19 / 43
西の塔での対決
しおりを挟むジョーセフが大きく振り上げ、振り下ろした剣は、右上から左下へと斜めに軌跡を描いた。
そう、カレンデュラからその隣に寝そべるタスマへと。
けれど、どこまでも―――どこまでもタスマはタスマだった。
咄嗟の、無意識の行動だろう。だからこそ当人の心根が如実に現れた。タスマはカレンデュラの身体を、そのくるまっていたシーツごと自分の裸体の前に引き寄せた。
そう、タスマはカレンデュラを盾にしたのだ。
「え?」
喚いていたカレンデュラがぽろりと呆けた声を溢した次の瞬間、絶叫が響いた。
カレンデュラが切られたのだ。左肩から右太ももまで斜めにざっくりシーツごと。
ジョーセフの背後から、護衛騎士に拘束されていた侍女の悲鳴が聞こえた。
剣を振り下ろした後の一瞬の間、それを隙と言えるのかもしれない、その瞬間にタスマは寝台から転がり出て枕の下から何かを引き抜いた。
幽閉に当たり、身につけていた衣服を除き、身体一つでここに連れて来られた筈。
武器の類など、所持も許されない筈なのに。
けれどそれもまた考えればすぐに分かる事だった。この男は西の塔にいながら毒さえ入手できた。今は何故だかできなくなった様だが、毒が運び込めて武器が運び込めない訳がない。
背後でドサ、という音と共に女の呻き声がした。侍女を床に放り投げたらしい護衛騎士が、ジョーセフの前に出て彼を背に庇う。
だが騎士は丸腰だ。ジョーセフがその腰から剣を抜き取っている。
タスマが手にしていたのは短刀。
それでジョーセフを庇う護衛騎士に切りかかる。
後ろには下がれず、けれど避ける事もできない騎士は、空っぽの鞘を手に取り、攻撃を防いだ。
「っ! 陛下! 今のうちにお逃げくださいっ!」
続いて繰り出される攻撃も凌いだ騎士が、前を向いたまま叫んだ。だがジョーセフは動かなかった。
だって、王が逃げるなどあってはならない。
「俺が奴を切る! お前はそのまま攻撃を防いでいろ!」
騎士の横に並び、ジョーセフは再び剣を振り上げた。
刹那、タスマがくるりと体の向きを変え、ジョーセフの方へと短剣の先を向ける。
国王へと注意が逸れていた騎士の脛に蹴りを入れて。
体勢を崩した騎士を横目に、タスマの短剣がジョーセフの喉元に襲いかかる。咄嗟に騎士が手元の鞘をタスマに投げつけ、それが彼の右肩に当たった。
一瞬だけタスマの動きが止まり、けれど今はそんな一瞬が命運を分け―――
ジョーセフが振り下ろした剣が、タスマの体を掠めた。大した傷でもないが、左上腕から血が滲み出た。
ジョーセフが思わず笑んで、再度剣を振り上げた時。
「ジョー・・・ッ、痛い、痛いの・・・助けてぇ・・・」
切り捨てた後、完全に存在を忘れていた女が、切り裂かれ赤く染まったシーツの中から手を伸ばし、ジョーセフの上着の裾を掴んだ。
引っ張られる形で動きが止まったジョーセフの胸元に短剣が迫る。
騎士が咄嗟に身体を滑り込ませ、直後、騎士は呻き声を上げて膝をついた。
ジョーセフがカレンデュラを蹴り飛ばすのと、タスマが騎士の横を抜けたのがほぼ同時。
だが、タイミングが同じであれば剣の長さが結果を左右する。
タスマの短剣は届かず、ジョーセフの剣はタスマの腹を横に切り裂いた。浅くではあるが彼の腹の左から右へ。
叫び声を上げたタスマが床に倒れた。
その時、ジョーセフの背後、塔の入り口からだろうか。複数の声が聞こえた。
空耳か、その声の一つがアーロン殿下、と言ったかに思え、ジョーセフが振り向こうとした時。
突如、視界に映る全てが闇に染まった。
511
あなたにおすすめの小説
完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ
音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。
だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。
相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。
どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。
水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。
王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。
しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。
ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。
今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。
ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。
焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。
それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。
※小説になろうでも投稿しています。
完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう
音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。
幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。
事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。
しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。
己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。
修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる