【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
60 / 256

庭園でのしばしの平穏

しおりを挟む
ケインバッハが去った後、シュリエラは庭園で一人、何事かを考えながら佇んでいた。

・・・あんなに感情を表に出されるケインバッハさまを、わたくしは初めて見たかもしれない。

『君の価値を決めるのは、君自身だろう? 君は自分に価値がないと思うのか? ・・・君は、これまでに何も成さなかったというのか?』

俯いていた顔を上げ、空を見る。
冬の透き通った空気。晴れているのに何処か曇ったように感じる霞んだ青空。

こんな風に空を見上げるのも、随分と久しぶりな気がするわ。
私は、いつも誰かに、自分がどんな存在なのかを決めてもらおうとしてたのかしら。

シュリエラは、ぼんやりと考えていた。

いえ、誰かじゃない。

・・・お父さまだわ。
お父さまに、決めてもらっていた。

言うとおりに着飾って、言うとおりに殿下に近づいて、言うとおりに婚約者の座を欲しがった。

言うとおりにしていれば、お父さまは私を褒めてくださったから。
・・・私を見てくださったから。

でも殿下はエレアーナを選んで。

お父さまは、私を・・・見限った。
お父さまの目に、私はもう価値がないのだと、絶望した・・・けど。

だけど、違ったのね。
きっと、私は、そこを間違えたのね。

きっと最初から、お父さまの目には、私という人間は映っていなかったのに。

目を固く瞑って。
ケインバッハの言葉を思い出す。繰り返す。

自分の価値は、自分が決める・・・。

では、私は・・・。

「・・・シュリエラお嬢さま」

突然の声に驚いて、はっと振り返る。

「・・・申し訳ありません。驚かせてしまいましたか? あの、お寒くはないかと心配になりまして」
「大丈夫よ。・・・でも、まだもうちょっと、ここにいたいの。気にしないでちょうだい」
「左様でございますか。それならば、よろしいのですが。・・・失礼いたしました」
「構わないわ」

一度下がりかけてから、ふと、その男は足を止めて。
私にもう一度、声をかけた。

「たまには、お出かけになるのも良うございますよ。ここのところ、お嬢さまは、邸からずっとお出になりませんでしたので」
「・・・そうね」
「そうですとも。・・・お買い物に行かれるとか、公園に散歩に行かれるとか、いかがでしょうか」
「それは・・・どうかしら」

気の乗らなさそうな私の様子に、その使用人はさらに選択肢を提示する。

「では・・・ご友人を訪問なさるのは、いかがでしょう」
「・・・わたくしに友人などいないわ」

自分で言っておいて、胸がちくりと痛む。
友人がいない、なんて。
前はそんなことを気にも留めなかったのに。

ケインバッハさまのお言葉のせいかしら。
・・・なんだか不思議ね。

こんな会話だって、いつもだったらすぐに怒鳴って下がらせるのに。
何故か今日はそんな気にもならず、こうして使用人と言葉を交わし続けて。

「・・・そうですか。もしや、ご友人と仲違いでもなさったんですか?」
「そんなの、していないわ。・・・でも、そうね」

ふと、脳裏に浮かんだのは。
穏やかでありながら、艶やかな笑顔。

「仲違いしたわけじゃないけれど、謝りたい・・・人は、いるかもしれないわね」

変なの。・・・謝りたいだなんて。
私が、そんなことを思うなんて。

「左様でございますか」

なぜかしら。この使用人、随分と嬉しそうに笑うのね。
お前には、関係の無いことでしょうに。

「いつか、謝りに行けるといいですね」

でも、いいわ。
なんだか、とても優しそうな笑顔だし。
謝りたいのは、本当だし。

「そうね。いつか謝りに行きたいわね」

だから、素直にそう言った。

なんだか、とてもすっきりした気分で。
やっと、自分の足で立てたような気がしたから。

今まで、使用人とこんな風に話すことはなかったけど、こういう会話も悪くないものなのね。

「では、その『いつか』の折りには、私めが馬車を走らせて、お嬢さまをご友人のところへお連れいたしましょう」

私は驚いて、藤色の髪をしたその使用人に聞き返した。

「お前が? 馬車を走らせることが出来るの?」

その男は、ニッコリと笑ってこう答えた。

「もちろんですとも。私めの仕事は御者でございますから」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

処理中です...