【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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氷の貴公子

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今晩は、久しぶりに王城での夜会が開催されている。

エレアーナさまが心配で鬱々としていた私は、あまり気の進まなかったところを何とか奮い立たせて参加した。

どんな些細な隙でも、見られてしまえば、どこで誰に勝手な噂をたてられることになるか分かったものではないから。

まだ社交デビューの年になっていない妹のカトリアナは、いつものように弟と一緒にお留守番。

今夜の予定がないからと、昼過ぎにエレアーナさまの様子を見に行った。
本当は私も行きたかったけれど、夜会があるのでまた次の機会にと。

だから今夜も、父と母と私の3人、いつもと同じ夜を過ごす・・・と思っていた。

いつも通り、令嬢たちに囲まれているアイスケルヒさまを遠くから見つめて。
その相変わらずの冷ややかな対応っぷりに、ほっと安堵しつつ。

ふと、別の場所に、ひときわ大きな人だかりが出来ているのが目に入って。

あら、殿下だわ。
珍しい。
ここのところ、ずっと欠席されていたのに。

ケインバッハさまは・・・いらしてないわね。
遅れて来られるのかしら。
ライナスバージさまは、後ろに控えてらっしゃるけど。

いつも通り、笑ってらっしゃるけど。
どこか雰囲気が、違う・・・かしら。

どことなく、眼が遠いわ。

告白したばかりとは思えない、厳しい空気。

・・・どうしてかしら。

ケインバッハさまにも告白の場をわざわざ用意されて、ふたりから同時に愛を告げられたとエレアーナさまから伺った時は、さすが王太子殿下、自信と余裕がすごいのね、なんて思っていたけど。

それにしても、相変わらずの麗しさね。
あの中性的なお顔立ちなら、きっと・・・女装だっていけてしまうわ。

おっと、いけない。
すぐ妄想してしまうのは、私の悪い癖よね。

とりあえず、私も挨拶に行きましょう。

「レオンハルト王太子殿下。ごきげんよう」

私に気づくと、つい先ほどまでは微かに伺えた憂いが、ぱっと掻き消える。

この方は、いつもそう。
どんな時も、何を思っていても、臣下の者に心配させるような感情は見せない。
そんな気遣いは、なかなか出来ないことだと思うの。

本当に、大したお方。
カトリアナも見る目があるわよね。

「今日は、ケインバッハさまはご一緒ではないのですね」
「・・・ああ」

あら、少し寂しそうだわ。

「大事な務めがあってね。本当は僕も行きたいところだけれど、僕じゃあまり役に立たないから」

なにかしら。含みのある言い方。
でも、これはきっと、踏み込まない方がよさそうね。

「そういえば、この間、エレアーナ嬢のところに行ったんだってね」

あら、もうご存知なのね。

私の訝しげな表情に気づいたのだろう。
すぐに説明を加える。

「夜会前に少しだけ時間があったから、僕も様子を見に行ったんだよ。その時に、話を聞いたんだ。ふたりが来てくれて凄く嬉しかったって」
「まぁ、そうでしたか」

うまく励ませなかったかと心配していたけど、そう言っていただけたなら良かったわ。

「そういえば、カトリアナ嬢も来ていたよ」
「妹は夜会に出席しませんので、夕方までエレアーナさまのところにいたいと申しまして」
「そうか、彼女も社交デビュー前だったね」
「ええ、わたくしも本当は一緒に伺いたかったのですけれどね」

そんな話をひとしきり楽しんだ後、殿下は、ふと視線を巡らせて会話を締められた。

「そろそろ、他を回ってくるとしよう。君を解放してあげないと、信奉者に呪い殺されてしまいそうだ」

あらあら、信奉者だなんてお上手ですこと。
なんてね。本当はそんな人いないから、喜んでも仕方ないのだけれど。

さて、殿下もどこかに行ってしまわれたし、私もデュールでも飲もうかしら、と振り返ったところで、アイスケルヒさまと目が合って。

「・・・こんばんは、アリエラ嬢」
「ご、ごきげんよう、アイスケルヒさま」

びっくりした。
エレアーナさまのお邸では言葉を交わすこともあったけれど。
夜会でお話するのは、挨拶ですら、初めてで。

「先日は、エレを訪問してくれてありがとう」
「え? あ、いいえ、とんでもありませんわ。こちらこそ楽しかったです」

まあまあ、今日も聞いてしまったわ。アイスケルヒさまの「エレ」呼び。
そして、あの『氷の貴公子』が、妹君に関係することだけに見せる甘い表情。

あらやだ、他の令嬢方がわたくしを睨んでいるわ。
ご安心なさって。このお顔は、わたくしに対するものではありませんのよ。

これは愛する妹君、エレアーナさまに向けられた表情なの。

・・・と、気づけば、なにやらアイスケルヒさまが、こちらを不思議そうに、じっと見ておられて。

「・・・? アイスケルヒさま?」
「・・・失敬。なにやら楽しそうに見えたもので」
「まぁ、顔に出ていましたかしら? 失礼いたしました」

慌ててぴょこんと頭を下げると、アイスケルヒさまが利き手を上げて訂正する。

「別に謝る必要はない。でも、まぁ、そうだな。何を考えていたか、お聞きしても?」
「それはもちろん、アイスケルヒさまのことですわ」
「・・・私?」
「アイスケルヒさまは、とても妹君を大事にされてますでしょう? ご自覚はないかもしれませんが、アイスケルヒさまは、エレアーナさまの話をされるとき、それはそれは、見惚れてしまうほど優しい表情をなさいますの」
「は、あ・・・」
「わたくし、アイスケルヒさまのその表情が、大好きなのですわ。いつもクールで『氷の貴公子』などと呼ばれていても、実は妹君を心から大事に思われる優しいお方なのだと、とても嬉しくなってしまうんですの」
「・・・そ、うか・・・」
「ええ、そうですわ。アイスケルヒさまのような素敵な方にこれほどまでに愛されるなんて、エレアーナさまは本当にお幸せですわね」

・・・だから、本当、睨まないでいただきたいわ、みなさま。

私は笑顔でアイスケルヒさまを見上げながら、周囲の令嬢方に心の中で文句を言った。

アイスケルヒさまのこの表情に、深い意味はないの。
これはいつものことなの。

アイスケルヒさまはエレアーナさまが大好きだから、友人である私と話すときは、いつもこんな表情をされるだけなの。

・・・別に、私のことを特別に想ってくれてるわけではないの。
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