【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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命令

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王家の紋章入りの馬車が、凄まじい勢いで疾駆する。

「あとどれくらいだ?」

御者に向かってリュークザインが叫ぶ。

「もうあと10分程かと」

振動を堪えながら、御者も大声で返す。

「もっと飛ばせないのか?」
「申し訳ありません。これが精一杯でございます」

馬車の中は激しく揺れ続けて。
狂ったように駆ける馬車は、しっかりとしがみついていないと、どこかに頭を打ち付けてしまいそうな勢いだ。

「ファイとやら。賢者くずれがブライトン邸に現れたのは間違いないのだろうな?」

ベルフェルトが、窓枠を掴みながら吠える。

「間違いございません。探知しましたので」
「・・・探知だと?」
「シュリエラお嬢さまのお手柄でございますよ。エントランスに飾って頂いたお嬢さまのリースが、奴の侵入を探知したのです」
「な・・・?」

リュークザインも、ベルフェルトも、その言葉の意味が呑み込めず、しばし思案する。
カーンに至っては、最早、考えることを放棄しており、言う通りに動くから兎に角指示を寄越せ、と言わんばかりの態度で黙り込んでいる。

「とはいえ、遠方から探知しただけですので、賢者くずれの風貌も特徴も私は知りません。ですが、外門の警備の者に確認すれば、私が探知した時間にブライトン邸に現れた人物がそれであると断定できるでしょう」

ごくりと唾を呑みこむ音が聞こえた。リュークザインだ。

「お前は・・・本当に、我が邸に長年仕えているファイか・・・?」
「おや、ようやくそこに気づいてくださいましたね」
「なんだと?」
「・・・そら」

ファイが軽く円を描くように左手を振る。

「・・・!」
「・・・?」

リュークザインとベルフェルトが、瞬きをして。

「え・・・?」

信じられないものを見ているかのように、目の前のファイを凝視する。

「ファイ、お前・・・? いや、違う。ファイは・・・。オレの知るファイという男は・・・」

それまでファイと名乗っていた目の前の見知らぬ男は、にっこりと微笑んだ。

「暗示が解けたかな。そうだよ、ベルフェルト。ファイとは、君の主君が送って寄越したハトとやらの名前だ」

男の口調が、がらりと変わる。
その言葉に、リュークザインも、ベルフェルトも、驚愕のあまり声も出せない。

ただ一人、ハトの存在を知らされていないカーンだけが、訳もわからず、ぽかんと口を開けていた。

「はじめまして、と言うべきかな? 改めて名乗らせてもらうよ。・・・私の名はラファイエラス。べトエルルに居を定めるワイジャーマだ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」

突然のことに、誰も理解が追いつかない。

ようやく、はっと我に返ったリュークザインが、深々と礼を取る。

「ラファイエラスさま、どうかこれまでの無礼をお許しください・・・!」

リュークの言葉に、ベルフェルトもカーンも、慌てて頭を下げる。

「許すも何も、私がワイジャーマであることを隠していたのだ。気にすることはない」
「しかし・・・」
「ああ、ほら。着いたようだ。詳しい話は後にしよう。早速、警護の者に来訪者の所在を確認しなさい」
「はっ」

王家の紋章の入った馬車の到着に、警護の騎士たちがざわめく。

リュークたちは馬車から飛び降りるなり、警護の者たちに来訪者の有無について問いただした。

警護の者たちからの報告を受け、三人の顔色がさっと変わる。
急ぎラファイエラスの元に戻ると、彼らはこう告げた。

「該当する時間の来訪者はただ一人、バークリーという名の男です。エレアーナ嬢が訪問していた孤児院のスタッフの一人で、今日は病気の治療に使う薬草を分けてほしいとやって来たそうです」
「それで、その男は今どこに?」
「中に通してしまったと・・・。申し訳ありません」

報告するカーンの顔に焦りが滲む。
ラファイエラスは、顔色を変えることなく三人に告げた。

「信用のおける者を一人ここに残し、捜索に当たりなさい。私は今からここで邸全体に結界を張り、奴が外へ逃げられないようにする。邸内探索の指揮は君たちの方が向いているだろう。警護の者たちへの指示は任せる。・・・急ぎなさい。」
「はっ」




◇◇◇




「ねぇ、なんだか邸の外が騒がしくない?」

ブライトン邸の使用人がバークリーのところへ用件を聞きに来たのを見届けてから、レオンたちはサロンでケインたちの帰りを待つことになって。

執事の用意したお茶を飲んでいたレオンハルトが、あちこちで響き始めた騎士たちの足音に気づいた。

「・・・急に慌ただしくなりましたね」

ライナスが眉根を寄せ、窓から外の様子を伺う。
厳しい表情で走る警護の者たちの姿に、レオンハルトの表情がさっと陰った。

「・・・何かあったみたいだね。僕たちも行こう、ライナス」

扉を開け、通路を走り抜ける。
隣を走るライナスバージに、レオンハルトが声をかけた。

「ライナス、今日は僕の護衛であることを忘れろ」
「・・・殿下?」
「今日は僕も帯刀してる。もし、事態が僕の想像した通りだった場合は・・・僕よりも、エレアーナを優先してくれ。これは命令だ。口答えは許さない」
「・・・」
「絶対に、彼女を守るんだ」

ライナスは一瞬、驚いた顔をしたが、すぐに表情を引き締めた。

「仰せの通りに。我が君」
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