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仕切り直し
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「父はね、僕に常々こう言っていた。王族は守られる存在ではない。臣下や民を守るためにあるってね」
ようやく頭を上げたレオンハルトは、ティーカップの持ち手を指で弄びながら、穏やかに目を細める。
久しぶりに飲むエレアーナお手製のハーブティーの香りに癒されつつ、皆、静かにレオンハルトの言葉に耳を傾けて。
「みんなも知っている通り、陛下はとても優しい方だ。・・・国王として立つには、優しすぎるほどね。臣下を大切にし、執政も細やかで、政情も経済も安定している。そんな方を相手に、真っ向からつつける箇所なんて、今のところどこにもないんだよ。・・・僕の婚約者の話くらいしかね」
レオンはここで一息ついて、こくり、とお茶を飲んだ。
陛下の話をするレオンは、どこか懐かし気な眼差しをして。
・・・少し、遠い目をしていて。
「いずれ王太子妃の座をめぐって貴族間の争いが起きることは、わかりきっていたんだと思う。父も、おそらく宰相も。・・・だってさ、よく考えてみたら、これしかチャンスはないんだもの。実力で政治の世界を渡り歩くことが出来ない、ただくすぶるしかない者にとって、なんとか盛り返して権力の中枢に食い込むには、自分の娘をけしかけて僕の妃の座を狙わせるしかないだろう?」
赤裸々に語られる貴族世界の実情に、誰も、何も、言うことが出来なかった。
なにより、それは、どうあってもその世界から逃げることが許されない、王太子本人の言葉だったから。
「避けられない争いになると予想して、それでも最小限にそれを抑えたくて。・・・きっと、そこから始まったんだと思うんだ」
「・・・本当は、まだ決まらなくても構わないと思っている婚約者探しを、という事ですか・・・?」
ライナスの言葉に、レオンが首肯する。
「どっちみち、僕の婚約者はいずれ見つけなきゃならないけど、王国内の安定も考慮する必要があっただろうし・・・実際に後になって僕の婚約者が決まった時、その女性に何か害が及んだりしないようにっていう心配もあっただろうね。その前に、不穏分子をどうにか出来たらって。・・・でも・・・」
レオンはそこで、一旦、口を閉ざして。
今まで、ただ黙って耳を傾けていたエレアーナに、その紫色の美しい瞳を向ける。
「・・・でも、僕は君に出会って、恋をして」
その瞳は、告げる言葉とは裏腹に、悲し気に揺らいで。
「浮かれすぎて何も考えようとせず、君といつか共に暮らせる日々を夢見るばかりで、国内の権力バランスなど気にもしなかった」
「レオンさま・・・」
自分の想いを相手に告げる、初めての場だというのに。
こんなに辛そうな告白を、親友の顔を、見ることになるとは、思っていなかった。
それを受けるエレアーナも、同じく、酷く辛そうな表情を浮かべていて。
「せめて、婚約者に選ばれなかった家の者たちが何か事を起こす可能性くらい、頭に浮かんでいれば良かったんだけどね。・・・僕のその失態が、バザー会場での襲撃計画につながり、・・・そして今の賢者くずれを警戒する事態にもなってしまった」
そう言うと、レオンはすっと立ち上がり、テーブルの向こう、エレアーナの席のそばまで行った。
そして、エレアーナを目の前に見下ろす位置に立つと、おもむろにそこで膝を折り、エレアーナの足元に跪く。
エレアーナの艶やかな銀色の髪を、右手でひと房、さらりと掬い取って。
「それなのにさ、エレアーナ嬢。そんな可能性を思い至って、もしもの時に備えて腕を磨いておこうと、君と出会ってすぐに剣の指導を受け始めた男がいるんだよ。こともあろうに我が国一の剣士、カーン・ロッテングルム騎士団長にね」
「・・・なっ! レオン?」
「え? ケ、ケインさま?」
微かに頬を朱に染めて椅子から立ち上がるケインを横目に、レオンはそのまま、掌にあるエレアーナの白銀の髪を、さらさらと弄ぶ。
「まったくね、同じ女性に恋をしたっていうのに、えらい差をつけられて困っちゃうよ。・・・ねぇ、ケイン?」
「・・・」
話の展開についていけないエレアーナが、眼をぱちぱちと瞬かせながら、レオンとケインの顔を交互に見る。
レオンは、手元にあるエレアーナの銀糸のような髪をじっと見つめながらも、何故かもっと遠くを見ているようで。
片や、ケインは頬を染めたまま、その場に立ち尽くすのみで。
しばしの沈黙の後、まず口を開いたのは、やはりレオンハルトだった。
「・・・だからね、仕切り直しをしたいと思ったんだよ。許してもらえるかな、エレアーナ嬢」
「え、・・と。仕切り直し、ですか? 」
「うん、そう。陛下から、君のお父上に伝えられた僕と君との婚約の話を、一旦、白紙に戻してもらいたい」
そう言うと、レオンは掌にのせたエレアーナの髪に、そっと口づけた。
「・・・そして、今ここで、もう一度君に想いを伝える機会を与えて欲しい。僕と、・・・ケインに」
「え・・・?」
エレアーナは、驚きの呟きをひとつ、漏らしたが、それ以上、言葉を継ぐことができなかった。
そして、それはライナスも、・・・もちろんケインバッハも。
ようやく頭を上げたレオンハルトは、ティーカップの持ち手を指で弄びながら、穏やかに目を細める。
久しぶりに飲むエレアーナお手製のハーブティーの香りに癒されつつ、皆、静かにレオンハルトの言葉に耳を傾けて。
「みんなも知っている通り、陛下はとても優しい方だ。・・・国王として立つには、優しすぎるほどね。臣下を大切にし、執政も細やかで、政情も経済も安定している。そんな方を相手に、真っ向からつつける箇所なんて、今のところどこにもないんだよ。・・・僕の婚約者の話くらいしかね」
レオンはここで一息ついて、こくり、とお茶を飲んだ。
陛下の話をするレオンは、どこか懐かし気な眼差しをして。
・・・少し、遠い目をしていて。
「いずれ王太子妃の座をめぐって貴族間の争いが起きることは、わかりきっていたんだと思う。父も、おそらく宰相も。・・・だってさ、よく考えてみたら、これしかチャンスはないんだもの。実力で政治の世界を渡り歩くことが出来ない、ただくすぶるしかない者にとって、なんとか盛り返して権力の中枢に食い込むには、自分の娘をけしかけて僕の妃の座を狙わせるしかないだろう?」
赤裸々に語られる貴族世界の実情に、誰も、何も、言うことが出来なかった。
なにより、それは、どうあってもその世界から逃げることが許されない、王太子本人の言葉だったから。
「避けられない争いになると予想して、それでも最小限にそれを抑えたくて。・・・きっと、そこから始まったんだと思うんだ」
「・・・本当は、まだ決まらなくても構わないと思っている婚約者探しを、という事ですか・・・?」
ライナスの言葉に、レオンが首肯する。
「どっちみち、僕の婚約者はいずれ見つけなきゃならないけど、王国内の安定も考慮する必要があっただろうし・・・実際に後になって僕の婚約者が決まった時、その女性に何か害が及んだりしないようにっていう心配もあっただろうね。その前に、不穏分子をどうにか出来たらって。・・・でも・・・」
レオンはそこで、一旦、口を閉ざして。
今まで、ただ黙って耳を傾けていたエレアーナに、その紫色の美しい瞳を向ける。
「・・・でも、僕は君に出会って、恋をして」
その瞳は、告げる言葉とは裏腹に、悲し気に揺らいで。
「浮かれすぎて何も考えようとせず、君といつか共に暮らせる日々を夢見るばかりで、国内の権力バランスなど気にもしなかった」
「レオンさま・・・」
自分の想いを相手に告げる、初めての場だというのに。
こんなに辛そうな告白を、親友の顔を、見ることになるとは、思っていなかった。
それを受けるエレアーナも、同じく、酷く辛そうな表情を浮かべていて。
「せめて、婚約者に選ばれなかった家の者たちが何か事を起こす可能性くらい、頭に浮かんでいれば良かったんだけどね。・・・僕のその失態が、バザー会場での襲撃計画につながり、・・・そして今の賢者くずれを警戒する事態にもなってしまった」
そう言うと、レオンはすっと立ち上がり、テーブルの向こう、エレアーナの席のそばまで行った。
そして、エレアーナを目の前に見下ろす位置に立つと、おもむろにそこで膝を折り、エレアーナの足元に跪く。
エレアーナの艶やかな銀色の髪を、右手でひと房、さらりと掬い取って。
「それなのにさ、エレアーナ嬢。そんな可能性を思い至って、もしもの時に備えて腕を磨いておこうと、君と出会ってすぐに剣の指導を受け始めた男がいるんだよ。こともあろうに我が国一の剣士、カーン・ロッテングルム騎士団長にね」
「・・・なっ! レオン?」
「え? ケ、ケインさま?」
微かに頬を朱に染めて椅子から立ち上がるケインを横目に、レオンはそのまま、掌にあるエレアーナの白銀の髪を、さらさらと弄ぶ。
「まったくね、同じ女性に恋をしたっていうのに、えらい差をつけられて困っちゃうよ。・・・ねぇ、ケイン?」
「・・・」
話の展開についていけないエレアーナが、眼をぱちぱちと瞬かせながら、レオンとケインの顔を交互に見る。
レオンは、手元にあるエレアーナの銀糸のような髪をじっと見つめながらも、何故かもっと遠くを見ているようで。
片や、ケインは頬を染めたまま、その場に立ち尽くすのみで。
しばしの沈黙の後、まず口を開いたのは、やはりレオンハルトだった。
「・・・だからね、仕切り直しをしたいと思ったんだよ。許してもらえるかな、エレアーナ嬢」
「え、・・と。仕切り直し、ですか? 」
「うん、そう。陛下から、君のお父上に伝えられた僕と君との婚約の話を、一旦、白紙に戻してもらいたい」
そう言うと、レオンは掌にのせたエレアーナの髪に、そっと口づけた。
「・・・そして、今ここで、もう一度君に想いを伝える機会を与えて欲しい。僕と、・・・ケインに」
「え・・・?」
エレアーナは、驚きの呟きをひとつ、漏らしたが、それ以上、言葉を継ぐことができなかった。
そして、それはライナスも、・・・もちろんケインバッハも。
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