118 / 256
だから彼女じゃないって
しおりを挟む
「お前の彼女、また面倒事に巻き込まれてたぞ」
わざと言ってやった。
「ぐほっ! な、なんだ? アッテン、お前、オレに彼女はいないって昨日あれほど言っただろーが!」
「そうだったか?」
「そうだよっ!」
早朝の鍛錬時間、いつも通りに汗を流していたあいつに報告に行った。
汗を拭きながら、ごくごくと水を飲み干し、ぷはぁっと大きく息を吐く。
それから徐ろにこちらを向いて聞いてきた。
「・・・で? シュリエラ嬢が、今度はどうしたって?」
「別のご令嬢のトラブルに居合わせたようで、一緒に探し物をしていた」
「ふーん」
「そのシュリエラ嬢の話によると、だ。どうやら、もう一人のご令嬢の大切な資料を、誰かがわざと窓から外に投げ捨てたらしい」
「はあ?」
ライナスが間抜けな声を出した。
「一昨日の王太子殿下の婚約者殿といい、昨日のご令嬢といい、シュリエラ嬢の友人たちが妬まれる確率が凄いな。全くもって驚かされる」
「ちょっと待て。えーと、その、今日一緒にいた令嬢って誰?」
「名前は知らん。だが、やたらと華やかで美しい令嬢で、後からダイスヒル宰相の息子が駆けつけて、何やら仲睦まじげにしていたぞ」
「・・・エレアーナ嬢か」
「ああ、そういえば、確かそんな名前で呼んでいた」
ライナスは机に突っ伏して、呻き声を上げた。
「今度はケイン派の令嬢たちかよ。いい加減、諦めろっつーの。あー、やだやだ。女の嫉妬って怖ぇ」
「事情はよく分からんが、その言葉には全く同意する」
突っ伏したまま、うんうん唸っているライナスに冷ややかな視線と共に、職務に就かなくていいのか、と声をかける。
「行くよ。行くけどさ」
まだブツブツ言っているライナスに背を向け、持ち場に就こうと足を踏み出したところで、ふと、頭に浮かんだ疑問を口にした。
「・・・そのシュリエラ嬢だが」
「あん?」
「彼女のご友人たちは、立派な立場にある方の心を見事射止めているようだが、彼女は、よくその友人の立場に甘んじているな」
ライナスの眉がぎゅっと寄った。
「・・・どういう意味だ?」
「あんな気の強そうな令嬢が、よくそれで満足できるものだと感心しただけだ。他の令嬢方よろしく、殿下でも、宰相の息子でも、目の色変えて狙いそうなものだが・・・」
俺の言葉は、バン、と机を叩く音で遮られた。
何事かと思って目をやれば、ライナスがもの凄い形相でこちらを睨みつけている。
「適当な判断で無責任な事をくっちゃべってんじゃねぇよ。アッテンボロー・ガルマルク。お前は努力の価値がわかる男だろう?」
その言葉に、息を呑み、そしてようやく気づいた。
自分がとんでもない失言をしたことを。
そして、こんな場ではあるが、ライナスが自分の努力をちゃんと見ていてくれたことを。
「・・・確かにあの子は今でもキツイ性格だし、昔、殿下のことを、それはそれはしつこく追っかけ回してたらしいけどな」
・・・おい。
本当にやってたのかよ。
「それでも、あの子は頑張ったんだよ。努力して変わったんだよ。今は、好きだった人の婚約者のために、代わりに怒ってやれるような子になったんだから」
いや、まぁ、確かにそれは立派だとは思うが。
「人はな、いくらでも成長出来るんだ。勿論、本当にその気になって頑張ったやつに限るけどさ。あの子は、お前と同じくらい負けず嫌いだから、物凄く頑張ったんだ。お前は、そういう努力を笑わない男だろうが」
自分の無責任な物言いを恥ずかしく思ったけれど。
それと同時に、何か腹の中にあった重苦しいものが、すとん、と落っこちたような気がした。
お前、俺のやってること、ちゃんと見ていてくれたんだな。
そう思って。
強張っていた肩の力が抜けたんだ。
ライナスバージ・ロッテングルム。
俺の同期で、俺の永遠のライバル。
お前は、本当に真っ直ぐなやつだよ。
いつか必ず、お前に勝ってやるからな。
首を洗って待ってろよ。
そんなことを考えられるくらい、気持ちが落ち着いたところで。
目の前で今も俺を睨みつけている男を、ちょっと揶揄いたくなって。
「・・・そんなにムキになって、やっぱり彼女だったんじゃないか」
「だーかーらーっ! 彼女じゃないからっ! あの子はオレの妹みたいなもんだからっ!」
髪の毛を逆立てんばかりの勢いで吠え立てる姿を前に、なんだか心が和んでしまって。
思わず、ぷっと吹き出したりして。
俺と同じくらいの負けず嫌い、か。
・・・じゃあ、次の夜会では、努力の価値を知っているという、そのご令嬢に、ダンスでも申し込んでみようか。
なんて。
そんなことを思ったりしたわけだ。
わざと言ってやった。
「ぐほっ! な、なんだ? アッテン、お前、オレに彼女はいないって昨日あれほど言っただろーが!」
「そうだったか?」
「そうだよっ!」
早朝の鍛錬時間、いつも通りに汗を流していたあいつに報告に行った。
汗を拭きながら、ごくごくと水を飲み干し、ぷはぁっと大きく息を吐く。
それから徐ろにこちらを向いて聞いてきた。
「・・・で? シュリエラ嬢が、今度はどうしたって?」
「別のご令嬢のトラブルに居合わせたようで、一緒に探し物をしていた」
「ふーん」
「そのシュリエラ嬢の話によると、だ。どうやら、もう一人のご令嬢の大切な資料を、誰かがわざと窓から外に投げ捨てたらしい」
「はあ?」
ライナスが間抜けな声を出した。
「一昨日の王太子殿下の婚約者殿といい、昨日のご令嬢といい、シュリエラ嬢の友人たちが妬まれる確率が凄いな。全くもって驚かされる」
「ちょっと待て。えーと、その、今日一緒にいた令嬢って誰?」
「名前は知らん。だが、やたらと華やかで美しい令嬢で、後からダイスヒル宰相の息子が駆けつけて、何やら仲睦まじげにしていたぞ」
「・・・エレアーナ嬢か」
「ああ、そういえば、確かそんな名前で呼んでいた」
ライナスは机に突っ伏して、呻き声を上げた。
「今度はケイン派の令嬢たちかよ。いい加減、諦めろっつーの。あー、やだやだ。女の嫉妬って怖ぇ」
「事情はよく分からんが、その言葉には全く同意する」
突っ伏したまま、うんうん唸っているライナスに冷ややかな視線と共に、職務に就かなくていいのか、と声をかける。
「行くよ。行くけどさ」
まだブツブツ言っているライナスに背を向け、持ち場に就こうと足を踏み出したところで、ふと、頭に浮かんだ疑問を口にした。
「・・・そのシュリエラ嬢だが」
「あん?」
「彼女のご友人たちは、立派な立場にある方の心を見事射止めているようだが、彼女は、よくその友人の立場に甘んじているな」
ライナスの眉がぎゅっと寄った。
「・・・どういう意味だ?」
「あんな気の強そうな令嬢が、よくそれで満足できるものだと感心しただけだ。他の令嬢方よろしく、殿下でも、宰相の息子でも、目の色変えて狙いそうなものだが・・・」
俺の言葉は、バン、と机を叩く音で遮られた。
何事かと思って目をやれば、ライナスがもの凄い形相でこちらを睨みつけている。
「適当な判断で無責任な事をくっちゃべってんじゃねぇよ。アッテンボロー・ガルマルク。お前は努力の価値がわかる男だろう?」
その言葉に、息を呑み、そしてようやく気づいた。
自分がとんでもない失言をしたことを。
そして、こんな場ではあるが、ライナスが自分の努力をちゃんと見ていてくれたことを。
「・・・確かにあの子は今でもキツイ性格だし、昔、殿下のことを、それはそれはしつこく追っかけ回してたらしいけどな」
・・・おい。
本当にやってたのかよ。
「それでも、あの子は頑張ったんだよ。努力して変わったんだよ。今は、好きだった人の婚約者のために、代わりに怒ってやれるような子になったんだから」
いや、まぁ、確かにそれは立派だとは思うが。
「人はな、いくらでも成長出来るんだ。勿論、本当にその気になって頑張ったやつに限るけどさ。あの子は、お前と同じくらい負けず嫌いだから、物凄く頑張ったんだ。お前は、そういう努力を笑わない男だろうが」
自分の無責任な物言いを恥ずかしく思ったけれど。
それと同時に、何か腹の中にあった重苦しいものが、すとん、と落っこちたような気がした。
お前、俺のやってること、ちゃんと見ていてくれたんだな。
そう思って。
強張っていた肩の力が抜けたんだ。
ライナスバージ・ロッテングルム。
俺の同期で、俺の永遠のライバル。
お前は、本当に真っ直ぐなやつだよ。
いつか必ず、お前に勝ってやるからな。
首を洗って待ってろよ。
そんなことを考えられるくらい、気持ちが落ち着いたところで。
目の前で今も俺を睨みつけている男を、ちょっと揶揄いたくなって。
「・・・そんなにムキになって、やっぱり彼女だったんじゃないか」
「だーかーらーっ! 彼女じゃないからっ! あの子はオレの妹みたいなもんだからっ!」
髪の毛を逆立てんばかりの勢いで吠え立てる姿を前に、なんだか心が和んでしまって。
思わず、ぷっと吹き出したりして。
俺と同じくらいの負けず嫌い、か。
・・・じゃあ、次の夜会では、努力の価値を知っているという、そのご令嬢に、ダンスでも申し込んでみようか。
なんて。
そんなことを思ったりしたわけだ。
22
あなたにおすすめの小説
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長(吉本)
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
雄一郎 ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師(川木えみ)
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる