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王太子は恋に浮かれて
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「……ほう、エレアーナ・ブライトンを婚約者に臨むと? レオンハルト」
「はい、父上。できることならば」
僕は今、国王の執務室にいた。
先だって催された、ガーデンパーティの報告を求められ、父のいる執務室に赴いたのだ。
もちろん、婚約者候補が絞れているかどうかの確認で。
「……なるほどな」
「そうですねぇ。陛下が立てられた候補者の中で、エレアーナ嬢は第一候補者でしたから」
父とダイスヒル宰相は、互いの顔を見ながら頷き合っている。
どうやら形式上、複数の候補者を挙げていただけのようだ。
--まぁ、そうだとは思っていたけれど。
派閥間のバランスとかもあるから、候補者リストに名前を挙げるだけでも、かなり慎重に考えないといけないのだろう。
まぁ、政略結婚ってそういうものだしね。
でも今回のことは、義務でも理屈でも政略でもなく、僕自身がエレアーナを欲しいと思ったから。
陛下たちが理論上最も理想的な婚約者とする女性と、僕が願った女の子が同じ人物であるということは、本当に奇跡のような出来事で。
だから、きっと、僕は、世界で一番幸せな王族と言ってもいいのかもしれない。
政略上、最も有望な結婚相手が、自分が恋した女の子だったなんて。
……あ、でも、まだ結婚できると決まったわけではないんだけど。
「そうか、ブライトン家の公爵令嬢か。……さて、どうでるかな、ライプニヒは」
父の声にハッと我に返る。
目をやれば、父は少し眉を下げて渋い顔をしている。
「……ライプニヒ、公爵……ですか?」
「ああ、あそこにもエレアーナ嬢と同じ年頃の娘がおるからな。お前も会場で会っているはずだが」
「会場で……とおっしゃいますと、先日のガーデンパーティで、でしょうか……」
言われても咄嗟に思い出せない。
確かに、何人もの令嬢たちに囲まれて話はしたが。
着飾ったドレス、甘ったるい話し声、上目遣いのわざとらしい眼差し、むせかえる香水の匂い・・・周囲の人はおろか、僕自身にすら興味がなく。
ただ王太子妃という立場を、権力を、影響力を欲しがっているだけの令嬢たちで。
これまでいつも、大抵の令嬢はそんな感じだったから、正直、誰かが記憶に残ったことなどなかった。
……エレアーナ以外は。
「ああ、シュリエラ嬢ですな。ケインバッハから聞きましたよ。なかなかに個性的なご令嬢だとね」
「ほう……?」
シュリエラ……?
宰相の言葉が頭の中をよぎる。
ケインは覚えているのか。
『なかなかに個性的』とは、それこそなかなかに婉曲的だな。
「そういえば、ケインバッハが急に、剣の指南先を変えてほしいと言い出しましてな。今、慌ててお願いしているところです。なにやらやる気が出たようで」
「良いことではないか。剣の腕が立つに越したことはない」
「ええ、どうも思うところがあるようでしてね」
そう言いながら、宰相はちらりと目線をこちらに流すが、僕は覚えのない令嬢のことでいろいろと考え込んでいて、まったく気づかない。
鋭い観察眼の持ち主であるケインがそう言ったのであれば、きっとその令嬢はパーティ会場で何かしたんだろうな、なんて思ってて。
ケインの性格を考えれば、父親に自ら報告したとは考えにくい。
恐らくは屋敷でダイスヒル宰相から尋ねられて初めて、自分の感想を述べたのだろう、けど。
まったく、無口にも程があるよな。
僕にくらい教えてくれてもいいだろうに。僕の婚約者候補の話だぞ。
その子を間違って選んじゃったらどうするんだ。
いや、そんなヘマしないけどさ。
必要なこと以外は口にしない、その寡黙な性格に、呆れを通り越して笑ってしまいそうだ。
……そんなことばかり、考えていたから、気づかなかった。
「まぁ、ライプニヒが何を言おうが聞く気はないがな。あれが中身のあることを進言したことはないからな」
「しかし、かなりの期待をかけていた様ですからね。なりふり構わずに行動されたら、厄介なことが起こる可能性もありますが」
「まぁな、公爵家とはいえ今の奴には実質、何もない、家格しか残っておらんのだ。必死にもなるだろうよ。せめて、あれの父親のような頭の回転の速さと抜け目ない判断力でも受け継いでいれば、政務でもう少し使うこともできたのだが」
「プライドだけの人間は、かえって面倒ですからねぇ」
陛下はちらり、と僕に目を向けた。
「……だ、そうだ。レオンハルト、心に留めておけ」
「はい」
思えば、僕はこのとき、かなり浮かれていたのだろう。
初めての恋に酔いしれて。
陛下の助言も、宰相の言葉も、もらっていたヒントも、きちんと理解していなかった。
何も考えようとしなかった。
ケインだって、すでに考えて行動を起こしていたのに。
「はい、父上。できることならば」
僕は今、国王の執務室にいた。
先だって催された、ガーデンパーティの報告を求められ、父のいる執務室に赴いたのだ。
もちろん、婚約者候補が絞れているかどうかの確認で。
「……なるほどな」
「そうですねぇ。陛下が立てられた候補者の中で、エレアーナ嬢は第一候補者でしたから」
父とダイスヒル宰相は、互いの顔を見ながら頷き合っている。
どうやら形式上、複数の候補者を挙げていただけのようだ。
--まぁ、そうだとは思っていたけれど。
派閥間のバランスとかもあるから、候補者リストに名前を挙げるだけでも、かなり慎重に考えないといけないのだろう。
まぁ、政略結婚ってそういうものだしね。
でも今回のことは、義務でも理屈でも政略でもなく、僕自身がエレアーナを欲しいと思ったから。
陛下たちが理論上最も理想的な婚約者とする女性と、僕が願った女の子が同じ人物であるということは、本当に奇跡のような出来事で。
だから、きっと、僕は、世界で一番幸せな王族と言ってもいいのかもしれない。
政略上、最も有望な結婚相手が、自分が恋した女の子だったなんて。
……あ、でも、まだ結婚できると決まったわけではないんだけど。
「そうか、ブライトン家の公爵令嬢か。……さて、どうでるかな、ライプニヒは」
父の声にハッと我に返る。
目をやれば、父は少し眉を下げて渋い顔をしている。
「……ライプニヒ、公爵……ですか?」
「ああ、あそこにもエレアーナ嬢と同じ年頃の娘がおるからな。お前も会場で会っているはずだが」
「会場で……とおっしゃいますと、先日のガーデンパーティで、でしょうか……」
言われても咄嗟に思い出せない。
確かに、何人もの令嬢たちに囲まれて話はしたが。
着飾ったドレス、甘ったるい話し声、上目遣いのわざとらしい眼差し、むせかえる香水の匂い・・・周囲の人はおろか、僕自身にすら興味がなく。
ただ王太子妃という立場を、権力を、影響力を欲しがっているだけの令嬢たちで。
これまでいつも、大抵の令嬢はそんな感じだったから、正直、誰かが記憶に残ったことなどなかった。
……エレアーナ以外は。
「ああ、シュリエラ嬢ですな。ケインバッハから聞きましたよ。なかなかに個性的なご令嬢だとね」
「ほう……?」
シュリエラ……?
宰相の言葉が頭の中をよぎる。
ケインは覚えているのか。
『なかなかに個性的』とは、それこそなかなかに婉曲的だな。
「そういえば、ケインバッハが急に、剣の指南先を変えてほしいと言い出しましてな。今、慌ててお願いしているところです。なにやらやる気が出たようで」
「良いことではないか。剣の腕が立つに越したことはない」
「ええ、どうも思うところがあるようでしてね」
そう言いながら、宰相はちらりと目線をこちらに流すが、僕は覚えのない令嬢のことでいろいろと考え込んでいて、まったく気づかない。
鋭い観察眼の持ち主であるケインがそう言ったのであれば、きっとその令嬢はパーティ会場で何かしたんだろうな、なんて思ってて。
ケインの性格を考えれば、父親に自ら報告したとは考えにくい。
恐らくは屋敷でダイスヒル宰相から尋ねられて初めて、自分の感想を述べたのだろう、けど。
まったく、無口にも程があるよな。
僕にくらい教えてくれてもいいだろうに。僕の婚約者候補の話だぞ。
その子を間違って選んじゃったらどうするんだ。
いや、そんなヘマしないけどさ。
必要なこと以外は口にしない、その寡黙な性格に、呆れを通り越して笑ってしまいそうだ。
……そんなことばかり、考えていたから、気づかなかった。
「まぁ、ライプニヒが何を言おうが聞く気はないがな。あれが中身のあることを進言したことはないからな」
「しかし、かなりの期待をかけていた様ですからね。なりふり構わずに行動されたら、厄介なことが起こる可能性もありますが」
「まぁな、公爵家とはいえ今の奴には実質、何もない、家格しか残っておらんのだ。必死にもなるだろうよ。せめて、あれの父親のような頭の回転の速さと抜け目ない判断力でも受け継いでいれば、政務でもう少し使うこともできたのだが」
「プライドだけの人間は、かえって面倒ですからねぇ」
陛下はちらり、と僕に目を向けた。
「……だ、そうだ。レオンハルト、心に留めておけ」
「はい」
思えば、僕はこのとき、かなり浮かれていたのだろう。
初めての恋に酔いしれて。
陛下の助言も、宰相の言葉も、もらっていたヒントも、きちんと理解していなかった。
何も考えようとしなかった。
ケインだって、すでに考えて行動を起こしていたのに。
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