【完結】恋人にしたい人と結婚したい人とは別だよね?―――激しく同意するので別れましょう

冬馬亮

文字の大きさ
9 / 22

使わなくてすんでよかった

しおりを挟む


呆然とするイアーゴを見て、セシリエは立ち上がる。

そして、言いたい事は言ったと清々した気持ちで、食堂の扉へと足を向けた。


すると、背中越しに声がした。


「・・・父上のやり方は間違ってる」


セシリエは足を止め、振り返ってイアーゴを見る。


「結婚前だけ婚約者にいい顔したって上手くいかないだろ? 大事なのは結婚後だ。遊びたいなら結婚前にしておくべきだ。結婚後はお嫁さんだけにするべきだ。そうしないから・・・家族がバラバラになるんだ」

「・・・?」


セシリエは首を傾げた。
言ってる事はさも良さげに聞こえるが、どこか妙に感じるのは気のせいだろうか。


「俺は父上とは違う。結婚したらもう遊ばない。よそに女なんか作らない。愛人たちに子どもなんか生ませない。奥さんだけを、セシリエだけを大切にするんだ。死ぬまで一生よそ見しない。だから俺は、人生最後になる女遊びをしておこうと思った。それだけだ」


だから俺は間違ってないと主張するイアーゴに、セシリエはなんとなく、本当になんとなくだが、イアーゴの家庭事情が想像できた。


「セシリエ、結婚前の行動なんて当てにならない。いくらだって嘘を並べ立てられるんだ。だからあんな調査書なんかで俺を判断しないでくれ! 俺はセシリエと結婚した後は絶対に・・・」

「しません」

「え?」

「イアーゴさまとは結婚しません。結婚後の不貞も最低ですけど、婚約後の不貞も最低です。せっかく婚約解消できたのに、どうしてわざわざそんな人と婚約し直さないといけないんですか」

「・・・結婚したら、セシリエひと筋になるのに・・・?」

「さっきから言ってますけど、なんの保証もありませんよね、それ」

「・・・」

「さようなら」


今度こそ背を向けて、セシリエは出口に向かって歩き出した。
先ほどから扉向こうでちょこちょこ見え隠れする人影が、いつこちらセシリエを心配して飛び出してくるかと気が気でない。


セシリエは歩を進め、食堂を出る。

背後からイアーゴが追って来る気配はない。

セシリエが渡り廊下を通り過ぎ、自分の教室が見えてきたところで、ようやく息を吐き、振り返った。


「ご心配をおかけしました」

「・・・いえ、何もなくてよかったです」


そこに居たのはエーリッヒだ。
背中側に手を回しているが、何を隠し持っているのかは・・・聞かないでおこう。

こうして何事もなく話が終わったのだから。


「いつから僕がいる事に気づいてました?」

「う~ん、テーブル席に座ってすぐでしょうか。私からは出入り口が見える位置だったので。お陰で安心していられましたけど・・・」

「けど?」

「それ、使わなくてすんでよかったです」


セシリエは、エーリッヒが背に隠している方の手を指さし、笑った。


「僕もそう思います。実はあまりケンカには自信がなくて。まあ最悪、僕がやられてる間にセシリエさんだけでも逃がせればいいかな、なんて考えてました」


そう言うと、エーリッヒは隠し持っていた木の枝を廊下の窓から放り投げた。


どこで見つけてきたのか、なかなかに太い枝だった。






しおりを挟む
感想 148

あなたにおすすめの小説

完結 裏切られて可哀そう?いいえ、違いますよ。

音爽(ネソウ)
恋愛
プロポーズを受けて有頂天だったが 恋人の裏切りを知る、「アイツとは別れるよ」と聞こえて来たのは彼の声だった

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

完結 振り向いてくれない彼を諦め距離を置いたら、それは困ると言う。

音爽(ネソウ)
恋愛
好きな人ができた、だけど相手は振り向いてくれそうもない。 どうやら彼は他人に無関心らしく、どんなに彼女が尽くしても良い反応は返らない。 仕方なく諦めて離れたら怒りだし泣いて縋ってきた。 「キミがいないと色々困る」自己中が過ぎる男に彼女は……

完結 喪失の花嫁 見知らぬ家族に囲まれて

音爽(ネソウ)
恋愛
ある日、目を覚ますと見知らぬ部屋にいて見覚えがない家族がいた。彼らは「貴女は記憶を失った」と言う。 しかし、本人はしっかり己の事を把握していたし本当の家族のことも覚えていた。 一体どういうことかと彼女は震える……

融資できないなら離縁だと言われました、もちろん快諾します。

音爽(ネソウ)
恋愛
無能で没落寸前の公爵は富豪の伯爵家に目を付けた。 格下ゆえに逆らえずバカ息子と伯爵令嬢ディアヌはしぶしぶ婚姻した。 正妻なはずが離れ家を与えられ冷遇される日々。 だが伯爵家の事業失敗の噂が立ち、公爵家への融資が停止した。 「期待を裏切った、出ていけ」とディアヌは追い出される。

【完結】そんなに好きならもっと早く言って下さい! 今更、遅いです! と口にした後、婚約者から逃げてみまして

Rohdea
恋愛
──婚約者の王太子殿下に暴言?を吐いた後、彼から逃げ出す事にしたのですが。 公爵令嬢のリスティは、幼い頃からこの国の王子、ルフェルウス殿下の婚約者となるに違いない。 周囲にそう期待されて育って来た。 だけど、当のリスティは王族に関するとある不満からそんなのは嫌だ! と常々思っていた。 そんなある日、 殿下の婚約者候補となる令嬢達を集めたお茶会で初めてルフェルウス殿下と出会うリスティ。 決して良い出会いでは無かったのに、リスティはそのまま婚約者に選ばれてしまう── 婚約後、殿下から向けられる態度や行動の意味が分からず困惑する日々を送っていたリスティは、どうにか殿下と婚約破棄は出来ないかと模索するも、気づけば婚約して1年が経っていた。 しかし、ちょうどその頃に入学した学園で、ピンク色の髪の毛が特徴の男爵令嬢が現れた事で、 リスティの気持ちも運命も大きく変わる事に…… ※先日、完結した、 『そんなに嫌いなら婚約破棄して下さい! と口にした後、婚約者が記憶喪失になりまして』 に出て来た王太子殿下と、その婚約者のお話です。

完結 王子は貞操観念の無い妹君を溺愛してます

音爽(ネソウ)
恋愛
妹至上主義のシスコン王子、周囲に諌言されるが耳をを貸さない。 調子に乗る王女は王子に婚約者リリジュアについて大嘘を吹き込む。ほんの悪戯のつもりが王子は信じ込み婚約を破棄すると宣言する。 裏切ったおぼえがないと令嬢は反論した。しかし、その嘘を真実にしようと言い出す者が現れて「私と婚約してバカ王子を捨てないか?」 なんとその人物は隣国のフリードベル・インパジオ王太子だった。毒親にも見放されていたリリジュアはその提案に喜ぶ。だが王太子は我儘王女の想い人だった為に王女は激怒する。 後悔した王女は再び兄の婚約者へ戻すために画策するが肝心の兄テスタシモンが受け入れない。

処理中です...