【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
101 / 256

賢者からの贈り物

しおりを挟む
その後、エレアーナたちは、国王の言葉を受け、別室へと向かっていた。

渡すものがある、そう告げられて。

指示された部屋の扉を開けると、そこには王と共にシュタインゼン・ダイスヒル、そしてルシウスとリュークザインもいた。

シュタインゼンは、並び立つケインバッハとエレアーナを見て、なにやら嬉しそうだ。

「これはこれは、今夜は一段と綺麗だねぇ。ファーストダンスは上手に踊れたかい? 未来の私の義娘むすめさん」

未来の義娘むすめ、という言葉に反応して頰を染めるエレアーナだったが、それにも増して赤くなったのはケインバッハだ。

これまで何をしても無表情だった息子が、エレアーナに関する事では色々と表情が変化するため、面白がった父親からこうして会うたびにオモチャにされる。

「・・・何故、父上がここに?」
「嫌だなぁ、そんなに嫌そうな顔をしないでよ。私はお前の父親じゃないか。ほら、ルシウスたちも同じく呼ばれているだろう?」

ケインは、二人に軽く会釈をしてから、周囲を見回し「それではシュリエラ嬢も?」と聞き返した。

「ああ、今、ライナスバージに呼びに行ってもらってる」

その言葉通り、程なくしてシュリエラもやって来たところで、シャールベルムは息子のレオンハルトに、箱を二つ持ってこさせた。

「これを、そなたたちにと」

そう言って、二人に箱を手渡した。
それは、両掌に収まるほどの大きさで、光沢のある柔らかな布地で包まれていた。

「開けてみよ」

言われるがままに布を解くと、中からは周りに彫刻が施された木箱が現れた。

そっと蓋を開ける。

「・・・?」

木箱の中にあったのは、一輪の花。
それは見覚えのある薄紫色の花だった。

「これは・・・」
「あの時の花?」

エレアーナの呟きと、シュリエラの言葉が重なる。

シュリエラから送られたリースに使われていた花。
賢者くずれの来訪を探知してくれたリースの花だ。

「これは・・・もしや賢者さまが?」

エレアーナの問いに、シャールベルムが頷く。

「今朝がた、王城に届けられたのだ。そなたたち二人にあてたその箱も中に入っておってな。日付が日付だけに、今夜の夜会で渡すように、という事だろうと考え、ここに来てもらった訳だ」

そう言って、シャールベルムは穏やかな笑みを浮かべた。

「デビュタントのことなど知る筈もないのに、賢者さまは何でもお見通しだな。相変わらず不思議なお方だ」

どこか懐かしそうに、呟いた。

エレアーナの命を救った花。
シュリエラがリースに差し込んで送った花。

手紙も何もない、一輪だけ贈られたきた薄紫色のその花が、ラファイエラスとの特別な絆を約束してくれているようで。

ただただ花を見つめるだけで、二人は何も言葉に出来なかった。

「ワイジャーマさまから花を贈られた者など、世界広しと言えども、そなたたちくらいしかおらぬだろう。・・・愛されているのだな」

国王陛下は、笑いながらそう言った。

今、この場にいる者たちは皆、ラファイエラスに助けられた者たちばかり。
だが、多少天邪鬼なところのある彼は、碌に感謝の言葉も言わせぬまま去ってしまって。

寂しさも癒えぬまま日々を過ごす中、デビュタントの日に贈られてきた一輪の花に、改めて偉大なる賢者の優しさを感じることになった。

そして、賢者に関しては不思議なことがもう一つ。

賢者から贈られた花は、いつまで経っても枯れることがなかった。

ラファイエラスの力によるのだろう、花弁の一片すら落ちることなく、いつまでも美しく咲き続けた。

時を超えて咲き続けるその花は、後に『賢者の花』として代々受け継がれる家宝となる。

だが、それは後代になってからの話で。
今夜、それを受け取ったばかりの二人は、そのことを知る由もない。



邸へと戻る馬車の中、エレアーナはずっと贈り物の花を眺めていた。
そんな婚約者の姿を、ケインバッハも笑みを浮かべて見守っている。

「嬉しそうだな、エレアーナ嬢」
「ええ、とても嬉しいのです。この花を見ていると、なんだかラファイエラスさまに見守られているような気がしますの」

花を見つめるその眼は、優し気に揺れている。

「このお花の名前は、いくら調べても分からなかったのです。本にも図鑑にも載っていなくて、最後には学者さまの所にまで伺ったのですが、やはり何も分からずじまいでしたのよ」

そこで言葉が途切れ、エレアーナの口元が綺麗な弧を描く。

「もしかしたら、何か秘密の・・・賢者さまの特別な花なのかもしれませんわ」

エレアーナの言葉に、改めてその手にある花に視線を落とす。
不思議なことに、ベトエルルから贈られた頃よりずっと箱の中に入れられたままだというのに、その花は生き生きとしたまま萎れる気配もない。

まるで、今もしっかりと根を張り、大地とつながっているかのようで。

「・・・ああ、そうなのかもしれないな。きっと、賢者さまは世にも珍しい贈り物をしてくださったのだ」
「ええ、わたくしもそう思います」

薄紫色の一輪の花。

それはエレアーナたちとラファイエラスとを繋ぐ絆でもあり、大切な思い出でもあり。

「わたくしの宝物にしますわ」

まだ花の秘密も知らないうちから、エレアーナはこの花を自分の一生の宝とすることを誓った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

処理中です...