【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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ガーデンパーティにて レオンハルトの場合

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さっさとどこかへ行ってしまった時は、なんか変わった子だな、くらいに思ってた。

でも、その後、またその子が僕のところにやって来て。

「先ほどは失礼いたしました。あの、乳母だった方に、これをぜひ」

そう言って彼女が僕に差し出したのは、少し細めのピンクのリボンのついた小さな包み。

急にどこかに行ってしまったと思ったら、突然、なに言い出してるの?

うまく返事ができず、ただ黙って包みを受け取ると、エレアーナ嬢はにっこりと嬉しそうに笑っている。

あれ……?

さっき挨拶したときよりも、少しだけ幼くなった印象を受けた。
隙のない小さな淑女に見えた彼女の顔に、女の子らしいあどけなさが浮かぶ。

「薔薇の匂い袋と、薔薇の蒸留水ですわ。わたくしが作りましたの」

勢い込んで、包みの中身について一生懸命に説明し始める。

瞳がきらきら輝いているけど、でもそれは王太子である僕に好意があるからというわけではないのは明らかで。

ふ~ん、僕に全然、興味ないんだね。
こんな子も、いるんだ。

なんだろ、少しほっとする。

それにしても、やたら嬉しそうに語ってるな。
これは、よっぽどの薔薇好きと見た。

そして、同じく薔薇が好きだという、僕の元乳母の体調を心配してくれたわけだな。

でも、手作りってさらっと言ってるけど、匂い袋とか蒸留水ってそんな簡単じゃないよね?

「この蒸留水はとっても素敵な薔薇の香りがしますの。お肌につけるとバラの香りに包まれて、幸せな気分になれますわ。ご気分が優れないときに、お試しくださるようお伝えください。ええと、わたくしは枕に垂らすのがお気に入りで……」

それにしても、この手の話をさせたら一日でも話してそうだな、この子。

ちょっと面白くなって、じっと耳を傾ける。

「髪につけてもいいんですのよ。わたくしも寝癖を直すときなどに……」

……うん?

「……へぇ、エレアーナ嬢も寝癖がつくことがあるんだね……」
「……!」

瞬間、エレアーナ嬢の顔が真っ赤になる。
その顔が、ちょっと僕のツボにはまって。

耳元に小さく囁いた、ちょっとしたからかいの言葉。
それに、彼女が思いきり年相応の素直な反応をしてくれたのが嬉しくて。
なんだか、その様子が、ものすごく、ものすごく可愛くて。

だって、挨拶のときは、完璧なまでの淑女だったのに。

なんか、すごく貴重なものを見た気がして。

「……殿下が気にかけておられると知れば、きっとその方も元気になるかと……ですから…あの……」

あぁ、鏡を見なくてもわかる。
きっと、僕も今、顔が赤くなってる。

ケインには気づかれてるかな。

「ぜひ……その方のお見舞いに……行ってあげてくださいませ」
「うん、わかった。……今度、行ってみるよ」

なんだろう、すごく愉快な気分だ。

僕は、こみ上げてくる笑いを喉の奥でかみ殺しながら、目の前で顔を赤くしている女の子を見つめた。

自惚れたわけじゃない。
別に僕を意識してるとかでなく、単に『寝癖』という言葉を恥ずかしがっているってことは、わかっているけど。

なんだか少し触れたくなって。
つい手が伸びて、ぽんぽんと頭を撫でる。

両手を頬にあてて息を整えていたエレアーナの顔が、途端、さらに朱に染まって。

ふふ、本当に可愛い。
あれ、ちょっと目が泳いでる? 

なんだろう、面白い。

もうちょっと、困らせてみたい気もするけれど、あまり警戒されたくないしな。

「……ありがとう。これ、渡したら、きっとすごく喜ぶよね」
「……! は、はい。そうでしたら、嬉しいです……」

残念、また俯いてしまった。
もっと、その顔を見ていたいのに。

挨拶を交わしたときの気品に溢れた様とは違う、真っ赤になって瞳を揺らす、可愛らしい姿。
どちらの君も素敵だけど。

でもきっと、今、僕の目の前にいる彼女は、誰もが知っている君の姿ではないはず。

あ、ケインには見られちゃったか。
うーん、ケインがライバルだったら、ちょっと厳しいかも。
外面だけきれいに整えて誤魔化してる僕と違って、中身まで格好いい奴だからな。

まぁ、でも。
最初からあきらめるわけにはいかないよね、

生まれて初めて、僕のものにしたいと思った女の子だから。

最後にもう一度、目の前にいる彼女を見つめる。
その笑顔を、目に焼き付ける。

「ありがとう。……それじゃ失礼するよ」
「こちらこそありがとうございました。ごきげんよう」
「……では、失礼」

ケインと共に礼をして、その場を去る。
体はまだ熱を帯びたまま。

ケインも何も言わない。
まぁ、無口なのはいつものことだけど。

軽く目を閉じる。
眼裏に浮かぶのは先ほどまでの彼女の姿。

完璧な淑女の笑み。
目を輝かせて話すときに垣間見えたあどけなさ。
恥じらった赤い頬。

何より、王太子妃の地位に執着の欠片もなくて。

僕は、新鮮な感動に包まれていた。

あの子は、僕を好きになってくれるかな。
好きになってくれるといいけれど。

父上、見つけましたよ。
僕の妃になってほしいと、初めて思った女の子を。
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