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4-13 エルウィンとランベール
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「珍しいですね…叔父上が1人で城内を歩いているとは。いつも必ず左右に娼婦を侍らし、背後には護衛騎士を付けているのに?」
エルウィンの口調は何処か挑発しているようにも取れた。
「うぬ…誰がいつも娼婦を侍らしているだと?お前は一体誰に向かってそのような生意気な口を聞いているのだ?仮にも私はお前の叔父だぞ?」
「そういう叔父こそ、誰に向かって口を聞いているのです?俺は仮にもこの城の城主ですが?」
エルウィンは反抗的な態度を崩さない。2人の間には言いようのない殺気が漂っている。
一方のアリアドネは顔を目元まで隠し、2人の会話を黙って聞いていた。
(叔父…?それではあの方がエルウィン様の叔父のランベール様…?)
使用人達から、ランベールはどういう人物なのかアリアドネは聞かされていた。彼によってこの城が娼館のように化してしまった事も…。
「クッ…若造のくせに…目上の者を敬う気持ちすら持てぬのか?」
怒気を顕にランベールはエルウィンを睨みつけた。
「敬う?尊敬に値するものなら、いくらでも敬いますよ?最も祖父は尊敬には値しませんが…けれど俺の父は本当に立派な人物だった。今でも心から尊敬していますよ」
「何だと…貴様、私が誰か分かって言っているのか?!」
「ええ…勿論。本当に貴方は祖父にそっくりだ…。そうやって娼婦達を城に入れるところなど…もはや軽蔑に値する」
(エルウィン様…!何てことを…!)
アリアドネは先程からの2人に会話にハラハラしていた。
エルウィンはわざとランベールを挑発しているようにしか思えなかった。
「そうか…お前は私が気に入らないから連れてきた可愛いメイド達を怒鳴りつけていたのだな?」
「ふん。何がメイド達ですか?全員娼館上がりの…しかも貴方の愛人だった者達ではないですか」
エルウィンは吐き捨てるように言った。
「愛人を持つのが悪いことなのか?そういうお前は一体どうなのだ?22歳にもなって未だに妻も娶らず…」
その時、ランベールの目にエルウィンの後ろに立っているアリアドネの姿が目に入った。
「そう言えば先程からお前の後ろにいる人物が気になっていたが…誰だ?見たところ、随分貧しそうな身なりをしているな。しかも顔を布で覆い隠しているとは…」
「!」
その言葉にアリアドネの肩が跳ねた。
(どうしよう…目を付けられてしまったのかも…)
するとエルウィンは言った。
「この者は越冬期間を過ごす為にこの城に身を寄せている領民ですよ。叔父上が連れてきたメイド達と一緒に炭をこの城まで運んで来ただけです。そして帰り道に迷ったそうなので俺が今から連れ帰るところですよ」
「…貧しい領民風情がこの城にあがり込むとはな…。しかも顔を布で覆い隠しているとは…一体何故そのような身なりをしているのだ?」
ランベールはアリアドネに尋ねてきた。
(ど、どうしよう…!)
言葉に詰まっていると、エルウィンが口を開いた。
「この者は顔に酷い皮膚病を患っているから人目に触れないように顔を隠しているだけです」
「何だと?そんな人物をこの城に入れたのか?汚らわしい…なら早く城から出ていくのだ」
ランベールはアリアドネに向けて追い払う素振りを見せた。
「ええ。すぐに連れ出しますよ。行くぞ」
エルウィンは背後にいるアリアドネに声を掛けた。そしてアリアドネは黙って頷いた。先程の兵士のように絡まれたくは無かったからだ。
そしてエルウィンは歩き出した。
その後ろをアリアドネもついて歩き、ランベールの前を横切ったその時―。
「待て、そこの女」
不意にランベールがアリアドネに向かって声を掛けてきた。思わず、その言葉に押されてアリアドネは足を止めてしまった。
「チッ!」
エルウィンが小さく舌打ちした。
「随分見事な金の髪だな…。しかも若そうだ。いくつなのだ?」
ランベールがアリアドネに近付いてくる。
その時―。
エルウィンがアリアドネの腕を引き寄せ、片腕で囲い込むとランベールの前に立ちはだかった。
彼の右手にはいつの間にか剣が握りしめられ、ランベールに向けられていた―。
エルウィンの口調は何処か挑発しているようにも取れた。
「うぬ…誰がいつも娼婦を侍らしているだと?お前は一体誰に向かってそのような生意気な口を聞いているのだ?仮にも私はお前の叔父だぞ?」
「そういう叔父こそ、誰に向かって口を聞いているのです?俺は仮にもこの城の城主ですが?」
エルウィンは反抗的な態度を崩さない。2人の間には言いようのない殺気が漂っている。
一方のアリアドネは顔を目元まで隠し、2人の会話を黙って聞いていた。
(叔父…?それではあの方がエルウィン様の叔父のランベール様…?)
使用人達から、ランベールはどういう人物なのかアリアドネは聞かされていた。彼によってこの城が娼館のように化してしまった事も…。
「クッ…若造のくせに…目上の者を敬う気持ちすら持てぬのか?」
怒気を顕にランベールはエルウィンを睨みつけた。
「敬う?尊敬に値するものなら、いくらでも敬いますよ?最も祖父は尊敬には値しませんが…けれど俺の父は本当に立派な人物だった。今でも心から尊敬していますよ」
「何だと…貴様、私が誰か分かって言っているのか?!」
「ええ…勿論。本当に貴方は祖父にそっくりだ…。そうやって娼婦達を城に入れるところなど…もはや軽蔑に値する」
(エルウィン様…!何てことを…!)
アリアドネは先程からの2人に会話にハラハラしていた。
エルウィンはわざとランベールを挑発しているようにしか思えなかった。
「そうか…お前は私が気に入らないから連れてきた可愛いメイド達を怒鳴りつけていたのだな?」
「ふん。何がメイド達ですか?全員娼館上がりの…しかも貴方の愛人だった者達ではないですか」
エルウィンは吐き捨てるように言った。
「愛人を持つのが悪いことなのか?そういうお前は一体どうなのだ?22歳にもなって未だに妻も娶らず…」
その時、ランベールの目にエルウィンの後ろに立っているアリアドネの姿が目に入った。
「そう言えば先程からお前の後ろにいる人物が気になっていたが…誰だ?見たところ、随分貧しそうな身なりをしているな。しかも顔を布で覆い隠しているとは…」
「!」
その言葉にアリアドネの肩が跳ねた。
(どうしよう…目を付けられてしまったのかも…)
するとエルウィンは言った。
「この者は越冬期間を過ごす為にこの城に身を寄せている領民ですよ。叔父上が連れてきたメイド達と一緒に炭をこの城まで運んで来ただけです。そして帰り道に迷ったそうなので俺が今から連れ帰るところですよ」
「…貧しい領民風情がこの城にあがり込むとはな…。しかも顔を布で覆い隠しているとは…一体何故そのような身なりをしているのだ?」
ランベールはアリアドネに尋ねてきた。
(ど、どうしよう…!)
言葉に詰まっていると、エルウィンが口を開いた。
「この者は顔に酷い皮膚病を患っているから人目に触れないように顔を隠しているだけです」
「何だと?そんな人物をこの城に入れたのか?汚らわしい…なら早く城から出ていくのだ」
ランベールはアリアドネに向けて追い払う素振りを見せた。
「ええ。すぐに連れ出しますよ。行くぞ」
エルウィンは背後にいるアリアドネに声を掛けた。そしてアリアドネは黙って頷いた。先程の兵士のように絡まれたくは無かったからだ。
そしてエルウィンは歩き出した。
その後ろをアリアドネもついて歩き、ランベールの前を横切ったその時―。
「待て、そこの女」
不意にランベールがアリアドネに向かって声を掛けてきた。思わず、その言葉に押されてアリアドネは足を止めてしまった。
「チッ!」
エルウィンが小さく舌打ちした。
「随分見事な金の髪だな…。しかも若そうだ。いくつなのだ?」
ランベールがアリアドネに近付いてくる。
その時―。
エルウィンがアリアドネの腕を引き寄せ、片腕で囲い込むとランベールの前に立ちはだかった。
彼の右手にはいつの間にか剣が握りしめられ、ランベールに向けられていた―。
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