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夫としても恋人としても
「誤解を、解きたい」
週明けの学園で。
放課後に、イアーゴがセシリエの教室に現れた。
セシリエはいつもの様に学園に行き、いつもの様に勉学に励み、いつもの様に食堂で友人たちと一緒にランチを食べた。
普段通りの日常の筈が、ひとつだけいつもと違った事が。そう、イアーゴの来襲だ。
正直、イアーゴが自分に会いに来るとは思っていなかったから、セシリエはとても驚いた。
これまでだって、学年は違うが同じ学園に通っていたのだ。でも学園内でイアーゴに会うのなんて、言わずもがなの初めてである。
セシリエはイアーゴと食堂で話す事にした。彼の提案する空き教室を謹んでお断りした結果である。
昼時でもない食堂は、厨房にこそ人はいるがテーブル席の方は閑散としていた。
そのうちの一つを選び、微妙に離れた距離でそれぞれが席についた。
「誤解って何の事でしょうか」
まずセシリエが口を開く。
「俺の事を調べたと聞いた」
「そうですね。それで?」
「・・・それで、俺に今つき合ってる女の子たちがいるから婚約解消を決めたんだろ? それが誤解なんだ。
俺は、結婚する時には彼女たちとすっぱり別れるつもりだった。ちゃんとその辺りの関係は整理してから、セシリエと結婚するつもりでいたんだ。
彼女たちとは遊びで、本気じゃなかった。本命はセシリエだ。結婚したらセシリエだけを見るつもりでいたからこそ、今限定で別の子たちとつき合ってたんだよ」
「・・・恋人にしたい相手と結婚したい相手は別だから?」
話を聞いていたセシリエが、イアーゴの言葉の先を言う。
するとイアーゴは、我が意を得たりと瞳を輝かせた。
「そう、そうだよ、そうなんだ! なんだ、セシリエもちゃんと分かってるじゃないか」
「ええ、分かりますよ。恋には刺激やときめきを求めても、結婚となるとそうはいかない。家庭に平穏と安定をもたらしてくれる様な、真面目でしっかりした相手と結婚したいですよね」
いつぞやの台詞を、セシリエなりの言葉で言ってみると、イアーゴは感心した様に頷いた。
「やっぱりセシリエは賢い。そして話が分かる人だ。だから俺は、結婚するならセシリエがいいと思ったんだ。うん、俺の目に狂いはなかった」
「まあ、ありがとうございます、イアーゴさま。お褒めいただき光栄です」
セシリエはにっこり笑うと言葉を継いだ。
「でも婚約解消は変わりませんよ。私がイアーゴさまのお眼鏡に適っても、イアーゴさまは私の眼鏡に適っていないのですからね。誤解うんぬんの話ではないのです」
「・・・へ?」
「イアーゴさまとはあり得ません。夫としても恋人としても」
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