368 / 566
第4章 34 エドガーとヒルダ
しおりを挟む
「カミラ…私も時期に『ロータス』へ戻るから…」
ヒルダは自室の窓からカミラが馬車に乗って去って行くのを眺めていた。そして馬車が完全に見えなくなるとヒルダは朝の仕度を始めた―。
午前8時―
濃紺のワンピースを身につけ、全ての身支度を整え終わった頃にヒルダの部屋の扉がノックされる音が聞こえた。
コンコン
「ヒルダ、俺だ。今大丈夫か?」
それはエドガーの声だった。
「はい、お兄様大丈夫です。どうぞ」
ドレッサーの前に座ったヒルダが声を掛けた。
カチャリ…
扉が開く音と共にエドガーが姿を見せた。そして窓際にいるヒルダの姿を見た。背後から太陽の光を受けたヒルダの金色の髪がキラキラと輝いている。その姿は本当に美しく、エドガーは思わず足を止めて見惚れてしまった。
「お兄様?」
ヒルダが首を傾げてエドガーをみた。
「あ、す・すまん。ヒルダ、支度が全て終わったんだな。まさか1人で全部済ませたのか?」
エドガーはヒルダのそばに近づくと尋ねた。
「はい、そうです」
「誰か…メイドを呼べば良かったのに」
しかしヒルダは言う。
「いいえ、大丈夫です。『ロータス』の暮らしでは当たり前の事ですから。炊事洗濯も全て1人で出来ます」
「そうだったな。そういえばヒルダは料理も出来るんだった。俺もいつかヒルダの手料理を食べてみたいな」
「え…?お兄様…?」
ヒルダが怪訝そうな顔をしたのを見て、エドガーは思わず無意識のうちに自分の本音を語ってしまった事に気づき、焦った。
「い、いや。今のは何でも無い、忘れてくれ」
しかし、ヒルダは言う。
「はい…私のつたない料理で良ければ…。フィールズ家の用に立派な食事は作れませんけど。」
「本当か?ありうがとう。それでヒルダ、今から食事に行こうと思って誘いに来たんだ。どうだ?何か食べられそうか?」
しかしヒルダは首を振る。
「すみません、お兄様。私まだ食欲が…」
「でもヒルダ。それでは本当に今に倒れてしまう。俺も父も、そして母も…皆ヒルダが心配なんだ。どうか一緒にダイニングルームに来てくれ」
エドガーは頭を下げて懇願した。こうでもしなければ本当にヒルダは朝食を抜いてしまいそうだったからだ。
「わ、分かりました…お兄様」
ヒルダはドレッサーの椅子から立ち上がろうとするとエドガーが手を差し伸べてきた。
「俺につかまるといい」
「ありがとうございます…」
ヒルダはエドガーの上に手を置いた。
「よし、行こう」
エドガーはヒルダの小さな手を握りしめた。
エドガーがヒルダの手を取り、長い廊下を歩いていると何人もの使用人たちにすれ違った。彼らは皆ヒルダとエドガーの姿を見るとその場に立ち止まって深々と頭を下げる。ヒルダにとって2年前まではそれらの生活が当たり前だったが、今となっては違う。言いしれぬ違和感を感じ、思わず俯いてしまった。
「どうした、ヒルダ」
ヒルダの手を繋ぎ、隣を歩いていたエドガーが声を掛けてきた。
「いいえ、何でもありません」
そんなヒルダの横顔をみながらエドガーは尋ねた。
「ヒルダ、いつルドルフの墓へ行きたい?」
するとヒルダはポツリと言った。
「もし、お兄様の都合がつくなら…朝食後、すぐにでも行きたいです。ご迷惑でなければ…無理でしたらお兄様のお時間に合わせます」
「ヒルダ…」
(どうしてそんなに自分の気持ちを押し殺すのだろう?もっと我儘を言ってもいいのに…)
エドガーはアンナとヒルダの性格の違いに驚いていた。アンナはまだまだ子供で無邪気だが、ヒルダは人一倍苦労をしてきたせいか、ずっと大人で達観していた。
エドガーはヒルダの手を強く握りしめると言った。
「ヒルダ、自分の気持ちを押し殺すな。せめて…俺には素直に自分の気持ちを伝えてくれないか?ヒルダは俺にとって…大切な妹だからどんな希望でも叶えてやりたいと思っている」
「お兄様…ありがとうございます」
ポツリと呟いたヒルダの目から、再びひとしずくの涙がこぼれ落ちるのだった―。
ヒルダは自室の窓からカミラが馬車に乗って去って行くのを眺めていた。そして馬車が完全に見えなくなるとヒルダは朝の仕度を始めた―。
午前8時―
濃紺のワンピースを身につけ、全ての身支度を整え終わった頃にヒルダの部屋の扉がノックされる音が聞こえた。
コンコン
「ヒルダ、俺だ。今大丈夫か?」
それはエドガーの声だった。
「はい、お兄様大丈夫です。どうぞ」
ドレッサーの前に座ったヒルダが声を掛けた。
カチャリ…
扉が開く音と共にエドガーが姿を見せた。そして窓際にいるヒルダの姿を見た。背後から太陽の光を受けたヒルダの金色の髪がキラキラと輝いている。その姿は本当に美しく、エドガーは思わず足を止めて見惚れてしまった。
「お兄様?」
ヒルダが首を傾げてエドガーをみた。
「あ、す・すまん。ヒルダ、支度が全て終わったんだな。まさか1人で全部済ませたのか?」
エドガーはヒルダのそばに近づくと尋ねた。
「はい、そうです」
「誰か…メイドを呼べば良かったのに」
しかしヒルダは言う。
「いいえ、大丈夫です。『ロータス』の暮らしでは当たり前の事ですから。炊事洗濯も全て1人で出来ます」
「そうだったな。そういえばヒルダは料理も出来るんだった。俺もいつかヒルダの手料理を食べてみたいな」
「え…?お兄様…?」
ヒルダが怪訝そうな顔をしたのを見て、エドガーは思わず無意識のうちに自分の本音を語ってしまった事に気づき、焦った。
「い、いや。今のは何でも無い、忘れてくれ」
しかし、ヒルダは言う。
「はい…私のつたない料理で良ければ…。フィールズ家の用に立派な食事は作れませんけど。」
「本当か?ありうがとう。それでヒルダ、今から食事に行こうと思って誘いに来たんだ。どうだ?何か食べられそうか?」
しかしヒルダは首を振る。
「すみません、お兄様。私まだ食欲が…」
「でもヒルダ。それでは本当に今に倒れてしまう。俺も父も、そして母も…皆ヒルダが心配なんだ。どうか一緒にダイニングルームに来てくれ」
エドガーは頭を下げて懇願した。こうでもしなければ本当にヒルダは朝食を抜いてしまいそうだったからだ。
「わ、分かりました…お兄様」
ヒルダはドレッサーの椅子から立ち上がろうとするとエドガーが手を差し伸べてきた。
「俺につかまるといい」
「ありがとうございます…」
ヒルダはエドガーの上に手を置いた。
「よし、行こう」
エドガーはヒルダの小さな手を握りしめた。
エドガーがヒルダの手を取り、長い廊下を歩いていると何人もの使用人たちにすれ違った。彼らは皆ヒルダとエドガーの姿を見るとその場に立ち止まって深々と頭を下げる。ヒルダにとって2年前まではそれらの生活が当たり前だったが、今となっては違う。言いしれぬ違和感を感じ、思わず俯いてしまった。
「どうした、ヒルダ」
ヒルダの手を繋ぎ、隣を歩いていたエドガーが声を掛けてきた。
「いいえ、何でもありません」
そんなヒルダの横顔をみながらエドガーは尋ねた。
「ヒルダ、いつルドルフの墓へ行きたい?」
するとヒルダはポツリと言った。
「もし、お兄様の都合がつくなら…朝食後、すぐにでも行きたいです。ご迷惑でなければ…無理でしたらお兄様のお時間に合わせます」
「ヒルダ…」
(どうしてそんなに自分の気持ちを押し殺すのだろう?もっと我儘を言ってもいいのに…)
エドガーはアンナとヒルダの性格の違いに驚いていた。アンナはまだまだ子供で無邪気だが、ヒルダは人一倍苦労をしてきたせいか、ずっと大人で達観していた。
エドガーはヒルダの手を強く握りしめると言った。
「ヒルダ、自分の気持ちを押し殺すな。せめて…俺には素直に自分の気持ちを伝えてくれないか?ヒルダは俺にとって…大切な妹だからどんな希望でも叶えてやりたいと思っている」
「お兄様…ありがとうございます」
ポツリと呟いたヒルダの目から、再びひとしずくの涙がこぼれ落ちるのだった―。
1
あなたにおすすめの小説
白い結婚の行方
宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」
そう告げられたのは、まだ十二歳だった。
名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。
愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。
この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。
冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。
誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。
結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。
これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。
偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。
交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。
真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。
──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
離婚した彼女は死ぬことにした
はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる