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とあるご令嬢たちの来訪 その2
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「石鹸もうがい薬も、それから他の手作りのお品も、すべて国民の衛生環境の向上のためにその方が持ってこられたとお聞きしました」
アリエラの瞳は真っ直ぐエレアーナを見つめていた。
「考えてみれば、確かにそれらが置いてあったのは、受付や一般病棟の区画ばかり。弟がいた貴族専用病棟には、わたくしたちが通常使用しているのと同じ品を置いてましたわ。ですから、わたくしたちも弟も、最初はそうした品々については何も知らなかったのです」
そう言って、少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「ハーブのうがい薬は、幼い弟のためにと病院のスタッフがわざわざ一般病棟から持ってきてくださいました。聞けばその高貴な方は、各区の病院の他に孤児院も回っていらっしゃると。……医療や薬を当たり前のように享受し、平民たちの暮らしについて思い至ることもなかったわたくしたちは、その時とても恥ずかしく思いましたのよ」
「……何度か、病院で包みを持ってらっしゃるエレアーナさまをお見かけすることはあったのです。護衛の方も大きな荷物を馬車から降ろしてましたし、少し不思議に思いました。でも、まだ確信はなかったのです。ですが……」
アリエラの言葉を妹が引き継いだ。だが一度、言葉を切る。
どこか恥ずかし気に、苦しげに、唇を噛んで。
両手の指をもじもじと絡めながら、そのままカトリアナはしばらく俯いていたが、誰も何か言うことも急かすこともせず、ただ静かにその言葉の続きを待った。
やがてカトリアナは顔を上げると、少し震える声で、しかしきっぱりと言った。
「北区にある、我が邸のお抱えの宝飾店まで買い物に向かっていたときのことです。わたくしたちの乗っていた馬車の窓から、エレアーナさまたちのお姿が見えましたの。通りに停めた馬車から荷物を運び出してらっしゃった。幸い、そのとき馬車に乗っていたのは、護衛の者以外には姉とわたくしの2人だけでしたから、すぐに停めて……その……様子を見させていただきました。……お気を悪くされたら申し訳ありません」
カトリアナは顔を赤らめ、今にも泣きそうだ。
アリエラが手を伸ばし、カトリアナの手にそっと重ねる。
そして今度は、話の続きをアリエラが引き継いで。
「エレアーナさまたちが荷物を持って行かれた先はキルフィエ街の孤児院でした。たくさんの子どもたちが出て来てエレアーナさまたちを囲み始めて、みんなとても嬉しそうにして……。ああ、きっとこの方だと、そのときに思ったのです。それで後からその孤児院をわたくしたちも訪問したのです。……エレアーナさまのお名前は、そこで伺いました。不躾な行為であることは承知しております。どうかお許しくださいませ、エレアーナさま」
そう言って2人は深く頭を下げた。
「お気になさらないでくださいませ。さぁ、アリエラさま、カトリアナさまも、お顔を上げてくださいな」
おずおずと頭を上げた2人に、エレアーナはにっこりと優しく笑いかける。
「アリエラさま、カトリアナさま。わたくしに会いたいとお声をかけてくださったのは、ほかに何か理由があるのではありませんか? わたくしに聞かせずに済む話を、わざわざ打ち明けくださったのですもの」
2人は互いの顔を見合わせて頷き、再びエレアーナに向き直った。
その瞳はとても真剣で。思わずエレアーナの姿勢も正される。
「さすがエレアーナさまですわ。ええ、実はお願いがあって参りましたの。……実は、エレアーナさまがハーブや薬草を使ってお作りになっている品々、それらすべて、作り方をわたくしたちに教えていただきたいのです」
エレアーナは意図を確かめるかのように2人の顔を見つめた。
2人ともに、いたく真剣な眼差しで返事を待っている。
これまでの話からしても、軽々しい好奇心で首を突っ込むような人たちではないことは明らかで。
……ただの物珍しさではない、ということね。
「……まずはお茶を淹れなおさせますわ。すっかり冷えてしまいましたもの。少々お待ちになって」
メイドに合図を送って温かいお茶を用意させ、2人に勧める。
あれだけ話した後だもの。さぞ喉は乾いているはず。
まだ緊張が解けないのか、2人の動きはまだ少々ぎこちなかったが、ゆっくりとカップに手を伸ばし、お茶に口をつけた。
温かいお茶にほっと息をついたところで、再び話を切り出す。
「……では、理由をお伺いしても?」
アリエラはテーブルに静かにカップを戻し、居住まいを正した。
「孤児院の院長や病院のスタッフたちから、エレアーナさまの活動について詳しく聞かせてもらいました。それで、わたくしたちは考えたのです」
アリエラは、確認するように一度視線を妹へと向けた。
「一つは、わたくしたちもその活動のお手伝いができないかということ。作り手の数が増えれば、出来上がる品の数も増えますもの。そうすればもっと多くの人に届けることができますわ。もちろん、運ぶ際のお手伝いもいたします」
意外な申し出に、エレアーナは目を見開いた。
「そしてもう一つ、それはウィッテンハイムですわ。今、ウィルのために譲っていただいている薬は、本当なら他の人たちの手に渡るはずのもの。それを、寄付するからとマスカルバーノ侯爵家に譲ってもらうのは間違っていると思うのです」
アリエラは胸に手を当て、静かに語り続ける。
「十分な医療を受けるだけの財力がある者が、病院に行くこともままならない民から医療品を奪うことになるのです。そしてそれはまた、エレアーナさまの本来の趣旨とも異なると思います。ですから、わたくしたちが……わたくしとカトリアナとで、ウィルの分を作りたいと思いましたの」
俯き加減だった顔を上げ、エレアーナを見つめる。
「エレアーナさま、あなたがお渡ししたいと思った人たちに、あなたがお作りした分をきちんとお届けできるように。そして……できることなら、あなたの友人としてお手伝いができるようになりたいのです」
エレアーナはとても驚いていた。
2人の真剣な眼差しに。その言葉に。
自分としては、ただの植物好きが高じて、薬草やハーブにまで手を出して、いろいろと作り出したのが始まりだった。
それをこんなにも真剣に、こんなにも高く評価してくれる人がいるなんて、思ってもいなくて。
通常、貴族の子女には家庭教師が付くため、ほとんどの時間を屋敷内で過ごすことになる。
そのため個人の社交活動の多少如何で、人脈や人づき合いの規模が変わってしまう。
社交デビュー前のせいもあるけれど、自分のように草花の世話に没頭し、あげく趣味が高じて色々なものを作ってばかりいる人間には、当然、友人と呼べるような存在は1人もいなくて。
それでいいと、思っていた。
楽しく過ごしていたし、寂しいと思ったことなど、1度もなくて。
むしろ、人づき合いなんて、自分には無用だと思っていたから。
だから、こんなことは初めてだった。
この人と友達になりたい。
そんなこと、言われるのも、自分から思うのも初めてで。
なんて素敵な方たち。
なんて素敵なご令嬢なのかしら。
嬉しくて。
泣きそうな顔で、言いにくいことをわざわざ正直に話してまで、自分に近づいてくれた。
目の前の2人のことが、すごく、すごく嬉しくて。
自然と、心から笑みが零れた。
「ありがとうございます。……アリエラさま、カトリアナさま。わたくしこそ、お願いしたいですわ。ぜひ、友人になってくださいませ」
アリエラの瞳は真っ直ぐエレアーナを見つめていた。
「考えてみれば、確かにそれらが置いてあったのは、受付や一般病棟の区画ばかり。弟がいた貴族専用病棟には、わたくしたちが通常使用しているのと同じ品を置いてましたわ。ですから、わたくしたちも弟も、最初はそうした品々については何も知らなかったのです」
そう言って、少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「ハーブのうがい薬は、幼い弟のためにと病院のスタッフがわざわざ一般病棟から持ってきてくださいました。聞けばその高貴な方は、各区の病院の他に孤児院も回っていらっしゃると。……医療や薬を当たり前のように享受し、平民たちの暮らしについて思い至ることもなかったわたくしたちは、その時とても恥ずかしく思いましたのよ」
「……何度か、病院で包みを持ってらっしゃるエレアーナさまをお見かけすることはあったのです。護衛の方も大きな荷物を馬車から降ろしてましたし、少し不思議に思いました。でも、まだ確信はなかったのです。ですが……」
アリエラの言葉を妹が引き継いだ。だが一度、言葉を切る。
どこか恥ずかし気に、苦しげに、唇を噛んで。
両手の指をもじもじと絡めながら、そのままカトリアナはしばらく俯いていたが、誰も何か言うことも急かすこともせず、ただ静かにその言葉の続きを待った。
やがてカトリアナは顔を上げると、少し震える声で、しかしきっぱりと言った。
「北区にある、我が邸のお抱えの宝飾店まで買い物に向かっていたときのことです。わたくしたちの乗っていた馬車の窓から、エレアーナさまたちのお姿が見えましたの。通りに停めた馬車から荷物を運び出してらっしゃった。幸い、そのとき馬車に乗っていたのは、護衛の者以外には姉とわたくしの2人だけでしたから、すぐに停めて……その……様子を見させていただきました。……お気を悪くされたら申し訳ありません」
カトリアナは顔を赤らめ、今にも泣きそうだ。
アリエラが手を伸ばし、カトリアナの手にそっと重ねる。
そして今度は、話の続きをアリエラが引き継いで。
「エレアーナさまたちが荷物を持って行かれた先はキルフィエ街の孤児院でした。たくさんの子どもたちが出て来てエレアーナさまたちを囲み始めて、みんなとても嬉しそうにして……。ああ、きっとこの方だと、そのときに思ったのです。それで後からその孤児院をわたくしたちも訪問したのです。……エレアーナさまのお名前は、そこで伺いました。不躾な行為であることは承知しております。どうかお許しくださいませ、エレアーナさま」
そう言って2人は深く頭を下げた。
「お気になさらないでくださいませ。さぁ、アリエラさま、カトリアナさまも、お顔を上げてくださいな」
おずおずと頭を上げた2人に、エレアーナはにっこりと優しく笑いかける。
「アリエラさま、カトリアナさま。わたくしに会いたいとお声をかけてくださったのは、ほかに何か理由があるのではありませんか? わたくしに聞かせずに済む話を、わざわざ打ち明けくださったのですもの」
2人は互いの顔を見合わせて頷き、再びエレアーナに向き直った。
その瞳はとても真剣で。思わずエレアーナの姿勢も正される。
「さすがエレアーナさまですわ。ええ、実はお願いがあって参りましたの。……実は、エレアーナさまがハーブや薬草を使ってお作りになっている品々、それらすべて、作り方をわたくしたちに教えていただきたいのです」
エレアーナは意図を確かめるかのように2人の顔を見つめた。
2人ともに、いたく真剣な眼差しで返事を待っている。
これまでの話からしても、軽々しい好奇心で首を突っ込むような人たちではないことは明らかで。
……ただの物珍しさではない、ということね。
「……まずはお茶を淹れなおさせますわ。すっかり冷えてしまいましたもの。少々お待ちになって」
メイドに合図を送って温かいお茶を用意させ、2人に勧める。
あれだけ話した後だもの。さぞ喉は乾いているはず。
まだ緊張が解けないのか、2人の動きはまだ少々ぎこちなかったが、ゆっくりとカップに手を伸ばし、お茶に口をつけた。
温かいお茶にほっと息をついたところで、再び話を切り出す。
「……では、理由をお伺いしても?」
アリエラはテーブルに静かにカップを戻し、居住まいを正した。
「孤児院の院長や病院のスタッフたちから、エレアーナさまの活動について詳しく聞かせてもらいました。それで、わたくしたちは考えたのです」
アリエラは、確認するように一度視線を妹へと向けた。
「一つは、わたくしたちもその活動のお手伝いができないかということ。作り手の数が増えれば、出来上がる品の数も増えますもの。そうすればもっと多くの人に届けることができますわ。もちろん、運ぶ際のお手伝いもいたします」
意外な申し出に、エレアーナは目を見開いた。
「そしてもう一つ、それはウィッテンハイムですわ。今、ウィルのために譲っていただいている薬は、本当なら他の人たちの手に渡るはずのもの。それを、寄付するからとマスカルバーノ侯爵家に譲ってもらうのは間違っていると思うのです」
アリエラは胸に手を当て、静かに語り続ける。
「十分な医療を受けるだけの財力がある者が、病院に行くこともままならない民から医療品を奪うことになるのです。そしてそれはまた、エレアーナさまの本来の趣旨とも異なると思います。ですから、わたくしたちが……わたくしとカトリアナとで、ウィルの分を作りたいと思いましたの」
俯き加減だった顔を上げ、エレアーナを見つめる。
「エレアーナさま、あなたがお渡ししたいと思った人たちに、あなたがお作りした分をきちんとお届けできるように。そして……できることなら、あなたの友人としてお手伝いができるようになりたいのです」
エレアーナはとても驚いていた。
2人の真剣な眼差しに。その言葉に。
自分としては、ただの植物好きが高じて、薬草やハーブにまで手を出して、いろいろと作り出したのが始まりだった。
それをこんなにも真剣に、こんなにも高く評価してくれる人がいるなんて、思ってもいなくて。
通常、貴族の子女には家庭教師が付くため、ほとんどの時間を屋敷内で過ごすことになる。
そのため個人の社交活動の多少如何で、人脈や人づき合いの規模が変わってしまう。
社交デビュー前のせいもあるけれど、自分のように草花の世話に没頭し、あげく趣味が高じて色々なものを作ってばかりいる人間には、当然、友人と呼べるような存在は1人もいなくて。
それでいいと、思っていた。
楽しく過ごしていたし、寂しいと思ったことなど、1度もなくて。
むしろ、人づき合いなんて、自分には無用だと思っていたから。
だから、こんなことは初めてだった。
この人と友達になりたい。
そんなこと、言われるのも、自分から思うのも初めてで。
なんて素敵な方たち。
なんて素敵なご令嬢なのかしら。
嬉しくて。
泣きそうな顔で、言いにくいことをわざわざ正直に話してまで、自分に近づいてくれた。
目の前の2人のことが、すごく、すごく嬉しくて。
自然と、心から笑みが零れた。
「ありがとうございます。……アリエラさま、カトリアナさま。わたくしこそ、お願いしたいですわ。ぜひ、友人になってくださいませ」
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