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使わなくてすんでよかった
しおりを挟む呆然とするイアーゴを見て、セシリエは立ち上がる。
そして、言いたい事は言ったと清々した気持ちで、食堂の扉へと足を向けた。
すると、背中越しに声がした。
「・・・父上のやり方は間違ってる」
セシリエは足を止め、振り返ってイアーゴを見る。
「結婚前だけ婚約者にいい顔したって上手くいかないだろ? 大事なのは結婚後だ。遊びたいなら結婚前にしておくべきだ。結婚後はお嫁さんだけにするべきだ。そうしないから・・・家族がバラバラになるんだ」
「・・・?」
セシリエは首を傾げた。
言ってる事はさも良さげに聞こえるが、どこか妙に感じるのは気のせいだろうか。
「俺は父上とは違う。結婚したらもう遊ばない。よそに女なんか作らない。愛人たちに子どもなんか生ませない。奥さんだけを、セシリエだけを大切にするんだ。死ぬまで一生よそ見しない。だから俺は、人生最後になる女遊びをしておこうと思った。それだけだ」
だから俺は間違ってないと主張するイアーゴに、セシリエはなんとなく、本当になんとなくだが、イアーゴの家庭事情が想像できた。
「セシリエ、結婚前の行動なんて当てにならない。いくらだって嘘を並べ立てられるんだ。だからあんな調査書なんかで俺を判断しないでくれ! 俺はセシリエと結婚した後は絶対に・・・」
「しません」
「え?」
「イアーゴさまとは結婚しません。結婚後の不貞も最低ですけど、婚約後の不貞も最低です。せっかく婚約解消できたのに、どうしてわざわざそんな人と婚約し直さないといけないんですか」
「・・・結婚したら、セシリエひと筋になるのに・・・?」
「さっきから言ってますけど、なんの保証もありませんよね、それ」
「・・・」
「さようなら」
今度こそ背を向けて、セシリエは出口に向かって歩き出した。
先ほどから扉向こうでちょこちょこ見え隠れする人影が、いつこちらを心配して飛び出してくるかと気が気でない。
セシリエは歩を進め、食堂を出る。
背後からイアーゴが追って来る気配はない。
セシリエが渡り廊下を通り過ぎ、自分の教室が見えてきたところで、ようやく息を吐き、振り返った。
「ご心配をおかけしました」
「・・・いえ、何もなくてよかったです」
そこに居たのはエーリッヒだ。
背中側に手を回しているが、何を隠し持っているのかは・・・聞かないでおこう。
こうして何事もなく話が終わったのだから。
「いつから僕がいる事に気づいてました?」
「う~ん、テーブル席に座ってすぐでしょうか。私からは出入り口が見える位置だったので。お陰で安心していられましたけど・・・」
「けど?」
「それ、使わなくてすんでよかったです」
セシリエは、エーリッヒが背に隠している方の手を指さし、笑った。
「僕もそう思います。実はあまりケンカには自信がなくて。まあ最悪、僕がやられてる間にセシリエさんだけでも逃がせればいいかな、なんて考えてました」
そう言うと、エーリッヒは隠し持っていた木の枝を廊下の窓から放り投げた。
どこで見つけてきたのか、なかなかに太い枝だった。
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