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賢者の力
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「誰だ、お前は。よくもこの私に、そんな口を・・・」
バルクルムの呟きには耳を貸さず、ラファイエラスはゆっくりと右手を上げた。
刹那、弧を描いて地面に落ちようとしていた小瓶が、そのまま空中でピタリと止まる。
「な・・・?」
バルクルムはもちろん、周囲を囲んでいた騎士たちからも驚嘆の声が上がる。
「アイスケルヒ、回収を頼む。扱いは慎重にな」
「はい」
ラファイエラスの後ろにいたアイスケルヒが進み出て、空中に静止したままの小瓶へと手を伸ばす。
騎士たちに両脇から体を押さえつけられたまま、バルクルムが大声で喚きたてる。
「・・・さ、触るなっ! それは私のだっ。私が作ったものだぞ。あの娘を殺すために、丁寧に、時間をかけて作り上げた貴重な・・・」
「この男を殺しても構わないでしょうか? ラファイエラスさま」
バルクルムのがなり声を遮るように、アイスケルヒが冷たい声で物騒な許可を求めた。
「まだ駄目だ。私たちがこの阿呆を連れてくるのを国王は待ちわびているだろう。今は、殴るか蹴るかくらいで我慢しておけ、アイスケルヒ」
「・・・わかりました」
それでも、まだ状況が呑み込めていない賢者くずれは、抵抗をやめようとはしない。
「ふ、ふざけるな。お前らなど、この私にかかれば・・・」
「ほう、かかれば?」
そう言うと、今度は左手を下に向けて突き出した。
「ぐあっ!」
ぐん、とバルクルムの体が、何かがのしかかったように急に地面に押し付けられる。
両脇を抱えていた騎士たちが、思わず一緒に膝をつくほどの強烈な勢いで。
「お前の手にかかれば、私たちはどうなるんだ? さぁ、言ってみろ」
「ぐっ、・・・なんだ、これは。お、重い。体が、重い・・・」
ラファイエラスは、バルクルムの両側で腕を押さえていた騎士たちに向かって話しかけた。
「手を離しても構わんぞ。そいつはもう動くことは出来ぬ」
「は、はい・・・」
ふたりは言葉を受けて手を離すと、慌てて団長の後ろへと下がった。
アイスケルヒが戻ってきて、小瓶をラファイエラスに手渡す。
続いて、リュークザインが進み出て、邸周辺から集めてきた未回収の水晶石をラファイエラスに差しだした。
「ああっ! それは私が置いておいた水晶石! 返せ、いくらしたと思ってるんだ! 返せ、私のだぞっ!」
「・・・賢者くずれの愚かさ加減とは、ここまで酷いものだったか。噂をはるかに超えていて、最早笑うしかないレベルだな」
「な、なんだとっ! 貴様、この私を賢者くずれと言ったのか? 違う、違うぞ。私は・・・私は、偉大なる賢者、ワイジャ・・・」
ドガッ!
その場にいる誰もが息を呑み、黙り込んだ。
先ほどまで大仰に喚き散らしていた男の上に、一閃、雷が落ちて。
今、その男の体からは、しゅうしゅうと煙が上がっている。
静寂がその場を支配する中、それを破って第一声をあげたのはアイスケルヒだった。
「・・・ラファイエラスさま。先ほど、この男を殺しては駄目だと私におっしゃられたのは貴方さまですが・・・」
「ああ、すまん。ついうっかりな。だが、大丈夫だ。殺してはいない。・・・まぁ、念のため、少しだけ回復させておくか」
そう言って右手を軽く振った。
「ああ、そうだ。お前たちの中にも怪我をした者がいるだろう。ついでに治してやる」
そう言うと、右手をぐるりと大きく振った。
ケインバッハは、両手首の猛烈な痛みがすっと引いたことを感じ、思わずまじまじと自分の手を見つめる。
横を見れば、先ほどまで血が滴っていたカーンの拳や腕の傷も、綺麗になっていて。
ベルフェルトも怪我をしていたようで、自分の腕を覗きこんで驚く姿が見えた。
他にも、治癒効果を感じたらしい騎士たちからの歓声が上がる。
「・・・確認で聞くが、エレアーナは無事だな?」
「は・・・はい」
ラファイエラスの声に、カーンの後ろに控えていた騎士たちの背後から、そっとエレアーナが顔をのぞかせる。
「わたくしはここにおります。怪我もしておりません」
「・・・だそうだ。レオンハルト、言った通りだろう」
「そうですね。・・・本当に、ありがとうございました」
「いや、興が乗って少し手を貸す気になっただけだ。普通の力しか持たないお前たちが、ここまで奴を追い詰めるのを見るのは、なかなかに愉快だったのでな」
それから、ラファイエラスはリュークザインに視線を投げかけてこう告げた。
「聞きたいことはいろいろとあるだろうが、ひとまず王城へ戻るとしよう。君たちの敬愛する国王陛下が私たちの帰りを今か今かと待っているだろうからな」
「はっ」
「ああ、それからエレアーナ」
「はい」
「君も来るといい。娘の安否を案じている父親に、無事な姿を見せて安心させてやれ」
王城への招きの言葉に、一瞬、驚いて。
それから、ふわりと笑った。
「はい。そうさせて頂きます」
その笑顔に、ラファイエラスがふっと笑みを浮かべる。
「・・・なるほど。極上の笑みだな」
それから後、カーンが騎士たちへ、アイスケルヒが邸の者たちへとそれぞれ指示を出し、未だ体から微かに煙が立ちのぼる賢者くずれを王城へと引っ立てて行った。
馬車で城へと向かう中、リュークザインがラファイエラスにそっと礼を述べると、軽く手を振って、礼を言うのはまだ早い、と返された。
「ですが、賢者くずれの件もこれにて収束いたしました。まだ早いとは如何様な意味でしょうか?」
まさか、まだ他にも見知らぬ敵が潜んでいるのか、と、一瞬、嫌な予想が頭をよぎるも、そんなことではない、とあっさり否定されて。
「・・・では、一体どのような意味でございましょう?」
心底分からない、とでも言いたげに目を瞬かせていると、表情を変えることもなく、ぽそりとこんなことを言った。
「罰を受けねばならない人間が、まだ残っているだろう? 今回の件で最も罪の深い者、その発端となった者が」
バルクルムの呟きには耳を貸さず、ラファイエラスはゆっくりと右手を上げた。
刹那、弧を描いて地面に落ちようとしていた小瓶が、そのまま空中でピタリと止まる。
「な・・・?」
バルクルムはもちろん、周囲を囲んでいた騎士たちからも驚嘆の声が上がる。
「アイスケルヒ、回収を頼む。扱いは慎重にな」
「はい」
ラファイエラスの後ろにいたアイスケルヒが進み出て、空中に静止したままの小瓶へと手を伸ばす。
騎士たちに両脇から体を押さえつけられたまま、バルクルムが大声で喚きたてる。
「・・・さ、触るなっ! それは私のだっ。私が作ったものだぞ。あの娘を殺すために、丁寧に、時間をかけて作り上げた貴重な・・・」
「この男を殺しても構わないでしょうか? ラファイエラスさま」
バルクルムのがなり声を遮るように、アイスケルヒが冷たい声で物騒な許可を求めた。
「まだ駄目だ。私たちがこの阿呆を連れてくるのを国王は待ちわびているだろう。今は、殴るか蹴るかくらいで我慢しておけ、アイスケルヒ」
「・・・わかりました」
それでも、まだ状況が呑み込めていない賢者くずれは、抵抗をやめようとはしない。
「ふ、ふざけるな。お前らなど、この私にかかれば・・・」
「ほう、かかれば?」
そう言うと、今度は左手を下に向けて突き出した。
「ぐあっ!」
ぐん、とバルクルムの体が、何かがのしかかったように急に地面に押し付けられる。
両脇を抱えていた騎士たちが、思わず一緒に膝をつくほどの強烈な勢いで。
「お前の手にかかれば、私たちはどうなるんだ? さぁ、言ってみろ」
「ぐっ、・・・なんだ、これは。お、重い。体が、重い・・・」
ラファイエラスは、バルクルムの両側で腕を押さえていた騎士たちに向かって話しかけた。
「手を離しても構わんぞ。そいつはもう動くことは出来ぬ」
「は、はい・・・」
ふたりは言葉を受けて手を離すと、慌てて団長の後ろへと下がった。
アイスケルヒが戻ってきて、小瓶をラファイエラスに手渡す。
続いて、リュークザインが進み出て、邸周辺から集めてきた未回収の水晶石をラファイエラスに差しだした。
「ああっ! それは私が置いておいた水晶石! 返せ、いくらしたと思ってるんだ! 返せ、私のだぞっ!」
「・・・賢者くずれの愚かさ加減とは、ここまで酷いものだったか。噂をはるかに超えていて、最早笑うしかないレベルだな」
「な、なんだとっ! 貴様、この私を賢者くずれと言ったのか? 違う、違うぞ。私は・・・私は、偉大なる賢者、ワイジャ・・・」
ドガッ!
その場にいる誰もが息を呑み、黙り込んだ。
先ほどまで大仰に喚き散らしていた男の上に、一閃、雷が落ちて。
今、その男の体からは、しゅうしゅうと煙が上がっている。
静寂がその場を支配する中、それを破って第一声をあげたのはアイスケルヒだった。
「・・・ラファイエラスさま。先ほど、この男を殺しては駄目だと私におっしゃられたのは貴方さまですが・・・」
「ああ、すまん。ついうっかりな。だが、大丈夫だ。殺してはいない。・・・まぁ、念のため、少しだけ回復させておくか」
そう言って右手を軽く振った。
「ああ、そうだ。お前たちの中にも怪我をした者がいるだろう。ついでに治してやる」
そう言うと、右手をぐるりと大きく振った。
ケインバッハは、両手首の猛烈な痛みがすっと引いたことを感じ、思わずまじまじと自分の手を見つめる。
横を見れば、先ほどまで血が滴っていたカーンの拳や腕の傷も、綺麗になっていて。
ベルフェルトも怪我をしていたようで、自分の腕を覗きこんで驚く姿が見えた。
他にも、治癒効果を感じたらしい騎士たちからの歓声が上がる。
「・・・確認で聞くが、エレアーナは無事だな?」
「は・・・はい」
ラファイエラスの声に、カーンの後ろに控えていた騎士たちの背後から、そっとエレアーナが顔をのぞかせる。
「わたくしはここにおります。怪我もしておりません」
「・・・だそうだ。レオンハルト、言った通りだろう」
「そうですね。・・・本当に、ありがとうございました」
「いや、興が乗って少し手を貸す気になっただけだ。普通の力しか持たないお前たちが、ここまで奴を追い詰めるのを見るのは、なかなかに愉快だったのでな」
それから、ラファイエラスはリュークザインに視線を投げかけてこう告げた。
「聞きたいことはいろいろとあるだろうが、ひとまず王城へ戻るとしよう。君たちの敬愛する国王陛下が私たちの帰りを今か今かと待っているだろうからな」
「はっ」
「ああ、それからエレアーナ」
「はい」
「君も来るといい。娘の安否を案じている父親に、無事な姿を見せて安心させてやれ」
王城への招きの言葉に、一瞬、驚いて。
それから、ふわりと笑った。
「はい。そうさせて頂きます」
その笑顔に、ラファイエラスがふっと笑みを浮かべる。
「・・・なるほど。極上の笑みだな」
それから後、カーンが騎士たちへ、アイスケルヒが邸の者たちへとそれぞれ指示を出し、未だ体から微かに煙が立ちのぼる賢者くずれを王城へと引っ立てて行った。
馬車で城へと向かう中、リュークザインがラファイエラスにそっと礼を述べると、軽く手を振って、礼を言うのはまだ早い、と返された。
「ですが、賢者くずれの件もこれにて収束いたしました。まだ早いとは如何様な意味でしょうか?」
まさか、まだ他にも見知らぬ敵が潜んでいるのか、と、一瞬、嫌な予想が頭をよぎるも、そんなことではない、とあっさり否定されて。
「・・・では、一体どのような意味でございましょう?」
心底分からない、とでも言いたげに目を瞬かせていると、表情を変えることもなく、ぽそりとこんなことを言った。
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