【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
46 / 256

仕切り直し

しおりを挟む
「父はね、僕に常々こう言っていた。王族は守られる存在ではない。臣下や民を守るためにあるってね」

ようやく頭を上げたレオンハルトは、ティーカップの持ち手を指で弄びながら、穏やかに目を細める。
久しぶりに飲むエレアーナお手製のハーブティーの香りに癒されつつ、皆、静かにレオンハルトの言葉に耳を傾けて。

「みんなも知っている通り、陛下はとても優しい方だ。・・・国王として立つには、優しすぎるほどね。臣下を大切にし、執政も細やかで、政情も経済も安定している。そんな方を相手に、真っ向からつつける箇所なんて、今のところどこにもないんだよ。・・・僕の婚約者の話くらいしかね」

レオンはここで一息ついて、こくり、とお茶を飲んだ。

陛下の話をするレオンは、どこか懐かし気な眼差しをして。
・・・少し、遠い目をしていて。

「いずれ王太子妃の座をめぐって貴族間の争いが起きることは、わかりきっていたんだと思う。父も、おそらく宰相も。・・・だってさ、よく考えてみたら、これしかチャンスはないんだもの。実力で政治の世界を渡り歩くことが出来ない、ただくすぶるしかない者にとって、なんとか盛り返して権力の中枢に食い込むには、自分の娘をけしかけて僕の妃の座を狙わせるしかないだろう?」

赤裸々に語られる貴族世界の実情に、誰も、何も、言うことが出来なかった。
なにより、それは、どうあってもその世界から逃げることが許されない、王太子本人の言葉だったから。

「避けられない争いになると予想して、それでも最小限にそれを抑えたくて。・・・きっと、そこから始まったんだと思うんだ」
「・・・本当は、まだ決まらなくても構わないと思っている婚約者探しを、という事ですか・・・?」

ライナスの言葉に、レオンが首肯する。

「どっちみち、僕の婚約者はいずれ見つけなきゃならないけど、王国内の安定も考慮する必要があっただろうし・・・実際に後になって僕の婚約者が決まった時、その女性に何か害が及んだりしないようにっていう心配もあっただろうね。その前に、不穏分子をどうにか出来たらって。・・・でも・・・」

レオンはそこで、一旦、口を閉ざして。
今まで、ただ黙って耳を傾けていたエレアーナに、その紫色の美しい瞳を向ける。

「・・・でも、僕は君に出会って、恋をして」

その瞳は、告げる言葉とは裏腹に、悲し気に揺らいで。

「浮かれすぎて何も考えようとせず、君といつか共に暮らせる日々を夢見るばかりで、国内の権力バランスなど気にもしなかった」
「レオンさま・・・」

自分の想いを相手に告げる、初めての場だというのに。
こんなに辛そうな告白を、親友の顔を、見ることになるとは、思っていなかった。

それを受けるエレアーナも、同じく、酷く辛そうな表情を浮かべていて。

「せめて、婚約者に選ばれなかった家の者たちが何か事を起こす可能性くらい、頭に浮かんでいれば良かったんだけどね。・・・僕のその失態が、バザー会場での襲撃計画につながり、・・・そして今の賢者くずれを警戒する事態にもなってしまった」

そう言うと、レオンはすっと立ち上がり、テーブルの向こう、エレアーナの席のそばまで行った。

そして、エレアーナを目の前に見下ろす位置に立つと、おもむろにそこで膝を折り、エレアーナの足元に跪く。

エレアーナの艶やかな銀色の髪を、右手でひと房、さらりと掬い取って。

「それなのにさ、エレアーナ嬢。そんな可能性を思い至って、もしもの時に備えて腕を磨いておこうと、君と出会ってすぐに剣の指導を受け始めた男がいるんだよ。こともあろうに我が国一の剣士、カーン・ロッテングルム騎士団長にね」
「・・・なっ! レオン?」
「え? ケ、ケインさま?」

微かに頬を朱に染めて椅子から立ち上がるケインを横目に、レオンはそのまま、掌にあるエレアーナの白銀の髪を、さらさらと弄ぶ。

「まったくね、同じ女性に恋をしたっていうのに、えらい差をつけられて困っちゃうよ。・・・ねぇ、ケイン?」
「・・・」

話の展開についていけないエレアーナが、眼をぱちぱちと瞬かせながら、レオンとケインの顔を交互に見る。

レオンは、手元にあるエレアーナの銀糸のような髪をじっと見つめながらも、何故かもっと遠くを見ているようで。
片や、ケインは頬を染めたまま、その場に立ち尽くすのみで。

しばしの沈黙の後、まず口を開いたのは、やはりレオンハルトだった。

「・・・だからね、仕切り直しをしたいと思ったんだよ。許してもらえるかな、エレアーナ嬢」
「え、・・と。仕切り直し、ですか? 」
「うん、そう。陛下から、君のお父上に伝えられた僕と君との婚約の話を、一旦、白紙に戻してもらいたい」

そう言うと、レオンは掌にのせたエレアーナの髪に、そっと口づけた。

「・・・そして、今ここで、もう一度君に想いを伝える機会を与えて欲しい。僕と、・・・ケインに」
「え・・・?」

エレアーナは、驚きの呟きをひとつ、漏らしたが、それ以上、言葉を継ぐことができなかった。

そして、それはライナスも、・・・もちろんケインバッハも。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...