里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
35 / 72

第35話 私の脅迫

しおりを挟む
 コネリーファミリーが食事をしているダイニングルームに到着すると観葉植物の影からチラリと覗き見してみた。そこで食事をしているのは寝坊助デニムと寝坊助義母の2人だった。

「フフフ…いるわ。何も知らずに呑気に食事しているわ。やっぱりお義父様はいないわね。仕事で領地に出かけたのね」

それにしても本当にデニムは情けない男だ。25歳の成人男性でありながら、一度も仕事をしたことが無いのだから。そんなクズ男に育てたのは他でも無い義母である。義父はもともとコネリー家の執事を努めており、大旦那様の命令でいやいや義母と結婚させられた気の毒な婿旦那である。だからこの屋敷の当主でありながら、義父は何の権限も無いのである。本当に気の毒な人物だ。

 その時、給仕をしているメイドと目が合った。するとメイドはデニム達に気付かれないようにそそくさとやってくると言った。

「奥様、後は最後にデザートをお出しするだけです。デザートはプディングでワゴンの上に乗っております。後はよろしくお願いしますね。私は厨房に戻ります」

「ええ、大丈夫よ。任せて頂戴!」

そして私はメイドとチェンジすると、何食わぬ顔でテーブル近くにあるワゴンの側によると、その前で待機した。デニムは背中を向けて座っているからまだ私の存在に気づいていない。
それにしても…私は遠目からデニムの食している料理を覗き見してみた。相変わらず一切の野菜が乗っていない。彼が唯一食べられる野菜といえば、かぼちゃ、さつまいも、じゃがいも、ミニトマトのみなのだ。おまけに魚は大嫌い。全く偏食にもほどがある。
すると義母と目が合ってしまった。

「さあ、そろそろ食事が終わるからデザートを出して頂戴」

「はい、かしこまりました」

ワゴンの上からプディングを出すと、トレーにのせて2人の前に静かに置く。

「どうぞ、大奥様、デニム様」

するとデニムが私の声に気づき、顔を上げた。

「あ!お、お前今度はここで給仕をしているのかっ?!」

「はい、作用でございます。デニム様」

すると義母が言った。

「おや?デニム。お前が使用人の顔を覚えるなんて珍しいわね」

「ああ、当然だ!このメイドは兎に角失礼な奴なんだ!」

忌々しげに私に言う。

「まあ?メイドのくせに貴方に失礼な事をしたというのね?一体どんな無礼を働いたのかしら?」

義母はギロリと私を睨む。卑怯者デニムは義母にチクるつもりだな?ならば私にも考えがある。

「あら?デニム様。肩に糸くずが付いていますよ?お取りしますね」

そして肩についたゴミ糸くずを取るフリをしながら耳元で囁いた。

「いいんですか?掛け賭博の事をバラしても」

「ヒッ!!」

途端にデニムの顔が青ざめる。

「あら?デニム。一体どうしたの?」

義母が怪訝そうな顔でプディングを食べながら尋ねてきた。

「 な、なんでも無い!」

「それでデニム。一体どんな失礼な事をこのメイドはしたのかしら?」

するとデニムは激しく首を振りながら言う。

「え?あ、いや。こ、このメイドは失礼な事を何一つしでかさない素晴らしいメイドだって言いたかったんだ!」

おおっ!あの阿呆デニムがとっさに言い訳を考えついた!余程掛け賭博のことをバラされたくないのだろう。

「あら、そういう事だったのね?」

義母が納得した。

「でもそんなに有能なメイドならお前の専属メイドにすればいいじゃないの」

「「えっ?!」」

義母のとんでもない提案に私とデニムの声がハモってしまった。

「い、いや!俺はフレディさえそばにいてくれればいい!」

デニムは余程私を側に置いておきたくないのか、はたから聞けば誤解されそうな台詞を口にする。

「あら、そうなのね?まあ別に構わないけど…それより早く食事をすませなさい。今日はこの後、あの忌々しい嫁のところに行くんでしょう?」

義母の言葉に私はピクリと反応する。ほほう…私の事を忌々しいと思っていた訳だな?

「ああ、きっと何も言って来ないのは余程離婚届がショックだったんだろう。何しろあの女は俺にベタぼれだからな。泣いてすがりついてくるだろうが、知った事か。子供がいないことを理由に強引に離婚届にサインさせてやる」

デニムの言葉を聞いた途端、思わず手にしていたトレーで頭をぶん殴ってやりたい衝動に駆られてしまったが、必死で理性を押し殺す。
どうせ、デニムは私の実家に行くことが出来ないのだから。

この後、馬車が1台も無い事を知った時…デニムがどんな反応を示すのか。

今から楽しみで仕方ない。

私はトレーを握りしめながら心のなかでほくそ笑んだ―。





しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さくら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。 広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。 「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」 震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。 「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」 「無……属性?」

「予備」として連れてこられた私が、本命を連れてきたと勘違いした王国の滅亡フラグを華麗に回収して隣国の聖女になりました

平山和人
恋愛
王国の辺境伯令嬢セレスティアは、生まれつき高い治癒魔法を持つ聖女の器でした。しかし、十年間の婚約期間の末、王太子ルシウスから「真の聖女は別にいる。お前は不要になった」と一方的に婚約を破棄されます。ルシウスが連れてきたのは、派手な加護を持つ自称「聖女」の少女、リリア。セレスティアは失意の中、国境を越えた隣国シエルヴァード帝国へ。 一方、ルシウスはセレスティアの地味な治癒魔法こそが、王国の呪いの進行を十年間食い止めていた「代替の聖女」の役割だったことに気づきません。彼の連れてきたリリアは、見かけの派手さとは裏腹に呪いを加速させる力を持っていました。 隣国でその真の力を認められたセレスティアは、帝国の聖女として迎えられます。王国が衰退し、隣国が隆盛を極める中、ルシウスはようやくセレスティアの真価に気づき復縁を迫りますが、後の祭り。これは、価値を誤認した愚かな男と、自分の力で世界を変えた本物の聖女の、代わりではなく主役になる物語です。

婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました

瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。 そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。

プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!

山田 バルス
恋愛
 王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。  名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。 だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。 ――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。  同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。  そんなある日、ベアトリスは前世を思い出した。この世界はかつて病院に入院していた時の乙女ゲームの世界だと。  そして、自分は悪役令嬢だと。ゲームのシナリオをぶち壊すために、ベアトリスは立ち上がった。  レベルを上げに励み、頂点を極めた。これでゲームシナリオはぶち壊せる。  そう思ったベアトリスに真の目的が見つかった。前世では病院食ばかりだった。好きなものを食べられずに死んでしまった。だから、この世界では美味しいものを食べたい。ベアトリスの食への欲求を満たす旅が始まろうとしていた。

処理中です...