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イアーゴの困惑
しおりを挟む「セシリエとの婚約が解消って、父上、どうしてそんな話に」
「・・・どうしてだと? イアーゴ、お前まさか、理由が分からないなんて言うつもりじゃないだろうな?」
久しぶりに屋敷に帰って来たイアーゴの父ロドリゴ・ドミンゴは、息子の前で怒りも露わにそう言った。
半日ほど前のことだ。
帰国したセオドア・ハンメルが、アポなしにドミンゴ商会を突撃した。
セオドアは、ロドリゴの執務室にまで押しかけると、突然の訪問を詫びる事もなく、彼の娘セシリエ・ハンメルと、イアーゴとの婚約を解消すると宣言したのだ。
当然ロドリゴは驚き、その宣言を拒否し、契約違反だと怒った。理不尽な言いがかりだ、どう落とし前をつけてくれる、などと息巻いて。
だが、セオドアはロドリゴの目の前に証拠の山を突きつける。それらは―――
「理由・・・? 解消を言い出す理由なんて俺にはさっぱり」
「・・・お前、それ本気で言ってるのか?」
「ええ。だって、俺は何もしていませんから」
そう、イアーゴは正しい。彼は本当に何もしていない。
手紙が来ても返さないし、プレゼントをもらっても礼をしない。差し入れがあっても感想すら言ってない。デートにも誘ってないし、カード一枚送らないのだから。
「・・・何も、していない、と?」
「ええ、してません」
きっぱりと言いきる息子に、ロドリゴは一度深く息を吸うと、大声で言った。
「・・・それが、それが、婚約解消の理由だぁぁぁぁっっ!!!」
「はあ?」
「・・・っ、お前は、ハンメルの娘からの手紙に返事もしなければ、贈り物もデートもしなかったそうだな!?」
「え? ええ、そうですよ。だって結婚したらセシリエとずっと一緒ですからね。それからでも遅くないでしょう。時間はたっぷりあるんだから」
「遅い! 遅いわ! 時間などもうないわ! 婚約の話はなしになったんだからな!」
「・・・え? まさか、本当に? 本当にセシリエとの婚約は解消になったんですか?」
「承諾書にサインをして渡した。きっともう役所に提出されている。数日のうちに認可されるだろう。せっかくうちに有利な契約を結べたのに・・・お前のせいでパアだ」
「っ、でも父上。俺は、セシリエと結婚するつもりでいたんです。俺のお嫁さんになる子は、セシリエだって、セシリエでよかったって」
「・・・なら、これはなんだ」
ロドリゴは、机の上にどさりと書類の束を置いた。
「よくもまあ、これだけ女を取っ替え引っ替えしておいてそんな事が言えるな。ワシはお前に言っておいた筈だぞ。結婚前はいい顔を見せておけと。なのに・・・イアーゴ、ハンメルはお前のやってる事を全部知ってるぞ」
「・・・え?」
俺の、やってること?
イアーゴは、机に置かれた書類から、一番上のものを手に取る。
「・・・っ」
そして目を見開いた。
その紙の最初の行には。
イアーゴの最近のお気に入りの娘、「エミリー・プラント」の名が書かれていた。
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