79 / 256
命令
しおりを挟む
王家の紋章入りの馬車が、凄まじい勢いで疾駆する。
「あとどれくらいだ?」
御者に向かってリュークザインが叫ぶ。
「もうあと10分程かと」
振動を堪えながら、御者も大声で返す。
「もっと飛ばせないのか?」
「申し訳ありません。これが精一杯でございます」
馬車の中は激しく揺れ続けて。
狂ったように駆ける馬車は、しっかりとしがみついていないと、どこかに頭を打ち付けてしまいそうな勢いだ。
「ファイとやら。賢者くずれがブライトン邸に現れたのは間違いないのだろうな?」
ベルフェルトが、窓枠を掴みながら吠える。
「間違いございません。探知しましたので」
「・・・探知だと?」
「シュリエラお嬢さまのお手柄でございますよ。エントランスに飾って頂いたお嬢さまのリースが、奴の侵入を探知したのです」
「な・・・?」
リュークザインも、ベルフェルトも、その言葉の意味が呑み込めず、しばし思案する。
カーンに至っては、最早、考えることを放棄しており、言う通りに動くから兎に角指示を寄越せ、と言わんばかりの態度で黙り込んでいる。
「とはいえ、遠方から探知しただけですので、賢者くずれの風貌も特徴も私は知りません。ですが、外門の警備の者に確認すれば、私が探知した時間にブライトン邸に現れた人物がそれであると断定できるでしょう」
ごくりと唾を呑みこむ音が聞こえた。リュークザインだ。
「お前は・・・本当に、我が邸に長年仕えているファイか・・・?」
「おや、ようやくそこに気づいてくださいましたね」
「なんだと?」
「・・・そら」
ファイが軽く円を描くように左手を振る。
「・・・!」
「・・・?」
リュークザインとベルフェルトが、瞬きをして。
「え・・・?」
信じられないものを見ているかのように、目の前のファイを凝視する。
「ファイ、お前・・・? いや、違う。ファイは・・・。オレの知るファイという男は・・・」
それまでファイと名乗っていた目の前の見知らぬ男は、にっこりと微笑んだ。
「暗示が解けたかな。そうだよ、ベルフェルト。ファイとは、君の主君が送って寄越したハトとやらの名前だ」
男の口調が、がらりと変わる。
その言葉に、リュークザインも、ベルフェルトも、驚愕のあまり声も出せない。
ただ一人、ハトの存在を知らされていないカーンだけが、訳もわからず、ぽかんと口を開けていた。
「はじめまして、と言うべきかな? 改めて名乗らせてもらうよ。・・・私の名はラファイエラス。べトエルルに居を定めるワイジャーマだ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
突然のことに、誰も理解が追いつかない。
ようやく、はっと我に返ったリュークザインが、深々と礼を取る。
「ラファイエラスさま、どうかこれまでの無礼をお許しください・・・!」
リュークの言葉に、ベルフェルトもカーンも、慌てて頭を下げる。
「許すも何も、私がワイジャーマであることを隠していたのだ。気にすることはない」
「しかし・・・」
「ああ、ほら。着いたようだ。詳しい話は後にしよう。早速、警護の者に来訪者の所在を確認しなさい」
「はっ」
王家の紋章の入った馬車の到着に、警護の騎士たちがざわめく。
リュークたちは馬車から飛び降りるなり、警護の者たちに来訪者の有無について問いただした。
警護の者たちからの報告を受け、三人の顔色がさっと変わる。
急ぎラファイエラスの元に戻ると、彼らはこう告げた。
「該当する時間の来訪者はただ一人、バークリーという名の男です。エレアーナ嬢が訪問していた孤児院のスタッフの一人で、今日は病気の治療に使う薬草を分けてほしいとやって来たそうです」
「それで、その男は今どこに?」
「中に通してしまったと・・・。申し訳ありません」
報告するカーンの顔に焦りが滲む。
ラファイエラスは、顔色を変えることなく三人に告げた。
「信用のおける者を一人ここに残し、捜索に当たりなさい。私は今からここで邸全体に結界を張り、奴が外へ逃げられないようにする。邸内探索の指揮は君たちの方が向いているだろう。警護の者たちへの指示は任せる。・・・急ぎなさい。」
「はっ」
◇◇◇
「ねぇ、なんだか邸の外が騒がしくない?」
ブライトン邸の使用人がバークリーのところへ用件を聞きに来たのを見届けてから、レオンたちはサロンでケインたちの帰りを待つことになって。
執事の用意したお茶を飲んでいたレオンハルトが、あちこちで響き始めた騎士たちの足音に気づいた。
「・・・急に慌ただしくなりましたね」
ライナスが眉根を寄せ、窓から外の様子を伺う。
厳しい表情で走る警護の者たちの姿に、レオンハルトの表情がさっと陰った。
「・・・何かあったみたいだね。僕たちも行こう、ライナス」
扉を開け、通路を走り抜ける。
隣を走るライナスバージに、レオンハルトが声をかけた。
「ライナス、今日は僕の護衛であることを忘れろ」
「・・・殿下?」
「今日は僕も帯刀してる。もし、事態が僕の想像した通りだった場合は・・・僕よりも、エレアーナを優先してくれ。これは命令だ。口答えは許さない」
「・・・」
「絶対に、彼女を守るんだ」
ライナスは一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。
「仰せの通りに。我が君」
「あとどれくらいだ?」
御者に向かってリュークザインが叫ぶ。
「もうあと10分程かと」
振動を堪えながら、御者も大声で返す。
「もっと飛ばせないのか?」
「申し訳ありません。これが精一杯でございます」
馬車の中は激しく揺れ続けて。
狂ったように駆ける馬車は、しっかりとしがみついていないと、どこかに頭を打ち付けてしまいそうな勢いだ。
「ファイとやら。賢者くずれがブライトン邸に現れたのは間違いないのだろうな?」
ベルフェルトが、窓枠を掴みながら吠える。
「間違いございません。探知しましたので」
「・・・探知だと?」
「シュリエラお嬢さまのお手柄でございますよ。エントランスに飾って頂いたお嬢さまのリースが、奴の侵入を探知したのです」
「な・・・?」
リュークザインも、ベルフェルトも、その言葉の意味が呑み込めず、しばし思案する。
カーンに至っては、最早、考えることを放棄しており、言う通りに動くから兎に角指示を寄越せ、と言わんばかりの態度で黙り込んでいる。
「とはいえ、遠方から探知しただけですので、賢者くずれの風貌も特徴も私は知りません。ですが、外門の警備の者に確認すれば、私が探知した時間にブライトン邸に現れた人物がそれであると断定できるでしょう」
ごくりと唾を呑みこむ音が聞こえた。リュークザインだ。
「お前は・・・本当に、我が邸に長年仕えているファイか・・・?」
「おや、ようやくそこに気づいてくださいましたね」
「なんだと?」
「・・・そら」
ファイが軽く円を描くように左手を振る。
「・・・!」
「・・・?」
リュークザインとベルフェルトが、瞬きをして。
「え・・・?」
信じられないものを見ているかのように、目の前のファイを凝視する。
「ファイ、お前・・・? いや、違う。ファイは・・・。オレの知るファイという男は・・・」
それまでファイと名乗っていた目の前の見知らぬ男は、にっこりと微笑んだ。
「暗示が解けたかな。そうだよ、ベルフェルト。ファイとは、君の主君が送って寄越したハトとやらの名前だ」
男の口調が、がらりと変わる。
その言葉に、リュークザインも、ベルフェルトも、驚愕のあまり声も出せない。
ただ一人、ハトの存在を知らされていないカーンだけが、訳もわからず、ぽかんと口を開けていた。
「はじめまして、と言うべきかな? 改めて名乗らせてもらうよ。・・・私の名はラファイエラス。べトエルルに居を定めるワイジャーマだ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
突然のことに、誰も理解が追いつかない。
ようやく、はっと我に返ったリュークザインが、深々と礼を取る。
「ラファイエラスさま、どうかこれまでの無礼をお許しください・・・!」
リュークの言葉に、ベルフェルトもカーンも、慌てて頭を下げる。
「許すも何も、私がワイジャーマであることを隠していたのだ。気にすることはない」
「しかし・・・」
「ああ、ほら。着いたようだ。詳しい話は後にしよう。早速、警護の者に来訪者の所在を確認しなさい」
「はっ」
王家の紋章の入った馬車の到着に、警護の騎士たちがざわめく。
リュークたちは馬車から飛び降りるなり、警護の者たちに来訪者の有無について問いただした。
警護の者たちからの報告を受け、三人の顔色がさっと変わる。
急ぎラファイエラスの元に戻ると、彼らはこう告げた。
「該当する時間の来訪者はただ一人、バークリーという名の男です。エレアーナ嬢が訪問していた孤児院のスタッフの一人で、今日は病気の治療に使う薬草を分けてほしいとやって来たそうです」
「それで、その男は今どこに?」
「中に通してしまったと・・・。申し訳ありません」
報告するカーンの顔に焦りが滲む。
ラファイエラスは、顔色を変えることなく三人に告げた。
「信用のおける者を一人ここに残し、捜索に当たりなさい。私は今からここで邸全体に結界を張り、奴が外へ逃げられないようにする。邸内探索の指揮は君たちの方が向いているだろう。警護の者たちへの指示は任せる。・・・急ぎなさい。」
「はっ」
◇◇◇
「ねぇ、なんだか邸の外が騒がしくない?」
ブライトン邸の使用人がバークリーのところへ用件を聞きに来たのを見届けてから、レオンたちはサロンでケインたちの帰りを待つことになって。
執事の用意したお茶を飲んでいたレオンハルトが、あちこちで響き始めた騎士たちの足音に気づいた。
「・・・急に慌ただしくなりましたね」
ライナスが眉根を寄せ、窓から外の様子を伺う。
厳しい表情で走る警護の者たちの姿に、レオンハルトの表情がさっと陰った。
「・・・何かあったみたいだね。僕たちも行こう、ライナス」
扉を開け、通路を走り抜ける。
隣を走るライナスバージに、レオンハルトが声をかけた。
「ライナス、今日は僕の護衛であることを忘れろ」
「・・・殿下?」
「今日は僕も帯刀してる。もし、事態が僕の想像した通りだった場合は・・・僕よりも、エレアーナを優先してくれ。これは命令だ。口答えは許さない」
「・・・」
「絶対に、彼女を守るんだ」
ライナスは一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。
「仰せの通りに。我が君」
22
あなたにおすすめの小説
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる