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夜警
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エレアーナには知らされていなかったが、ブライトン邸周辺は、国王の指示により王国騎士団から派遣された騎士たちで警護されていた。
邸内はブライトン公爵家に属する私設騎士団員が、邸外を王国騎士団員が警護するという形だ。
厳重な警備体制が夜も日も施されている上に、エレアーナ自身も邸から一歩も出ることがなく、まさに万全の防御態勢に見えた。
だが、それでもなお、安心しない男たちがここにはたくさんいて。
そのひとり、ケインバッハ・ダイスヒルが、今夜もまた自ら志願して夜警に参加している。
「ケイン、今夜も来たのか。いい加減体を壊すぞ」
剣の師範であるカーン・ロッテングルムが、冗談交じりに声をかける。
王太子とケインバッハとの恋の勝負については、息子ライナスからすでに聴取済みのようで。
いかにも心配している風の言葉だが、ただ面白がっているだけなのは明白だ。
「必要な睡眠はきちんと取っておりますので、ご心配には及びません」
「そうか。まぁ、人手はいくらあっても足りないくらいだから、お前が来てくれて助かってはいるがな」
そう言ってからからと笑うカーン団長の笑顔は、ライナスのそれと同じで明るく優しい。
多忙を極める中、彼もこうしてブライトン邸の警護まで勤めてくれているのだ。
「俺がここにいるのは当然です。そのために団長に剣をご指南いただいたのですから」
「まったく。相変わらず、ドが付くほどの真面目男だな。ここまで一途に恋焦がれちまうと、殿下といえど、うかうかとしてはいられまいな。さぞ、困ってることだろうて」
「・・・その殿下が、望まれたことですので」
「ん?」
「真剣に、真っ向から対抗するよう俺に望んだのは、他ならぬ殿下ですので」
カーンは、ぽりぽりと顎の下を掻いて。
なるほどな、と納得の笑みを浮かべた。
「ここで毎晩お前が警護してるの、知らないんだろ? お前のお姫さんは」
「・・・俺が勝手にしていることですので、知る必要もないかと」
その答えに、カーンが堪らず、ぶはっと吹き出して。
「そうか。相変わらず不器用な男だな」
と、ばしばし背中を叩いてきた。
ライナスといい、カーンといい、ロッテングルム家の人間は、どうしてこうも人の背中を叩いてくるのか、とケインは心の中で呟いた。
「よし。じゃあ、気を引き締めていくぞ、ケイン」
「はい」
そんなやり取りをしていたのと同時刻に。
いくらか離れた場所から、ブライトン邸の様子をつぶさに観察する人影があった。
そうしてしばらくの間、邸周りで警護についた騎士たちの動きをじっと見ていたが、それから、おもむろに両手を揃えて顔の前に持っていき、目を閉じて何かを念じ始めた。
やがて、再び目を開けると、いかにも不機嫌そうに大きくため息を吐いて。
ぽつりと一言、零した。
「ううむ、どうも邪魔な奴が多すぎて困っちまうねぇ」
男は全身をすっぽり覆う大きめのマントを羽織り、ご丁寧にフードまで目深にかぶっているため、どこからも表情を窺うことはできない。
「中も外も・・・よくもまぁ、ここまで人を集めたもんだ。こりゃあ随分と、金と暇が有り余ってる家のようだが、羨ましいこって」
そんな事をぶつぶつ言いながら、懐から小さな瓶を取り出す。
男はその小瓶を月の光に翳し、くるくると小さく揺らした。
濃い緑色の、どろっとした液体が、瓶の中でゆらゆらと動いている。
「さぁて・・・どうやって近づくとするか」
そう呟くと、にまり、と笑った。
「おっと、そろそろ戻らないと、怪しまれちまう」
大事そうに小瓶を懐にしまって。
くるりと踵を返して歩き出す。
頭の中で、いろいろと算段をつけながら。
まぁ、一度、探りを入れて、邸内の動きを見させてもらうってのも、いいかもしれないな。
適当な奴を、どっかで見繕って、放り込んでみる、なんてどうだろう。
兎に角、そろそろ片付けちまわないと。
もういい加減、いい奴の振りも飽きてきたしな。
邸内はブライトン公爵家に属する私設騎士団員が、邸外を王国騎士団員が警護するという形だ。
厳重な警備体制が夜も日も施されている上に、エレアーナ自身も邸から一歩も出ることがなく、まさに万全の防御態勢に見えた。
だが、それでもなお、安心しない男たちがここにはたくさんいて。
そのひとり、ケインバッハ・ダイスヒルが、今夜もまた自ら志願して夜警に参加している。
「ケイン、今夜も来たのか。いい加減体を壊すぞ」
剣の師範であるカーン・ロッテングルムが、冗談交じりに声をかける。
王太子とケインバッハとの恋の勝負については、息子ライナスからすでに聴取済みのようで。
いかにも心配している風の言葉だが、ただ面白がっているだけなのは明白だ。
「必要な睡眠はきちんと取っておりますので、ご心配には及びません」
「そうか。まぁ、人手はいくらあっても足りないくらいだから、お前が来てくれて助かってはいるがな」
そう言ってからからと笑うカーン団長の笑顔は、ライナスのそれと同じで明るく優しい。
多忙を極める中、彼もこうしてブライトン邸の警護まで勤めてくれているのだ。
「俺がここにいるのは当然です。そのために団長に剣をご指南いただいたのですから」
「まったく。相変わらず、ドが付くほどの真面目男だな。ここまで一途に恋焦がれちまうと、殿下といえど、うかうかとしてはいられまいな。さぞ、困ってることだろうて」
「・・・その殿下が、望まれたことですので」
「ん?」
「真剣に、真っ向から対抗するよう俺に望んだのは、他ならぬ殿下ですので」
カーンは、ぽりぽりと顎の下を掻いて。
なるほどな、と納得の笑みを浮かべた。
「ここで毎晩お前が警護してるの、知らないんだろ? お前のお姫さんは」
「・・・俺が勝手にしていることですので、知る必要もないかと」
その答えに、カーンが堪らず、ぶはっと吹き出して。
「そうか。相変わらず不器用な男だな」
と、ばしばし背中を叩いてきた。
ライナスといい、カーンといい、ロッテングルム家の人間は、どうしてこうも人の背中を叩いてくるのか、とケインは心の中で呟いた。
「よし。じゃあ、気を引き締めていくぞ、ケイン」
「はい」
そんなやり取りをしていたのと同時刻に。
いくらか離れた場所から、ブライトン邸の様子をつぶさに観察する人影があった。
そうしてしばらくの間、邸周りで警護についた騎士たちの動きをじっと見ていたが、それから、おもむろに両手を揃えて顔の前に持っていき、目を閉じて何かを念じ始めた。
やがて、再び目を開けると、いかにも不機嫌そうに大きくため息を吐いて。
ぽつりと一言、零した。
「ううむ、どうも邪魔な奴が多すぎて困っちまうねぇ」
男は全身をすっぽり覆う大きめのマントを羽織り、ご丁寧にフードまで目深にかぶっているため、どこからも表情を窺うことはできない。
「中も外も・・・よくもまぁ、ここまで人を集めたもんだ。こりゃあ随分と、金と暇が有り余ってる家のようだが、羨ましいこって」
そんな事をぶつぶつ言いながら、懐から小さな瓶を取り出す。
男はその小瓶を月の光に翳し、くるくると小さく揺らした。
濃い緑色の、どろっとした液体が、瓶の中でゆらゆらと動いている。
「さぁて・・・どうやって近づくとするか」
そう呟くと、にまり、と笑った。
「おっと、そろそろ戻らないと、怪しまれちまう」
大事そうに小瓶を懐にしまって。
くるりと踵を返して歩き出す。
頭の中で、いろいろと算段をつけながら。
まぁ、一度、探りを入れて、邸内の動きを見させてもらうってのも、いいかもしれないな。
適当な奴を、どっかで見繕って、放り込んでみる、なんてどうだろう。
兎に角、そろそろ片付けちまわないと。
もういい加減、いい奴の振りも飽きてきたしな。
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