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ごめん
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レオンハルトは、相手が今、何を必要としているのかがわかる男だ。
そして、俺と違って、思ったことをきちんと言葉にできる男。
だから、自分で自分の頬を引っ叩いてでも気丈に振る舞おうとする彼女に、あんな優しい言葉がかけられるのだと思う。
・・・こんなときでも、誰かを思って自分を叱咤するエレアーナを尊敬する、と。
張り詰めていた彼女の顔が弛んで、ぽろぽろと涙を零す姿に安堵しつつも、少しばかりの嫉妬を覚えて。
・・・レオンはきっと、良い国王になるんだろう。
そして、将来、隣に並び立つ君を、きっと幸せにできるのだろう、と。
ああ、俺は、いつまで君を、こうやって見守ることが許されるのだろうか。
せめて少しは、君の力になることが出来ないのだろうか。
その心に、ほんの少しでも、足跡を残せたらいいのに。
そんな俺の気持ちを見透かしたかのように、レオンハルトは口を開いてこんな言葉を告げた。
「ねぇ、エレアーナ嬢。・・・君は、僕の婚約者探しの話をどこまで聞いているかな?」
ハンカチで目元を押さえ、やっといつもの表情に戻った彼女に、レオンはいきなり直球の質問をぶつけた。
・・・これは、俺は席を外した方がいいのでは?
腰を浮かしかけた俺をレオンは手で制する。
「いいんだ。ここに居てくれ、ケイン。・・・君にも関係がある話だからね」
・・・え?
俺にも関係があるって、何が? 君と彼女の婚約話がか?
エレアーナも、ライナスも、同じく驚いた顔をして。
レオンハルトだけが、いつもと同じ、優しい穏やかな笑顔で。
「・・・僕が、婚約者として君を望んだってことは聞いてる?」
エレアーナは、こくりと頷く。
「そう。僕と直接その話をするのは、初めてだよね。君も知っている通り、僕は君を未来の王太子妃にと望んだ。君は王太子妃となるのに申し分ない女性だと思ったから。身分も年齢も資質も容姿も、何もかもが。国王陛下からも、お墨付きをいただくほど、ね」
レオンの言葉に恥ずかしげに俯くエレアーナを見て、胸がちくりと痛む。
もう、なのか。
もう、見守るだけの日々も終わりを告げるのだろうか。
「・・・でもさ、不思議に思わなかったかい? 僕の意思がはっきり決まって、妃として申し分ない君を選んだというのに、なぜ僕と君は、あの後正式に婚約しなかったのかって」
その言葉にハッと驚く。
言われてみれば、確かにその通りで。
レオンの婚約者を探す、という話は、もうずっと前から出ていたもので、そのために妙齢のご令嬢方を集めたパーティを折々に開いていた。
それももう、かれこれ2年近く前から。
でもずっと、レオンハルトにその気がなくて、何もないまま時が過ぎていたのだけれど。
でも、レオンがエレアーナに心を決めて。
その後なんの進展もないまま、もう・・・半年近く経つ。
俺は、エレアーナの婚約話について考えようとしなかったから、今まで気が付かなかった。・・・が、確かに妙な話だ。
奇妙な沈黙が、部屋を包む。
「ここからは、僕の推測にすぎないんだけど。・・・僕はね、こう思ったんだ。陛下は僕の婚約者を、まだ決めるつもりはなかったんじゃないかって」
何でもないことのように、静かにレオンハルトはそう言った。
ぴしりと重い緊張が部屋全体に走る、
「えっ? ちょっ、それって・・・。あ、オレ、発言してもいいんですかね?」
声を上げかけて、慌ててライナスが発言の確認を取る。
レオンが頷くのを見て、再びライナスは口を開く。
「えっと。あの、ぜんっぜん意味が分かんないんですけど。婚約者探しって、もうずいぶん前からやってましたよね? 探すつもりもないのに探すって、あの、おかしくないですかね?」
ライナスは、訳が分からん、という表情で疑問をぶつけてきた。
エレアーナも、不思議そうに目をぱちぱちさせている。
「いや、探してないわけではないんだよ、だって僕は王族だもの。このまま順当にいけば、次期国王でもある。どうしたって伴侶は必要だからね。だから、探してるのは探してるんだけど、ただ、・・・う~ん、なんていうかな。まだ、決まってほしくなかった、っていうか。え~っと、時間稼ぎというか。とりあえず探すけれども、それは事が落ち着いてから、というか」
そこまで聞いて、俺は一つ思い当たったことを呟いた。
「・・・ライプニヒ公爵か」
「そう、それ」
レオンハルトは、びしっと俺を指さした。
「ライプニヒ公爵? ・・・ってシュリエラさまのお父さまの?」
「うん、そう。今思えば、僕が君と婚約したいって父に願い出たとき、父はライプニヒ公爵の反応を心配していたんだ。側にいた宰相もね。・・・情けないことに、僕は浮かれまくって、まったく父たちの言葉に注意していなかったんだけど」
「え? 浮かれまくって・・・?」
こてん、と首を傾げるエレアーナに、レオンは、にこりと笑って答える。
「そう。初めての恋に浮かれまくっててね。それはもう、毎日がバラ色でさ、何をしてても楽しいのなんのって」
臆面もなくのろけだすレオンハルトに、ライナスがぶっと吹き出す。
エレアーナは、両手を頬にあて、再び俯いてしまう。
「まぁ、とにかく。父たちが思っていたよりも早く、僕はさっさと恋に落ちててしまったわけさ。父たちが不穏分子をあぶりだす前にね」
「だから、それ以降、話が進まなかった、と。そういう訳か、レオン」
俺の言葉にレオンは頷く。
「さっきも言ったけどね、あくまで僕の推測だよ。でも多分、大まかな流れは合ってると思うけど」
そこまで言って、レオンハルトの顔から笑顔が消えた。
「・・・それで、君は今、こんな目に遭っている」
そして深く頭を下げた。
王族からの謝罪に、俺もライナスも、そしてもちろんエレアーナも驚いて。
「・・・ごめんね。怖い思いをさせて。・・・本当にごめん」
そして、俺と違って、思ったことをきちんと言葉にできる男。
だから、自分で自分の頬を引っ叩いてでも気丈に振る舞おうとする彼女に、あんな優しい言葉がかけられるのだと思う。
・・・こんなときでも、誰かを思って自分を叱咤するエレアーナを尊敬する、と。
張り詰めていた彼女の顔が弛んで、ぽろぽろと涙を零す姿に安堵しつつも、少しばかりの嫉妬を覚えて。
・・・レオンはきっと、良い国王になるんだろう。
そして、将来、隣に並び立つ君を、きっと幸せにできるのだろう、と。
ああ、俺は、いつまで君を、こうやって見守ることが許されるのだろうか。
せめて少しは、君の力になることが出来ないのだろうか。
その心に、ほんの少しでも、足跡を残せたらいいのに。
そんな俺の気持ちを見透かしたかのように、レオンハルトは口を開いてこんな言葉を告げた。
「ねぇ、エレアーナ嬢。・・・君は、僕の婚約者探しの話をどこまで聞いているかな?」
ハンカチで目元を押さえ、やっといつもの表情に戻った彼女に、レオンはいきなり直球の質問をぶつけた。
・・・これは、俺は席を外した方がいいのでは?
腰を浮かしかけた俺をレオンは手で制する。
「いいんだ。ここに居てくれ、ケイン。・・・君にも関係がある話だからね」
・・・え?
俺にも関係があるって、何が? 君と彼女の婚約話がか?
エレアーナも、ライナスも、同じく驚いた顔をして。
レオンハルトだけが、いつもと同じ、優しい穏やかな笑顔で。
「・・・僕が、婚約者として君を望んだってことは聞いてる?」
エレアーナは、こくりと頷く。
「そう。僕と直接その話をするのは、初めてだよね。君も知っている通り、僕は君を未来の王太子妃にと望んだ。君は王太子妃となるのに申し分ない女性だと思ったから。身分も年齢も資質も容姿も、何もかもが。国王陛下からも、お墨付きをいただくほど、ね」
レオンの言葉に恥ずかしげに俯くエレアーナを見て、胸がちくりと痛む。
もう、なのか。
もう、見守るだけの日々も終わりを告げるのだろうか。
「・・・でもさ、不思議に思わなかったかい? 僕の意思がはっきり決まって、妃として申し分ない君を選んだというのに、なぜ僕と君は、あの後正式に婚約しなかったのかって」
その言葉にハッと驚く。
言われてみれば、確かにその通りで。
レオンの婚約者を探す、という話は、もうずっと前から出ていたもので、そのために妙齢のご令嬢方を集めたパーティを折々に開いていた。
それももう、かれこれ2年近く前から。
でもずっと、レオンハルトにその気がなくて、何もないまま時が過ぎていたのだけれど。
でも、レオンがエレアーナに心を決めて。
その後なんの進展もないまま、もう・・・半年近く経つ。
俺は、エレアーナの婚約話について考えようとしなかったから、今まで気が付かなかった。・・・が、確かに妙な話だ。
奇妙な沈黙が、部屋を包む。
「ここからは、僕の推測にすぎないんだけど。・・・僕はね、こう思ったんだ。陛下は僕の婚約者を、まだ決めるつもりはなかったんじゃないかって」
何でもないことのように、静かにレオンハルトはそう言った。
ぴしりと重い緊張が部屋全体に走る、
「えっ? ちょっ、それって・・・。あ、オレ、発言してもいいんですかね?」
声を上げかけて、慌ててライナスが発言の確認を取る。
レオンが頷くのを見て、再びライナスは口を開く。
「えっと。あの、ぜんっぜん意味が分かんないんですけど。婚約者探しって、もうずいぶん前からやってましたよね? 探すつもりもないのに探すって、あの、おかしくないですかね?」
ライナスは、訳が分からん、という表情で疑問をぶつけてきた。
エレアーナも、不思議そうに目をぱちぱちさせている。
「いや、探してないわけではないんだよ、だって僕は王族だもの。このまま順当にいけば、次期国王でもある。どうしたって伴侶は必要だからね。だから、探してるのは探してるんだけど、ただ、・・・う~ん、なんていうかな。まだ、決まってほしくなかった、っていうか。え~っと、時間稼ぎというか。とりあえず探すけれども、それは事が落ち着いてから、というか」
そこまで聞いて、俺は一つ思い当たったことを呟いた。
「・・・ライプニヒ公爵か」
「そう、それ」
レオンハルトは、びしっと俺を指さした。
「ライプニヒ公爵? ・・・ってシュリエラさまのお父さまの?」
「うん、そう。今思えば、僕が君と婚約したいって父に願い出たとき、父はライプニヒ公爵の反応を心配していたんだ。側にいた宰相もね。・・・情けないことに、僕は浮かれまくって、まったく父たちの言葉に注意していなかったんだけど」
「え? 浮かれまくって・・・?」
こてん、と首を傾げるエレアーナに、レオンは、にこりと笑って答える。
「そう。初めての恋に浮かれまくっててね。それはもう、毎日がバラ色でさ、何をしてても楽しいのなんのって」
臆面もなくのろけだすレオンハルトに、ライナスがぶっと吹き出す。
エレアーナは、両手を頬にあて、再び俯いてしまう。
「まぁ、とにかく。父たちが思っていたよりも早く、僕はさっさと恋に落ちててしまったわけさ。父たちが不穏分子をあぶりだす前にね」
「だから、それ以降、話が進まなかった、と。そういう訳か、レオン」
俺の言葉にレオンは頷く。
「さっきも言ったけどね、あくまで僕の推測だよ。でも多分、大まかな流れは合ってると思うけど」
そこまで言って、レオンハルトの顔から笑顔が消えた。
「・・・それで、君は今、こんな目に遭っている」
そして深く頭を下げた。
王族からの謝罪に、俺もライナスも、そしてもちろんエレアーナも驚いて。
「・・・ごめんね。怖い思いをさせて。・・・本当にごめん」
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