやってきた。
「あら、お帰りさない、トマス。ええ、そうなのよ。まさかデニムがこんな手に打って出るとは思わなかったわ」
私はマリーに赤ちゃんを渡すと義理の弟のトマスに挨拶した。
「何をのんきな事を言ってるんですか!このままおとなしく離婚届にサインするつもりじゃないでしょうね?」
トマスの言葉にマリーが反応した。
「何言ってるのトマス。あんなどうしようもない家柄とは離婚した方がいいのよ。離婚届にサインして、剃刀の刃を入れてさっさと郵送するべきなのよ」
「そんなの駄目だよ!俺は伯爵家の後ろ盾で仕事を貰って商売をしているんだから…お義姉さんに離婚されたら商売が…」
「トマスッ!貴方お姉ちゃんの幸せよりも自分の利益を追求するつもり?!」
すると…
「フエエエエ‥‥」
マリーが抱っこしている甥っ子が泣き始めてしまった。
「ちょっと!ストップ!私の為に夫婦喧嘩勃発は駄目よ?!」
「「はい…」」
シュンとなる2人。
「大丈夫、2人とも安心して。何とか方法を考えてみるから。とりあえず明日の朝にはコネリー家へ向かって出発するわ」
「お姉ちゃん…大丈夫なの?」
マリーが我が子をあやしながら心配そうに声を掛けてきた。
「そうですよ…1人で敵地に乗り込んで平気ですか?」
トーマスの言葉に私は言った。
「何言ってるの?コネリー家は敵地じゃないわ。私の家だもの。それに敵はね、あの屋敷には3人だけよ?残り全員は皆味方なんだから」
そう、私は万一の為に入念に下準備をしてきたのだ。
「さてと‥‥私はそろそろおいとまするわ。それじゃあね」
私は2人に手を振ると夫婦の部屋を後にした。後はお母さんに挨拶をして…明日の為に寝ることにしよう。
****
コンコン
母の部屋のドアをノックした。
「誰かしら?」
「私、フェリシアよ」
「お入りさない」
ガチャ…
扉を開けると、そこは母の書斎だった。茶色の髪を高く結い上げた母は書類に目を通していたが、私が入ってくると顔を上げた。
「フェリシア…困ったことになったわね」
母はため息をつきながら眼鏡を外した。
「あなたたち夫婦がいつまでたっても『白い結婚』状態だという事を聞かされてから、いつかこんな日が来るんじゃないかと思って気が気でなかったけれども…」
眉間を指でつまみ、深いため息をつく母に私は言った。
「お母さん、あの手紙は全部でっち上げよ?」
「そんな事分かってるわ。お前が夫婦関係で悩んでいる手紙は毎週貰っていたから」
「あの手紙…全部とってあるわよね?」
「ええ、勿論。貴女に言われていたからね」
「あとで大事な証拠になるから絶対捨てないでおいてね?」
私は母に念を押した。
「ええ、分かったわ。」
「それじゃ、おやすみなさい」
頭を下げて出て行こうとする私を母は呼び止めた。
「フェリシア…何か手伝えることはある?」
私は少しだけ考えると言った。
「明日の朝、古くて安物っぽい馬車を1台用意しておいて?」
「え?」
首を傾げる母にそれだけ伝えると、私は母の書斎を後にした―。
自室に戻った私を父が追いかけて来て、トランクケースに荷物を入れている私の傍で尋ねてきた。
「明日には出発するつもりよ。それより、ねえ見てお父さん」
私は長い黒髪のウィッグを頭にかぶせて度の入っていない眼鏡をかけてみた。
「ど、どうしたんだい?そのウィッグと眼鏡は」
「これはね、いざという時の為に変装用として用意しておいたのよ。どう?お父さんの目から見て、私だって分かる?」
「いや、全然分からないな。とても良く似合っているよ…ってそんな事言ってる場合じゃないだろう?どうしてこんなものを持っているんだい?」
「それはね、ずっとデニムの浮気を疑っていたのよ。だからいざというときは変装して後をつけようと思っていたのだけど、別の使い道が出来たわ」
「何だい?別の使い道というのは?」
父が首を傾げて尋ねてくる。
「フフフ…それはね‥‥」
私は父に自分の計画の一部を説明した―。
****
その日の夜―
「お姉さん!離婚届を郵送されてきたって本当なのですかっ?!」
マリーの部屋で赤ちゃんを抱っこさせてもらっていると、仕事から帰宅してきたトマスがやってきた。
「あら、お帰りさない、トマス。ええ、そうなのよ。まさかデニムがこんな手に打って出るとは思わなかったわ」
私はマリーに赤ちゃんを渡すと義理の弟のトマスに挨拶した。
「何をのんきな事を言ってるんですか!このままおとなしく離婚届にサインするつもりじゃないでしょうね?」
トマスの言葉にマリーが反応した。
「何言ってるのトマス。あんなどうしようもない家柄とは離婚した方がいいのよ。離婚届にサインして、剃刀の刃を入れてさっさと郵送するべきなのよ」
「そんなの駄目だよ!俺は伯爵家の後ろ盾で仕事を貰って商売をしているんだから…お義姉さんに離婚されたら商売が…」
「トマスッ!貴方お姉ちゃんの幸せよりも自分の利益を追求するつもり?!」
すると…
「フエエエエ‥‥」
マリーが抱っこしている甥っ子が泣き始めてしまった。
「ちょっと!ストップ!私の為に夫婦喧嘩勃発は駄目よ?!」
「「はい…」」
シュンとなる2人。
「大丈夫、2人とも安心して。何とか方法を考えてみるから。とりあえず明日の朝にはコネリー家へ向かって出発するわ」
「お姉ちゃん…大丈夫なの?」
マリーが我が子をあやしながら心配そうに声を掛けてきた。
「そうですよ…1人で敵地に乗り込んで平気ですか?」
トーマスの言葉に私は言った。
「何言ってるの?コネリー家は敵地じゃないわ。私の家だもの。それに敵はね、あの屋敷には3人だけよ?残り全員は皆味方なんだから」
そう、私は万一の為に入念に下準備をしてきたのだ。
「さてと‥‥私はそろそろおいとまするわ。それじゃあね」
私は2人に手を振ると夫婦の部屋を後にした。後はお母さんに挨拶をして…明日の為に寝ることにしよう。
****
コンコン
母の部屋のドアをノックした。
「誰かしら?」
「私、フェリシアよ」
「お入りさない」
ガチャ…
扉を開けると、そこは母の書斎だった。茶色の髪を高く結い上げた母は書類に目を通していたが、私が入ってくると顔を上げた。
「フェリシア…困ったことになったわね」
母はため息をつきながら眼鏡を外した。
「あなたたち夫婦がいつまでたっても『白い結婚』状態だという事を聞かされてから、いつかこんな日が来るんじゃないかと思って気が気でなかったけれども…」
眉間を指でつまみ、深いため息をつく母に私は言った。
「お母さん、あの手紙は全部でっち上げよ?」
「そんな事分かってるわ。お前が夫婦関係で悩んでいる手紙は毎週貰っていたから」
「あの手紙…全部とってあるわよね?」
「ええ、勿論。貴女に言われていたからね」
「あとで大事な証拠になるから絶対捨てないでおいてね?」
私は母に念を押した。
「ええ、分かったわ。」
「それじゃ、おやすみなさい」
頭を下げて出て行こうとする私を母は呼び止めた。
「フェリシア…何か手伝えることはある?」
私は少しだけ考えると言った。
「明日の朝、古くて安物っぽい馬車を1台用意しておいて?」
「え?」
首を傾げる母にそれだけ伝えると、私は母の書斎を後にした―。
357
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。
貴方達から離れたら思った以上に幸せです!
なか
恋愛
「君の妹を正妻にしたい。ナターリアは側室になり、僕を支えてくれ」
信じられない要求を口にした夫のヴィクターは、私の妹を抱きしめる。
私の両親も同様に、妹のために受け入れろと口を揃えた。
「お願いお姉様、私だってヴィクター様を愛したいの」
「ナターリア。姉として受け入れてあげなさい」
「そうよ、貴方はお姉ちゃんなのよ」
妹と両親が、好き勝手に私を責める。
昔からこうだった……妹を庇護する両親により、私の人生は全て妹のために捧げていた。
まるで、妹の召使のような半生だった。
ようやくヴィクターと結婚して、解放されたと思っていたのに。
彼を愛して、支え続けてきたのに……
「ナターリア。これからは妹と一緒に幸せになろう」
夫である貴方が私を裏切っておきながら、そんな言葉を吐くのなら。
もう、いいです。
「それなら、私が出て行きます」
……
「「「……え?」」」
予想をしていなかったのか、皆が固まっている。
でも、もう私の考えは変わらない。
撤回はしない、決意は固めた。
私はここから逃げ出して、自由を得てみせる。
だから皆さん、もう関わらないでくださいね。
◇◇◇◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです。
幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
一度完結したのですが、続編を書くことにしました。読んでいただけると嬉しいです。
いつもありがとうございます。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる