292 / 376
16-3 気付きもせずに
しおりを挟む
その頃、部屋着に着替えたエルウィンはすっかり塞ぎ込んでいた。
窓際に寄せたテーブルで月を眺めながら、度数の強いアルコールを口にしている。普段のエルウィンならこの程度で酔うことは無かったが、今夜だけは勝手が違っていた。
「アリアドネ……ダンスを楽しんでいたな……やはり本音は踊ってみたかったのか……」
ポツリと呟くエルウィン。驚いたことに、エルウィンの脳内ではアリアドネは楽しそうにダンスを踊っていたように映っていたのだ。
「くそっ……俺はダンスなんか全く踊れないし、相手はこの国の王太子……当然俺なんかが敵う相手ではないか……」
恐らく、エルウィンの今の呟きをシュミットやスティーブが耳にしていたら驚きで目を見張っていたことだろう。
スティーブに至っては『戦場の暴君』がダンスが踊れないくらいで、敵う相手ではないと弱音を吐く様子に笑いを堪えていたかもしれない。しかし、それほどエルウィンの精神は参っていたのであった。
「このままでは王太子がアリアドネに求婚するかもしれないな……」
エルウィンの妄想?は留まることをしらない。
「…くそっ!」
吐き捨てるように呟くと、再びグラスに度数のきついアルコールを注ぎ入れ、煽るように飲み干す。
その時――。
コンコン
扉をノックする音が聞こえた。
「……誰だ?」
フラフラとおぼつかない足取りで扉を開けると、そこにはアリアドネが立っていた。
「アリアドネ……?」
(まさか夢にまでアリアドネが出てくるとはな……まぁ、夢ならどうってことはないだろう)
酔いで頭が朦朧としていたエルウィンは半ばこれは夢だろうと思い込んでいた。
「あの、エルウィン様。大事なお話があって参りました」
一方のアリアドネはエルウィンが酔っているとは少しも気づいていなかった。
何故なら今の彼は相当酔っているにも関わらず、見た目は普通の状態にしか見えなかったからだ。
「あぁ、そうか。廊下で話すのは寒いから中に入るか?暖炉がついているから室内は温かいぞ?」
エルウィンは扉を開け放した。
「そうですね、ではそうさせて頂きます」
アリアドネは頷くと、部屋の中へと入り……テーブルの上に何本もの殻の瓶が置かれていることに気づいた。
「エルウィン様、お酒を召し上がっていらっしゃったのですか?」
扉を閉じたエルウィンにアリアドネは尋ねた。
「そうだ。今宵は満月が美しかったから月を眺めながら飲んでいたんだ」
そして再びエルウィンはテーブルに向かうと椅子に座り、アルコールを飲み始めた。これらの行動は全てエルウィンの酔いと、半ば夢だと思い込んでのものだったのだが、アリアドネはそうとは捉えなかった。
(やはりエルウィン様は私のせいで気分を害されているのだわ……だとしたら……)
そこでアリアドネはエルウィンに提案した。
「あの、エルウィン様。私と……ここでダンスを踊りませんか?王太子様に習ったので、少しはダンスを教えて差し上げることが出来ると思うのですが」
エルウィンがアルコールですっかり酔いが回り、頭が朦朧としていることに気付きもしないアリアドネ。
そんなエルウィンにアリアドネはダンスを申し込んでしまった――。
窓際に寄せたテーブルで月を眺めながら、度数の強いアルコールを口にしている。普段のエルウィンならこの程度で酔うことは無かったが、今夜だけは勝手が違っていた。
「アリアドネ……ダンスを楽しんでいたな……やはり本音は踊ってみたかったのか……」
ポツリと呟くエルウィン。驚いたことに、エルウィンの脳内ではアリアドネは楽しそうにダンスを踊っていたように映っていたのだ。
「くそっ……俺はダンスなんか全く踊れないし、相手はこの国の王太子……当然俺なんかが敵う相手ではないか……」
恐らく、エルウィンの今の呟きをシュミットやスティーブが耳にしていたら驚きで目を見張っていたことだろう。
スティーブに至っては『戦場の暴君』がダンスが踊れないくらいで、敵う相手ではないと弱音を吐く様子に笑いを堪えていたかもしれない。しかし、それほどエルウィンの精神は参っていたのであった。
「このままでは王太子がアリアドネに求婚するかもしれないな……」
エルウィンの妄想?は留まることをしらない。
「…くそっ!」
吐き捨てるように呟くと、再びグラスに度数のきついアルコールを注ぎ入れ、煽るように飲み干す。
その時――。
コンコン
扉をノックする音が聞こえた。
「……誰だ?」
フラフラとおぼつかない足取りで扉を開けると、そこにはアリアドネが立っていた。
「アリアドネ……?」
(まさか夢にまでアリアドネが出てくるとはな……まぁ、夢ならどうってことはないだろう)
酔いで頭が朦朧としていたエルウィンは半ばこれは夢だろうと思い込んでいた。
「あの、エルウィン様。大事なお話があって参りました」
一方のアリアドネはエルウィンが酔っているとは少しも気づいていなかった。
何故なら今の彼は相当酔っているにも関わらず、見た目は普通の状態にしか見えなかったからだ。
「あぁ、そうか。廊下で話すのは寒いから中に入るか?暖炉がついているから室内は温かいぞ?」
エルウィンは扉を開け放した。
「そうですね、ではそうさせて頂きます」
アリアドネは頷くと、部屋の中へと入り……テーブルの上に何本もの殻の瓶が置かれていることに気づいた。
「エルウィン様、お酒を召し上がっていらっしゃったのですか?」
扉を閉じたエルウィンにアリアドネは尋ねた。
「そうだ。今宵は満月が美しかったから月を眺めながら飲んでいたんだ」
そして再びエルウィンはテーブルに向かうと椅子に座り、アルコールを飲み始めた。これらの行動は全てエルウィンの酔いと、半ば夢だと思い込んでのものだったのだが、アリアドネはそうとは捉えなかった。
(やはりエルウィン様は私のせいで気分を害されているのだわ……だとしたら……)
そこでアリアドネはエルウィンに提案した。
「あの、エルウィン様。私と……ここでダンスを踊りませんか?王太子様に習ったので、少しはダンスを教えて差し上げることが出来ると思うのですが」
エルウィンがアルコールですっかり酔いが回り、頭が朦朧としていることに気付きもしないアリアドネ。
そんなエルウィンにアリアドネはダンスを申し込んでしまった――。
46
あなたにおすすめの小説
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】恋につける薬は、なし
ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。
着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる