341 / 376
18-6 やり場のない思い
しおりを挟む
エルウィンが毒矢に倒れてから、既に6時間あまりが経過していた――。
「エルウィン様……頑張って下さい!今、城では薬士達が毒の成分を調べている最中ですから!」
城から駆けつけてきたエデルガルトが意識の無いエルウィンに必死になって呼びかけている。
「そうです!エルウィン様はアイゼンシュタット城の城主なのですよ?!貴方が倒れられたら誰がこの国を守るのですか?!」
シュミットもエルウィンに声を掛け続ける。
「……」
ベッドにうつ伏せになって意識を無くし、横たわったままのエルウィン。アリアドネはその様子を震えながら見守っていたが……そっと部屋を抜け出した。
(ここにいても私は役に立たないわ……。それにエルウィン様が毒矢に倒れたのは私を庇ったせいよ。どうして私なんかを助けたのですか?私の命よりもエルウィン様の命のほうが余程尊いのに……!)
アリアドネはいたたまれなかった。
皆口には出さないが、自分のことを責めているのでは無いかと思っていたのだ。
幼い頃から、妾腹の娘としてステニウス家で虐げられていた日々を送っていたアリアドネ。自分を卑下したり、責めたりするような性格になってしまったのはある意味、仕方のないことであった。
アリアドネが宿屋から出てくると外で待機していた数人の騎士たちが駆け寄ってきた。
「アリアドネ様、どうされたのですか?」
「エルウィン様のことで何かあったのですか?!」
「ひょっとして意識が戻られたのですか?」
「いいえ……エルウィン様は、変わらず意識を失ったままです……」
絶望的な気持ちでアリアドネは首を振る。
「そうですか……」
「エルウィン様……」
騎士たちの間に重苦しい空気が流れる。
「ところでアリアドネ様。一体何方へ行かれるのですか?そろそろ日も暮れて夜になりますよ?」
1人の騎士が声を掛けてきた。
「はい。今から教会に行って、エルウィン様の為に祈りを捧げようかと思ったのです。私は……あの場にいても何のお役にも立てませんから……」
悲しげに目を伏せながらアリアドネは返事をする。
「何を仰るのですか?!アリアドネ様!」
「そうですよ!そのようなことは絶対にありません!」
口々に騎士たちは口々に声を掛けるも、アリアドネは寂しげに首を振った。
「いいえ、私を庇いさえしなければエルウィン様が毒矢に射られる事は無かったのです。それだけではありません。私がカルタン族に捕まりさえしなければ……!」
アリアドネは唇を噛んで下を向く。
その言葉に、集まった騎士たちは何も言えなくなってしまった。
「申し訳ございません……。私、教会に行ってきますね」
騎士たちに頭を下げると、アリアドネは夕暮れの中トボトボと重い足取りで教会へ向かった。
遠ざかるアリアドネの後ろ姿を黙って見守る騎士たち。
もう彼らは掛ける言葉が見つからずにいたのだった――。
****
一方、その頃アイゼンシュタット城では――。
「何だって?!毒の種類が特定出来ないだって?!一体どういうことなんだ!!」
城にある研究室にスティーブの怒声が響き渡る。
「はい、どうやらこの毒は植物由来の毒と生物由来の毒を何通りも掛け合わせて作られた毒のようです……そうなると、もう解毒薬の作りようが……」
まだ年若い、研究室の責任者の青年が項垂れる。
「貴様、ふざけるな!それではこのまま大将に死ねと言っているようなものではないか!!」
激怒したスティーブは青年の胸ぐらを掴んだ。
「そ、そんなことを言われても!わ、我々だって必死になって頑張ったのですよ!!もはや毒を作った本人から聞き出す以外……」
「黙れ!」
スティーブは青年を突き飛ばすと怒鳴り散らした。
「そんなこと出来ればとっくにしている!!毒を作った奴は服毒自殺したのだ!自分の作り上げた毒でな!四の五の言わずに、とにかく解毒薬を作り上げろ!」
「そ、そんな……!」
倒れ込む青年の前に別の青年が現れた。
「スティーブ様。我々では毒の解析にまで至りませんが……方法はあります」
「何だ?その方法とは?」
「はい。『レビアス』国には王族が所有する『生命の雫』と呼ばれる貴重な液体が保管されています。これは体内に溜まった毒素を吐き出させる効果のある液体で、解熱や解毒の効果があるそうです」
「何だと?まさかその『生命の雫』を王族に分けて貰えというのか?」
スティーブが凄む。
「はい、そうです」
「ふざけるな!!王都までどれだけの距離が有ると思う?!行って帰ってくるまでに大将の命が持つと思っているのか?!」
「ですが、他に方法はありません。引き続き我々も毒の解析を試みますが……」
「……くそっ!!」
スティーブはマントを翻し、乱暴な足取りで部屋を出て行った――。
「エルウィン様……頑張って下さい!今、城では薬士達が毒の成分を調べている最中ですから!」
城から駆けつけてきたエデルガルトが意識の無いエルウィンに必死になって呼びかけている。
「そうです!エルウィン様はアイゼンシュタット城の城主なのですよ?!貴方が倒れられたら誰がこの国を守るのですか?!」
シュミットもエルウィンに声を掛け続ける。
「……」
ベッドにうつ伏せになって意識を無くし、横たわったままのエルウィン。アリアドネはその様子を震えながら見守っていたが……そっと部屋を抜け出した。
(ここにいても私は役に立たないわ……。それにエルウィン様が毒矢に倒れたのは私を庇ったせいよ。どうして私なんかを助けたのですか?私の命よりもエルウィン様の命のほうが余程尊いのに……!)
アリアドネはいたたまれなかった。
皆口には出さないが、自分のことを責めているのでは無いかと思っていたのだ。
幼い頃から、妾腹の娘としてステニウス家で虐げられていた日々を送っていたアリアドネ。自分を卑下したり、責めたりするような性格になってしまったのはある意味、仕方のないことであった。
アリアドネが宿屋から出てくると外で待機していた数人の騎士たちが駆け寄ってきた。
「アリアドネ様、どうされたのですか?」
「エルウィン様のことで何かあったのですか?!」
「ひょっとして意識が戻られたのですか?」
「いいえ……エルウィン様は、変わらず意識を失ったままです……」
絶望的な気持ちでアリアドネは首を振る。
「そうですか……」
「エルウィン様……」
騎士たちの間に重苦しい空気が流れる。
「ところでアリアドネ様。一体何方へ行かれるのですか?そろそろ日も暮れて夜になりますよ?」
1人の騎士が声を掛けてきた。
「はい。今から教会に行って、エルウィン様の為に祈りを捧げようかと思ったのです。私は……あの場にいても何のお役にも立てませんから……」
悲しげに目を伏せながらアリアドネは返事をする。
「何を仰るのですか?!アリアドネ様!」
「そうですよ!そのようなことは絶対にありません!」
口々に騎士たちは口々に声を掛けるも、アリアドネは寂しげに首を振った。
「いいえ、私を庇いさえしなければエルウィン様が毒矢に射られる事は無かったのです。それだけではありません。私がカルタン族に捕まりさえしなければ……!」
アリアドネは唇を噛んで下を向く。
その言葉に、集まった騎士たちは何も言えなくなってしまった。
「申し訳ございません……。私、教会に行ってきますね」
騎士たちに頭を下げると、アリアドネは夕暮れの中トボトボと重い足取りで教会へ向かった。
遠ざかるアリアドネの後ろ姿を黙って見守る騎士たち。
もう彼らは掛ける言葉が見つからずにいたのだった――。
****
一方、その頃アイゼンシュタット城では――。
「何だって?!毒の種類が特定出来ないだって?!一体どういうことなんだ!!」
城にある研究室にスティーブの怒声が響き渡る。
「はい、どうやらこの毒は植物由来の毒と生物由来の毒を何通りも掛け合わせて作られた毒のようです……そうなると、もう解毒薬の作りようが……」
まだ年若い、研究室の責任者の青年が項垂れる。
「貴様、ふざけるな!それではこのまま大将に死ねと言っているようなものではないか!!」
激怒したスティーブは青年の胸ぐらを掴んだ。
「そ、そんなことを言われても!わ、我々だって必死になって頑張ったのですよ!!もはや毒を作った本人から聞き出す以外……」
「黙れ!」
スティーブは青年を突き飛ばすと怒鳴り散らした。
「そんなこと出来ればとっくにしている!!毒を作った奴は服毒自殺したのだ!自分の作り上げた毒でな!四の五の言わずに、とにかく解毒薬を作り上げろ!」
「そ、そんな……!」
倒れ込む青年の前に別の青年が現れた。
「スティーブ様。我々では毒の解析にまで至りませんが……方法はあります」
「何だ?その方法とは?」
「はい。『レビアス』国には王族が所有する『生命の雫』と呼ばれる貴重な液体が保管されています。これは体内に溜まった毒素を吐き出させる効果のある液体で、解熱や解毒の効果があるそうです」
「何だと?まさかその『生命の雫』を王族に分けて貰えというのか?」
スティーブが凄む。
「はい、そうです」
「ふざけるな!!王都までどれだけの距離が有ると思う?!行って帰ってくるまでに大将の命が持つと思っているのか?!」
「ですが、他に方法はありません。引き続き我々も毒の解析を試みますが……」
「……くそっ!!」
スティーブはマントを翻し、乱暴な足取りで部屋を出て行った――。
35
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる