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王国騎士団鍛錬場にて
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「鍛錬場にようこそ、ケインバッハ殿」
「図々しい願いを申し上げたこと、お詫びいたします。ロッテングルム騎士団長。王国騎士団の訓練でお忙しい中、私1人のためにお時間を取らせてしまって」
「致し方ありますまい。宰相からの直々に頼みですからな」
騎士団長の姿は、さすがの貫禄と言おうか。
だが、笑顔を浮かべていても、その眼はまったく笑っていない。
それも仕方のないことで。
リーベンフラウン王国騎士団を統括訓練する団長として、早朝、午前そして午後遅くまで、基礎訓練や全体訓練、作戦行動確認演習などなど、予定はぎっしり詰まっている。
それを、わざわざケインバッハ一人のために、ロッテングルム騎士団長直々に鍛錬してくれ、と言っているのだから。
しかも、望んでいるのは、一度きりの稽古ではない。
口添えを頼んだ父でさえ、頼みづらいと珍しく嫌な顔をしていたくらいだ。
たかだか14かそこらの、しかも騎士志望でもない若造が、王国最強の多忙な騎士団長に、指南をしろと詰め寄る無礼は自覚している。
ケインバッハは、姿勢を正し、改めて深く礼を取った。
「父の威を借り、大変な無理を申しました。ご無礼をお詫びいたします。ですが、どうあっても、カーン・ロッテングルム騎士団長より訓練をつけていただきたかった。私は……強くなりたいのです」
深く下げた頭にじっと注がれる騎士団長の鋭い視線を感じながら、はっきりとケインバッハは告げた。
「……ほう?」
「ご迷惑をおかけしていることは、重々承知しております。その上で、あえてお願いしたい。騎士を志望してはおりませんが、大切な人を守るため、立派に戦えるようになるため、厳しい指導を望んでおります。宰相の一人息子だ、などという手加減は一切ご無用。どうか、王国一の剣士であるロッテングルム騎士団長のお力をお借りしたい。」
頭を下げたまま、言葉をつなぐ。
「……どうか、よろしくお願いいたしします」
姿勢を保ち、じっとロッテングルム騎士団長の言葉を待つ。
だが、団長は黙ったまま。
やはりと言おうか、そうとう迷惑なのだろう。
しばらくの静寂の後、ケインバッハの背後から声が響いた。
「なぁーにいつまでも頭下げさせてんの? まったく趣味悪いな、親父は」
「……ライ、来るなって言っただろう」
騎士団長の声が低く響く。
「強くなりたいって言ってんじゃん。それで親父に目をつけたってんなら正解だろ。無理を言ってることの詫びは入れてんだし。ここは男らしく稽古つけてやんなよ」
頭をポリポリと掻きながら、はぁーっと大きく息をつくと、騎士団長はケインバッハの肩に手を置いた。
「それはそうなんだが。……あー、すまんな、試すようなことをして。顔を上げてくれ」
ケインバッハはゆっくりと頭を上げた。
「悪かった。本気じゃない奴には1秒使うのも惜しいと思っていたもんでね」
「いえ、そんな。謝らないでください。団長のご都合も考えず、図々しい願いをしたわけですから」
「丁度いいや。なぁ、親父。稽古つけてやるんだったら、オレも混ぜてよ。オレ、ぜんぜん動き足りないし」
ケインバッハに対する態度を和らげた騎士団長との会話に、先ほどの声の主が入ってきた。
短く刈り込んだ茶髪に、赤い眼。団長とよく似た面差しだ。
記憶にあるよりも背が伸びて大人びた印象だが、確かにあの時会った団長の三番目の息子だ。
「まずは挨拶だろ。騎士たるもの、礼儀を欠いてはならんと、いつも言っているだろうが」
「いてっ!」
団長が、ぺしっと頭を叩く。
随分と仲がいい。くすり、とケインバッハが微笑んだ。
「あぁ、すまんね。こいつは私の息子だ。ライナスバージと言う」
「ライナスバージ・ロッテングルムと言う。4年前から騎士団員として訓練を受けてるんだ」
すでに4年も—
再び、ケインバッハは深く礼を取る。
「ケインバッハ・ダイスヒルと申します。剣の扱いについては、ひと通り教わりはしたものの、まだまだ未熟としか申し上げられません。それで、今一度カーン・ロッテングルム殿よりご指導いただきたく、無理を押してお願い申し上げた次第です」
ここまで一気にまくしたてた。
そして更に声を張り上げて、最後の言葉を結ぶ。
「ロッテングルム騎士団長、ライナスバージ殿、不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします!」
「……」
「……」
親子で黙り込んだ。
頭を上げると、二人とも微妙な表情をしている。
しまった。何かまずいことでも言ってしまったか?
慌てて謝罪の言葉を口にしようとすると……。
「ぷっ……」
「くくっ……」
「……え?」
二人は俯いたまま笑っているではないか。肩まで振るわせて。
「……どうされました?」
「あーっ! もう無理っ!」
「無理だなっ! もう我慢できんっ!」
それだけ言って、2人は、ぶはーっと大声で笑い出した。
「……あの……?」
「「はははっ、何だ、その口上はっー! ふつ、不束者? 不束者って何だ? お前、どんだけ真面目なんだよーっ!?」」
声を合わせて笑われて。
しかも、2人から背中をべしべしと叩かれて。
その力が強くて、けっこう痛い。
……だが、どうしてこの2人は、こんなに笑っているんだろう?
「図々しい願いを申し上げたこと、お詫びいたします。ロッテングルム騎士団長。王国騎士団の訓練でお忙しい中、私1人のためにお時間を取らせてしまって」
「致し方ありますまい。宰相からの直々に頼みですからな」
騎士団長の姿は、さすがの貫禄と言おうか。
だが、笑顔を浮かべていても、その眼はまったく笑っていない。
それも仕方のないことで。
リーベンフラウン王国騎士団を統括訓練する団長として、早朝、午前そして午後遅くまで、基礎訓練や全体訓練、作戦行動確認演習などなど、予定はぎっしり詰まっている。
それを、わざわざケインバッハ一人のために、ロッテングルム騎士団長直々に鍛錬してくれ、と言っているのだから。
しかも、望んでいるのは、一度きりの稽古ではない。
口添えを頼んだ父でさえ、頼みづらいと珍しく嫌な顔をしていたくらいだ。
たかだか14かそこらの、しかも騎士志望でもない若造が、王国最強の多忙な騎士団長に、指南をしろと詰め寄る無礼は自覚している。
ケインバッハは、姿勢を正し、改めて深く礼を取った。
「父の威を借り、大変な無理を申しました。ご無礼をお詫びいたします。ですが、どうあっても、カーン・ロッテングルム騎士団長より訓練をつけていただきたかった。私は……強くなりたいのです」
深く下げた頭にじっと注がれる騎士団長の鋭い視線を感じながら、はっきりとケインバッハは告げた。
「……ほう?」
「ご迷惑をおかけしていることは、重々承知しております。その上で、あえてお願いしたい。騎士を志望してはおりませんが、大切な人を守るため、立派に戦えるようになるため、厳しい指導を望んでおります。宰相の一人息子だ、などという手加減は一切ご無用。どうか、王国一の剣士であるロッテングルム騎士団長のお力をお借りしたい。」
頭を下げたまま、言葉をつなぐ。
「……どうか、よろしくお願いいたしします」
姿勢を保ち、じっとロッテングルム騎士団長の言葉を待つ。
だが、団長は黙ったまま。
やはりと言おうか、そうとう迷惑なのだろう。
しばらくの静寂の後、ケインバッハの背後から声が響いた。
「なぁーにいつまでも頭下げさせてんの? まったく趣味悪いな、親父は」
「……ライ、来るなって言っただろう」
騎士団長の声が低く響く。
「強くなりたいって言ってんじゃん。それで親父に目をつけたってんなら正解だろ。無理を言ってることの詫びは入れてんだし。ここは男らしく稽古つけてやんなよ」
頭をポリポリと掻きながら、はぁーっと大きく息をつくと、騎士団長はケインバッハの肩に手を置いた。
「それはそうなんだが。……あー、すまんな、試すようなことをして。顔を上げてくれ」
ケインバッハはゆっくりと頭を上げた。
「悪かった。本気じゃない奴には1秒使うのも惜しいと思っていたもんでね」
「いえ、そんな。謝らないでください。団長のご都合も考えず、図々しい願いをしたわけですから」
「丁度いいや。なぁ、親父。稽古つけてやるんだったら、オレも混ぜてよ。オレ、ぜんぜん動き足りないし」
ケインバッハに対する態度を和らげた騎士団長との会話に、先ほどの声の主が入ってきた。
短く刈り込んだ茶髪に、赤い眼。団長とよく似た面差しだ。
記憶にあるよりも背が伸びて大人びた印象だが、確かにあの時会った団長の三番目の息子だ。
「まずは挨拶だろ。騎士たるもの、礼儀を欠いてはならんと、いつも言っているだろうが」
「いてっ!」
団長が、ぺしっと頭を叩く。
随分と仲がいい。くすり、とケインバッハが微笑んだ。
「あぁ、すまんね。こいつは私の息子だ。ライナスバージと言う」
「ライナスバージ・ロッテングルムと言う。4年前から騎士団員として訓練を受けてるんだ」
すでに4年も—
再び、ケインバッハは深く礼を取る。
「ケインバッハ・ダイスヒルと申します。剣の扱いについては、ひと通り教わりはしたものの、まだまだ未熟としか申し上げられません。それで、今一度カーン・ロッテングルム殿よりご指導いただきたく、無理を押してお願い申し上げた次第です」
ここまで一気にまくしたてた。
そして更に声を張り上げて、最後の言葉を結ぶ。
「ロッテングルム騎士団長、ライナスバージ殿、不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします!」
「……」
「……」
親子で黙り込んだ。
頭を上げると、二人とも微妙な表情をしている。
しまった。何かまずいことでも言ってしまったか?
慌てて謝罪の言葉を口にしようとすると……。
「ぷっ……」
「くくっ……」
「……え?」
二人は俯いたまま笑っているではないか。肩まで振るわせて。
「……どうされました?」
「あーっ! もう無理っ!」
「無理だなっ! もう我慢できんっ!」
それだけ言って、2人は、ぶはーっと大声で笑い出した。
「……あの……?」
「「はははっ、何だ、その口上はっー! ふつ、不束者? 不束者って何だ? お前、どんだけ真面目なんだよーっ!?」」
声を合わせて笑われて。
しかも、2人から背中をべしべしと叩かれて。
その力が強くて、けっこう痛い。
……だが、どうしてこの2人は、こんなに笑っているんだろう?
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