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謁見の真実

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その場には、シャールベルム国王陛下、ミハイルシュッツ王弟殿下、ダイスヒル宰相、ルシウスらを始めとした、錚々たるメンバーが待ち構えていた。

もちろん非公式の招集であるため、いつもの国王執務室に集まっている。

静寂が室内を包む中、ノックと共に、リュークザインの声が響く。

「シャールベルム国王陛下、当邸の使用人、ファイを連れて参りました」
「うむ、入れ」

コツン、コツン、と靴音を響かせて入ってきたのは、藤色の短髪の男。
御者服に身を包み、口元には人の好さそうな笑みを浮かべている。

「ライプニヒ公爵家で御者として仕えております、ファイと申します」
「・・・よく来てくれた」
「勿体ないお言葉です」

深々と頭を下げる。

「私めのような一介の使用人を王城までご招待くださるとは、光栄の至りにございます」
「・・・一介の使用人、か」

頬杖をつき、慎重に言葉を選びながら、シャールベルムは目の前の男を観察した。

年の功は、30代となかなか若く見える。細身ではあるが、しっかりとした体躯、目には知性が宿っていて。

なるほど、確かにこれは、判断に迷うな。

シャールベルムは、そう心の中で呟いた。

「・・・ライプニヒ家に仕えて、もう十年以上経つと聞いているが・・・」
「左様でございます」

ファーブライエンが賢者くずれをサンカナンから呼びつけたのは、ほんの数ヶ月前。
どうにも辻褄が合わない。

「最近は、シュリエラの話し相手も務めているそうだな」
「そんな話し相手など、大層なことはしておりません。ただお嬢さまは、最近ようやく庭までお出になられるようになりまして、そのときにお声をかけていただいております」
「エレアーナに手紙と贈り物をするよう助言したのもお前だと聞いているが?」
「ああ、リースのことでございますね。仰る通り、仲直りしたい人がいる、とお嬢さまが仰いましたので、僭越ながら提案させていただきました。お返事も頂けたそうで、喜んでおられましたよ。なんでもリースはエントランスに飾って頂けたとか」
「・・・そうなのか? ルシウス」
「はい。エレアーナが飾っておりました。小ぶりながらも美しい青と紫の色調で、通るたびに華やいだ気分にしてくれます」
「エントランスとは僥倖でした。シュリエラさまのお手柄でございますね」
「・・・何?」
「通常であれば、全ての者は必ずそこを通りますので」

ファイの言葉の意図が分からず、そこにいた一堂が互いに視線を交わしていた、そのとき。

ファイの目が微かに見開かれ、それまで取っていた礼の姿勢が崩れた。
頭を上げ、どこか視線を彷徨わせている。

「・・・どうした、ファイ?」
「しばしお待ちを」

そう短く答えると、ファイは再び、どこか遠い視線で執務室の窓から外を眺めている。

不可解な行動に、執務室内が一気に緊張感に包まれる。

「・・・いけませんね」
「何?」
「奴が来ました」
「・・・奴、とは」

ファイの言葉に付いていけず、シャールベルムは思わず問い返す。

ファイは、視線を窓の外に定めたまま、王の問いに答えた。

「ここにいる皆さまが、ずっとお探しになっている男ですよ。愚かにもワイジャーマと自らを偽称する、下衆な賢者くずれ野郎のことです」

ファイの口から出た予想外の言葉に、その場にいた全員が固まった。

「・・・何、を言っている・・?」

王の声が、少し掠れる。

「お前は・・・一体・・」
「申し訳ありませんが、時間がありません。説明は後にいたしましょう。私めは急ぎ行かねばなりません」
「行く・・とは、どこに」

ファイは視線を戻すと、国王を真っ直ぐに見て答えた。

「ブライトン公爵邸です」

突然すぎるファイの言葉に、混乱が走るなか、その言葉の意味をいち早く悟ったシャールベルムが口を開いた。

「ブライトン邸に、賢者くずれが現れたと言うのだな」
「はい」
「・・・!」

その言葉に、ルシウスが青ざめる。

「わかった。詳しい説明は後で聞こう」

シャールベルムは言葉を続けた。

「リュークザイン。その者の言う通りに動け」
「ベルフェルト、カーン。お前たちもだ。ファイの指示に従え」
「「はっ!」」
「行け!」

足早に立ち去っていく彼らの後ろ姿を見つめながら、シャールベルムは大きく息を吐く。

厳しい顔つきで黙り込んでしまったルシウスの肩を、シュタインゼンが、ぽんと軽く叩きながら、いつも通りの緊張感のない声で話しかけた。

「いやぁ、思わぬところから助けが現れたな」
「助け・・・。ああ、そうか、そうだな」

娘の身を案じているのか、ルシウスの眼は不安げに揺れている。

「確かにな。・・・あの男の言うことが本当であれば、今頃、我が邸に賢者くずれが現れたことにも気づかぬまま、ここにいたわけだから」
「ですが、兄上。もし、あの者の言うことがすべて偽りだとしたら、どうなるのです? もしあの者こそが賢者くずれだとしたら、我々は、自らの手で敵をエレアーナ嬢の元へ送り込んだことになってしまいます」

心配げに話す弟の言葉に、シャールベルムは軽く右手を振る。

「いや、その心配はないだろう。恐らく、あのファイという男は・・・」
「ファイという男は・・・?」
「・・・まぁ、当人の口から聞いた方が良かろう。とにかく、ここで待つしかあるまい」
「陛下。・・・彼らは間に合うでしょうか?」

ルシウスが絞り出すように声を出した。

「大丈夫だ。あの者たちは必ず間に合わせてくれる」
「そうだとも、ルシウス。もとより警護の者たちも揃ってるし、今日は殿下やうちのケインもあちらに行っているし、まぁ、彼らが到着するまでの盾くらいにはなってくれるんじゃないか」

緊迫感あふれるこの場面で、自分の息子はおろか一国の王太子まで盾呼ばわりするシュタインゼンに、ルシウスの目にあった緊張が緩む。

「まったく、シュタインゼン・・・お前というやつは」

シュタインゼンはいつもと同じ、にこにことした笑みを浮かべながら言った。

「所詮、賢者くずれは賢者くずれさ。本物には敵わないよ」
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