【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう

冬馬亮

文字の大きさ
7 / 22

約束

しおりを挟む


「婚約解消おめでとうございます、セシリエさん。今日はひとりでこちらに?」

「ふふ、エーリッヒさん、ありがとうございます。兄は昨日、父と酒盛りして二日酔いになってしまって。母は商会がありますし、私ひとりで来ました。あ、でも護衛は付いてますよ?」

「ああ、それはそうか。セシリエさんは貴族ですからね。なら安心です」


アーノルドから報告書を貰う為に通っていたケーキショップの筈が、いつの間にかすっかりお気に入りの店になっていたセシリエは、婚約解消が決まってもう行く必要もないのに、気づけばこの週末も足が向かっていた。

そこで偶然、アーノルドの弟エーリッヒに出会でくわしたのだ。どうやら彼もケーキを食べに来たらしい。

そのまま何となく同席となり、エーリッヒはケーキを5つ、セシリエは2つオーダーした。


「・・・思ったよりも早くて、びっくりしました」


それはケーキが出てくるまでの時間ではなく。

セシリエとイアーゴの婚約解消の事を言っていると気づいたセシリエは、そうですね、と頷いた。


「ドミンゴ子爵が早めに決断したみたいですよ。父の剣幕に恐れをなしたのかもしれませんね。正解だと思います」


もしあちらドミンゴがゴネたら、怒ったセオドアが解消から破棄へと切り替え、かなりの額の慰謝料を請求しただろう。たぶん他にも報復措置を付けて。
でもその分、余計に時間はかかった筈。

こちらハンメルとしては、慰謝料なぞより早々にイアーゴとの繋がりを切りたかった。

だって、ハンメルには金がある。それはもう、国王から爵位を賜るくらいには稼いでいるのだ。

あちらにとってハードルの高い婚約破棄を突きつけても、余計に時間や手間がかかるだけ。

迅速に対応するだけで、あちらの瑕疵の度合いが減るのだ。その辺りのロドリゴ・ドミンゴの判断は早かった。
息子の監督という面ではダメダメだったが、商人としての見極めは出来る人の様だ。


なんて考えに耽っていると、向かいの席からエーリッヒが少し沈んだ顔で口を開いた。


「僕もお手伝いをすると言って・・・結局、出番はあれきりでしたね」

「あら、あの時は本当に助かったのですよ。エーリッヒさんにしかできない役でしたもの。アーノルドさんも頑張って調べてくれましたし、本当にお2人にはお世話になりました」

「そう言ってもらえると嬉しいけど」


ケーキをつつきながら、エーリッヒは苦笑する。


「兄はいつも浮気調査しか仕事がないとぼやいてましたが、今回のことでちょっと仕事に対する見方が変わったようです。正直、僕も就職先を情報ギルドに変えるのもありかな、なんて思いました」

「エーリッヒさんは何を希望されてるんです?」

「ケーキの・・・小さな店でいいので、ケーキショップのオーナーになりたいんです」

「オーナー、ですか? 作る方ではなく?」

「ええ。何度か挑戦したんですけど、僕は食べる才能しかないみたいで。自分でケーキを作るのは諦めました」

「まあ、ふふ、食べる才能ですか。それを言うなら私もですね。私もケーキは食べる専門です。クッキーなら作れますけど」

「・・・あ、そうだ。それなら」


何か思いついたらしいエーリッヒが、ぱっと顔を上げる。


「僕の店が持てた時にケーキをご馳走します。前にたくさんケーキを食べさせてくれたお礼に」

「エーリッヒさんたら。あれは私たちからのお礼でご馳走したんですよ? お礼にお礼って変じゃないですか」

「そうでした。じゃあ、婚約解消のお祝いならどうですか」

「まあ、それはもちろん嬉しいですけど」


随分と先の長い約束に、セシリエは吹き出した。


「でもそれなら、早くお店を持ってくださらないと、私、待ちくたびれてしまいますよ?」

「あ」


エーリッヒはそうか、と呟いて、それから顔を赤くして頬を掻いて。


頑張ります、とガッツポーズをした。





~~~~
今回はちょっとふんわり回。
次話、噂の彼が登場しますよ!(キャー

しおりを挟む
感想 148

あなたにおすすめの小説

短編 政略結婚して十年、夫と妹に裏切られたので離縁します

朝陽千早
恋愛
政略結婚して十年。夫との愛はなく、妹の訪問が増えるたびに胸がざわついていた。ある日、夫と妹の不倫を示す手紙を見つけたセレナは、静かに離縁を決意する。すべてを手放してでも、自分の人生を取り戻すために――これは、裏切りから始まる“再生”の物語。

完結 振り向いてくれない彼を諦め距離を置いたら、それは困ると言う。

音爽(ネソウ)
恋愛
好きな人ができた、だけど相手は振り向いてくれそうもない。 どうやら彼は他人に無関心らしく、どんなに彼女が尽くしても良い反応は返らない。 仕方なく諦めて離れたら怒りだし泣いて縋ってきた。 「キミがいないと色々困る」自己中が過ぎる男に彼女は……

完結 私は何を見せられているのでしょう?

音爽(ネソウ)
恋愛
「あり得ない」最初に出た言葉がそれだった

【完結】婚約者は私を大切にしてくれるけれど、好きでは無かったみたい。

まりぃべる
恋愛
伯爵家の娘、クラーラ。彼女の婚約者は、いつも優しくエスコートしてくれる。そして蕩けるような甘い言葉をくれる。 少しだけ疑問に思う部分もあるけれど、彼が不器用なだけなのだと思っていた。 そんな甘い言葉に騙されて、きっと幸せな結婚生活が送れると思ったのに、それは偽りだった……。 そんな人と結婚生活を送りたくないと両親に相談すると、それに向けて動いてくれる。 人生を変える人にも出会い、学院生活を送りながら新しい一歩を踏み出していくお話。 ☆※感想頂いたからからのご指摘により、この一文を追加します。 王道(?)の、世間にありふれたお話とは多分一味違います。 王道のお話がいい方は、引っ掛かるご様子ですので、申し訳ありませんが引き返して下さいませ。 ☆現実にも似たような名前、言い回し、言葉、表現などがあると思いますが、作者の世界観の為、現実世界とは少し異なります。 作者の、緩い世界観だと思って頂けると幸いです。 ☆以前投稿した作品の中に出てくる子がチラッと出てきます。分かる人は少ないと思いますが、万が一分かって下さった方がいましたら嬉しいです。(全く物語には響きませんので、読んでいなくても全く問題ありません。) ☆完結してますので、随時更新していきます。番外編も含めて全35話です。 ★感想いただきまして、さすがにちょっと可哀想かなと最後の35話、文を少し付けたしました。私めの表現の力不足でした…それでも読んで下さいまして嬉しいです。

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

完結 愛される自信を失ったのは私の罪

音爽(ネソウ)
恋愛
顔も知らないまま婚約した二人。貴族では当たり前の出会いだった。 それでも互いを尊重して歩み寄るのである。幸いにも両人とも一目で気に入ってしまう。 ところが「従妹」称する少女が現れて「私が婚約するはずだった返せ」と宣戦布告してきた。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

【完結】傲慢にも程がある~淑女は愛と誇りを賭けて勘違い夫に復讐する~

Ao
恋愛
由緒ある伯爵家の令嬢エレノアは、愛する夫アルベールと結婚して三年。幸せな日々を送る彼女だったが、ある日、夫に長年の愛人セシルがいることを知ってしまう。 さらに、アルベールは自身が伯爵位を継いだことで傲慢になり、愛人を邸宅に迎え入れ、エレノアの部屋を与える暴挙に出る。 挙句の果てに、エレノアには「お飾り」として伯爵家の実務をこなさせ、愛人のセシルを実質の伯爵夫人として扱おうとする始末。 深い悲しみと激しい屈辱に震えるエレノアだが、淑女としての誇りが彼女を立ち上がらせる。 彼女は社交界での人脈と、持ち前の知略を駆使し、アルベールとセシルを追い詰める貴族らしい復讐を誓うのであった。

処理中です...