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16-2 善は急げ?

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 アリアドネが着替えを終えた頃――

 コンコン

 部屋の扉のノック音と共に、カインの声が聞こえてきた。

『アリアドネ様、今お時間少し宜しいでしょうか?』

「え?カイン?」

 アリアドネは慌てて扉を開けに向かった。

「カイン?一体どうしたのですか?」

 扉を開けると、目の前のカインに声を掛けた。

「はい、実はエルウィン様が何故あのような状態になってしまったのか分かりましたので、伝えに参りました」

「本当?教えて下さい」
「ええ、勿論です。それは……ダンスです」

「え?」

 アリアドネは一瞬、何を言われているのか分からなかった。

「あの、ダンスって……?」

「はい、エルウィン様があのように元気を無くしてしまったのはアリアドネ様が殿下とダンスを踊られたからだわ……」

「そ、そんな……!あ……でも確かに言われてみれば……もしかして、私のせい……なのかも……」

 アリアドネは自分が原因でエルウィンの様子がおかしくなってしまったことを知り、すっかり塞ぎ込んでしまった。

「どうしましょう……それに私エルウィン様に帰りの馬車の中で、殿下とのダンスは楽しかったかと聞かれました」

「そうだったのですか?それでアリアドネ様は何と答えられたのですか?」

「ええ……それなりに楽しかったですと……」

「……」

 カインはその言葉で全てを理解した。恐らく、ダンスを踊れないエルウィンにとって、アリアドネが他の男性……しかもこの国の王太子と自分の目の前でダンスを踊ったのだ。しかも楽しかったと言われてまった。

(恐らくエルウィン様は相当傷ついたに違いない……しかも初めて思いを寄せる女性からそんな話を聞かされてしまっては……)

「あの、やっぱり私が原因だったのですね……?」

「ええ……残念ながら……」

ため息をつくカイン。

「そんな……私、一体どうしたら……」

 アリアドネにはエルウィンを傷つけるつもりは一切無かった。けれど、自分が原因だと知って、すっかり狼狽えてしまった。

「落ち着いてください、アリアドネ様。アリアドネ様が原因でエルウィン様が傷ついたとなると……元気づけられるのもアリアドネ様だけなのです」

「私だけ……?」

「ええ、そうです。なので、どうかエルウィン様を宜しくお願いします」

その言葉を耳にしたアリアドネはカインに尋ねた。

「あの、エルウィン様は今、どちらに?」

「え?ええ……恐らくはご自身のお部屋にいらっしゃるかと思いますが……?」

「……分かりました」

「え?」

「今からエルウィン様のお部屋に行ってきます」

「え?!ほ、本気ですか?!」

 アリアドネの言葉にカインは耳を疑った。まさか、夜に女性が男性の部屋を訪れると言い出すとは思わなかったからだ。

「で、ですが……アリアドネ様……」

「このような場合、急いだほうがいいに決まっています。教えて頂き、ありがとうございました」

 そしてアリアドネはカインをその場に残し、急ぎ足でエルウィンの元へ向かってしまった。

 カインが制止しているにも関わらず――。

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