【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
48 / 256

余裕がないのは、きっと

しおりを挟む
一瞬、何が起きているのか、わからなくて。

夢かとも、何かの間違いかとも、思って。

そもそも、何故、レオンが俺のこの気持ちを知っているのか、とか。

レオンがエレアーナを選んだその選択が、一部の貴族たちの反発を買ったのは事実とはいえ、それはレオンが責任を感じることじゃない、とか。

仕切り直しなんて、そこまで自分を責めなくても、とか。

・・・そう思うのに。

エレアーナに、想いを伝えることが出来るのかと。
そう思ったら。

レオンへの申し訳なさと同時に、気持ちが高揚するのを感じてしまって。

その時、ふと、隣から視線を感じて。

ちらりと目線を移すと、さっきまでの真面目な態度は何処へやら、ライナスが俺の方を見てやたらとニヤニヤしている。

・・・なんだ? その顔は。

と、その時、はた、と気づいてしまった。

ライナスの考えている事を。
・・・俺の致命的な欠点を。

そうか、なるほど。お前の言いたいのは、そういうことか。

お前に、愛の告白なんてできるのかよ? だな。

・・・そうだな、正直、うまく伝えられる自信なんてない。
これっぼっちもない、が。

黙っていれば済む話をわざわざ持ち出して、仕切り直しだと宣言までして、レオンは俺にチャンスをくれた。

無口だから、口下手だから、なんて言い訳は、こんな場面で使うものではない。絶対に。

叶うならば、レオンのように美しく愛を囁きたい、と願うのは贅沢なのかもしれないが。

・・・でも、きっと、一生に一度の事だから。

「ケイン。・・・ケイン?」

俺の名を呼ぶ声に、はっと我に返る。
エレアーナの手を握っていたはずのレオンハルトが、目の前で俺の顔を覗きこんでいるではないか。

「レ、レオン?」

レオンの目が細くなる。
口元に浮かんだ笑みは、いつもと少し違って少々意地が悪そうで。

・・・こんな顔も、するのか。

王族らしい優し気な微笑みを常に崩さない、そんないつもの顔とは違う、感情が表に現れた人らしい表情に、なぜだろうか、少しほっとして。

「ねぇ、ケイン。僕の告白、ちゃんと聞いてた? さぁ、次は君の番だよ。さっさとエレアーナ嬢のところに行って、その重たい口で愛を囁いてきなよ」

そう言って、レオンは、にやりと笑う。

一皮むけたような、余計なものを脱ぎ捨てたような、そんなすっきりとした潔い顔に、うっかり見とれてしまったのは、俺だけじゃない、きっと隣にいるライナスもだ。

きっと、君は凄い王になる。

そんな、この場とは何の関係もない事が頭に浮かんで。

その挑むような目に、笑みで応え、俺はゆっくりと立ち上がった。

「ありがとう。レオン」
「どういたしまして。・・・負けるつもりはないからね。せいぜい格好いい台詞で告白しておいで」

そう言って、すれ違い様に俺の肩を、手の甲でとん、と軽く叩いた。

負けるつもりはない、か。

それは、お互い様だ。
・・・格好いい台詞が吐けるかどうかは、別だがな。

レオン、君はいつもそうだよな。
潔癖なまでに清廉で、美しい。

この借りを、君にどうやって返せばいいだろう。

秘しておくつもりが、こうもあっさりと見抜かれてしまった、俺のこの想いは。
きっと、優しい君を悩ませたに違いないのに。

あれほど焦がれていた女性ひとに、他の男が愛を告げる場を整えることまでするほどに。

・・・俺はどうやって、君の潔さに応えよう。
少し意地の悪い笑みで、俺の背中を押してくれた、一番の友に。

俺が、君に差し出せるものといえば。

心からの尊敬と感謝を。
生涯の忠誠と誓いを。

それだけだ。
たった、それだけだが。

君の好意に、優しさに、今は最大限、甘えよう。

一歩一歩、エレアーナの元へと歩を進める。

レオンハルトの告白だけで、既にいっぱいいっぱいなのだろう。
彼女の頬は朱に染まり、視線はあちこちを彷徨っていて落ち着きがない。

・・・大丈夫だ、エレアーナ。
多分、俺の方が余裕がない。

君はただ、俺の一世一代の下手な告白を黙って聞いてくれればいい。

どうか、途中で遮らないで。
最後まで言わせてほしい。

口下手な俺のことだから、どうせ、長いこと君を讃える台詞なんか吐けやしないんだ。

でも、レオンがくれた、この機会を。
どうか俺に、使わせて。
君への思いを、伝えさせてほしい。

エレアーナの目の前まで進んで、俺の足が止まる。
ゆっくりと膝を折り、目線をエレアーナに合わせ。

その名を呼びかける。・・・心を込めて。

「・・・エレアーナ嬢」
「は、はい・・・」

こんな瞬間が、来るなんて。
こんな日が、・・・俺に来るなんて。

一生、言葉にすることはないと思っていた。
それでもいいと、思っていた・・・から。

だから、せめて。
拙い言葉でも、この想いを。

愛しい君に。

「・・・あなたは、美しい」
「え、いえ、そんな・・・」

どうか、言わせてくれ。・・・最後まで。

手を、そっとエレアーナの両手に重ねる。

「・・・あなたは、優しい。・・・そして、気高い」
「あ・・・」
「あなたは、・・・純粋で・・」

言葉が、途切れる。

・・・情けない。
子どもの作文の方が、よほど出来がいいじゃないか。

「あなた、は・・・強くて・・」

言え。

「・・・賢くて・・・」

ずっと、伝えたかった言葉を。今。

「あなた、が・・・好きだ」
「・・・っ」
「心の・・底から」

重ねた手を、ぎゅっと握りしめる。

こんな時くらい、格好をつけたかったが。

・・・情けない。これで精一杯だ。

「・・・あ、あの、ケインさま・・・」

握っていた手に、思わずさらに力を込めてしまう。
俯きたくなる気持ちを、必死で抑えて。

「・・・言わないでくれ」

祈るように、エレアーナの美しい碧色の眼を見つめる。

「今は、まだ・・・決着を、つけないでくれ」
「・・・」
「君を、守ると・・・誓うから。全てが終わるまで、側に・・・いさせてくれ」

エレアーナは、そんな情けない俺をただ静かに見つめて。
それから、初めて出会った、あの薔薇園のときと同じ、あでやかな微笑みを浮かべた。

「・・・はい」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

処理中です...