【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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思慕にも似た

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「あやつらには、一日中そこに留まるように言ってある。前後の送り迎えは、そちらに頼むことになるが」
「わかりました。前回同様、迎えはアイスケルヒに頼むことにしましょう」
「お任せを」

ホルヘ孤児院のバザー前夜、ルシウスとアイスケルヒは陛下に呼ばれて王の執務室に来ていた。
今夜はベルフェルトの姿はなく、陛下とダイスヒル宰相の2人が部屋で待っていた。

「前回は襲撃できずに終わらせることに成功したが、今回は他に何か手を打っているかもしれん。ベルフェルトも部下たちと共に待機させておくが、念のためレオンハルトたちにも剣を持たせることにしておいた」
「目立つわけにはいかないので、短剣になりますがね」
「しかし、殿下にもしものことでもあれば…」
「構わん。王族は守られる存在ではない、臣下や民を守るためにあるのだ。エレアーナに危険な役を負ってもらう以上、せめて前面に立って守るのが当然だろう」
「ケインバッハも最近は腕をかなり上げた様子。何かあれば、盾となることはできましょう」
「……ありがとうございます」

エレアーナを気遣う言葉に、ルシウスの瞳に宿る重たげな光が少し、薄くなって。

どれだけ対策を練ろうと、心配が消えることはないだろうに、とシャールベルムは、最低限の不平すらこぼさない2人に、静かな眼差しを注ぐ。

「辛抱させるな、ルシウス」
「いいえ、これも理由あってのこと。致し方ありません」
「そう言ってくれるのは有難いな。……まぁ、おそらく、だが。もう少ししたら、お前にもこの話を聞いてもらうことになるだろう」
「陛下?」
「じきに、こちらも動かねばならなくなる……かもしれん」

シャールベルムの瞳がルシウスたちの姿を映す。
ルシウスは、慎重に言葉を選びながら口を開いた。

「じきに……ですか。今はまだ、それ以上は……お聞かせいただけないのでしょうね?」
「ああ。……いや、一つだけ、知らせておこう」

少しの逡巡の後に、シャールベルムは言葉を続けた。
切れ長の紫の瞳が気遣わしげに揺れる。

「すでに気付いているかもしれんが、事の発端はライプニヒだ。今回、および前回の襲撃計画はライプニヒ自身から出た命ではないにせよ、その傍系貴族らが手を回したことだと報告されている」
「……」

やはり、ライプニヒか。
ルシウスにとってわかりきった答えではあったものの、どこか頭の隅で、そうではないことを願っていたような気もする。

筆頭公爵家であるブライトン家はもちろんだが、ライプニヒ公爵家も王家に対する永き忠節の歴史がある由緒正しい貴族家筋なのだ。

先代のライプニヒ公爵は、ひねくれ者ではあったが非常に頭の切れる人物で、国政でもかなり重用されていた。
財務と外交では、職務上交わる機会もそう頻繁にはなかったが、ルシウスの父と先代は互いをライバルとして認め、競い合っていたという。

比較的早世だった父に代わって、外務上の職務で表に立つ機会が多くなったルシウスは、先代ライプニヒ公爵とも、仕事上顔を合わせる機会があった。

若輩者だった当時のルシウスにとって、彼は十分すぎるほど恐ろしい人物だった。
会うと緊張する反面、自身の気付きとなるような貴重な意見を聞くことができたのも彼からで。

評判通りのひねくれ者だった先代は、話す際に選ぶ言葉がかなりきつく、あえて狙ってるのではないかと疑いたくなるくらい傷つけられたものだったが。
その実、言われる内容そのものはしごく正当、かつ正論で、己の矜持にこだわらずその助言に従えば、驚くほどの結果を出せた。

正直、付き合いにくい人物ではあった、……が、裏表も私心もない人物でもあったのだ。

先代が亡くなり代替わりをしたが、新しく後継となった人物はその後も政府要職に就くこともなく、ライプニヒ公爵家凋落の兆しが見え始めていた。

現公爵のファーブライエン・ライプニヒとは、それからもあまり言葉を交わす機会がなく、王城でも夜会の場でも、遠目に顔を見かける程度で。
先代に対して恐れはあったものの、同時に感謝や一種の愛着のような感覚もあり、そのせいかファーブライエンとの遠すぎる距離が少々残念で。

同年の娘が生まれ、もしや娘同士の交流を通してその距離感が縮まりはしないかと期待したときもあったが、結局、何にもならなかった。

置かれた距離感は変わらないまま。そのまま、遠く。

……変わらないどころではない、これほど憎まれていたとは。

どこかで答えが出ていたことではあった。
それでも、理解したくないことでもあって。

もしかしたら、自分のこの甘っちょろい感情が、あの男をここまでつけ上がらせたのかもしれないのに。
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