【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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シュリエラの贈り物

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邸内に籠るようになって、一か月以上が過ぎた頃。


エレアーナは、エントランスの扉に、可愛らしいリースを飾り付けていた。

それほど大きくはないが、絡ませた蔦をメインに薄紫と青の花々を組み込んでいて、華やかながらも上品に仕上げられている。

護衛の者たちも、綺麗ですね、と声をかけながら通り過ぎる。

これは先ほど、シュリエラから贈り物として届いた品で。

手紙と共にリースの入った箱が届いた時は、まさか彼女から、とエレアーナも少々驚いた。

手紙には、これまでの非礼を詫びる文章と、手作りのリースについてしたためられていた。

使用人のアイデアで作った物で。
だいぶ手伝ってはもらったが、自分もちゃんと参加した、と。


今までのシュリエラ嬢のイメージからは、およそ想像できないことばかりが書いてあった。


よく見ると、リースは全体的に綺麗に整えられているが、少し歪だったり、不格好だったりするところが処処にあって、きっとそこがシュリエラの作ったところなのだろう、などとエレアーナは思った。


リースに使った花は、エレアーナも見たことがない種類のものも混ざっていた。

その見慣れない花からなのだろうか、ふわりと芳しい香りが立ち昇って。

いい香り。
色調も素敵だわ。

後で、お礼の手紙を書かないとね。

飾ったばかりのリースを眺めながら、エレアーナがにこにこ笑っているところに、アイスケルヒが帰ってきた。

エレアーナを心配してか、ここのところずっと、父か兄かのどちらかが邸に残るように仕事を調整してくれている。

どうしても邸を空けなければいけないときは、今日のように早めに戻ってきてくれるのだ。

「お帰りなさいませ、お兄さま」
「ただいま、エレ。・・・これは?」
「プレゼントですわ。シュリエラさまからの」

妹の口から出てきた名前に、アイスケルヒの眉根がきつく寄せられる。

「ライプニヒの令嬢か? あの、いつも殿下の後を追いかけ回して、お前にもやたらと突っかかっていた・・・」

兄の反応に、エレアーナが慌てて、手に持っていた手紙を兄に差し出す。

「これまでのことを謝罪してくださいましたのよ。これは手ずからお作りになられた、と」

謝罪、というおよそシュリエラに似つかわしくない単語に軽い驚きを見せると、差し出された手紙にざっと目を通す。

「なるほど、・・・どうやら文面に偽りはなさそうだが。まさか、あの令嬢が反省するとは・・・」

そう言って、改めてシュリエラからの贈り物を、まじまじと眺める。
そして、すっと一か所を指さして、ここだな、と呟いた。

「え?」
「シュリエラ嬢が作った部分はここと、・・・ここ、それから、ここだ」

どうやら、エレアーナと同意見らしい。
美しく整えられたリースの輪の中に、いかにも不器用そうに差し込まれた花々が、今のシュリエラ嬢の心を表わしているようで。

「ふふ」
「・・・くっ」

それが、あまりに以前のシュリエラとはかけ離れているのが、なんだかとても可笑しくて。

「・・・良かったな、エレ」
「はい」

緊張と不安ばかりが続く中、それは一服の清涼剤となったのだ。


それから数日後のこと。

シュリエラのもとに、エレアーナからの手紙が届いた。

ずっと返事を待ちわびてはいたものの。
いざ届くと、今度は内容が気になって、なかなか開封する勇気が出ない。

しばらく手紙を握りしめたまま部屋の中をうろうろ歩き回る。
それでも、やがて決心がついたのか、ひどく緊張した面持ちで封を開けて。

文面を追う瞳に、だんだんと喜色が浮かぶ。

「良かった・・・」

そう呟くと、部屋から飛び出して行った。

途中、シェドラーとぶつかりそうになる。

「申し訳ありません」
「いいのよ、シェドラー。飛び出して来たのは、わたくしだもの」

最近すっかり対応が柔らかくなったライプニヒ家の一人娘に、この心優しい執事は、静かに会釈を返す。

「なにやら嬉しそうにしていらっしゃいますが、良いことでもございましたか?」

その問いに、シュリエラはエレアーナからの手紙を見せる。

「この間、お前に送るように頼んだ手紙とプレゼントのお礼が来たのよ」
「それは良うございました」

にっこりと微笑む執事に、シュリエラも嬉しそうに笑顔を返す。

「ええ、ありがとう。ファイにもこの手紙、見せてくるわ」

シュリエラが口に出した名前に、シェドラーの瞳が陰る。

「ファイ、でございますか?」
「ええ、リースを手作りして送るっていうのは、ファイのアイデアだったの。作るときにも、たくさん手伝ってもらったしね」

そう言って、シュリエラは早足でエントランスの方へ向かう。
その後姿を、心配そうに執事が見送る。

「ファイ! ここにいたのね」

厩舎で、寝床用の藁を取り替えていたファイを見つけて、シュリエラが嬉しそうに駆け寄った。

「おや、ご機嫌ですね、シュリエラお嬢さま。何か良いことでもあったのですか?」

用具を脇に置きながら、ファイが尋ねる。

「前に話した、謝りたいと思っていた人から手紙が来たの。ありがとう、ファイ。贈り物、喜んで貰えたわ」
「それは良うございました。お嬢さまも、頑張って作っておられましたからね」

優しげな笑みが、ファイの顔に浮かぶ。

「ほとんどお前が作ったようなものだけどね。ほら、見て。とても気に入ったからエントランスの扉に飾ったって書いてあるのよ」
「ほう、エントランスに」

ファイの目が、きらりと光る。

「・・・それなら安心ですね。ちゃんと飾って頂けたのなら何よりです」
「ええ、また手紙を書こうと思ってるの。また何かあったら、相談に乗って頂戴」
「もちろんですとも」

近頃、ようやく笑顔が戻ってきたシュリエラに、ファイは穏やかな声でそう答えた。

その様子を遠くから伺う目があることも。
そしてその目が、心配気に曇っていることも。



当然、ファイは知っていた。
知っていたが、敢えて気づかぬ振りをした。
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