【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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彼女じゃないし

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「・・・お前の彼女、昨日どこかの令嬢たちと揉めてたぞ」
「ぶっ!」

背後から突然現れたアッテンボローに、身に覚えのない言葉をかけられたライナスは、飲んでいたお茶を思いっきり吹き出した。

「汚ないな」
「げほっ、だ、誰のせいだと、ごふっ、思ってんだよっ! いきなり現れて、訳分かんないこと言うなよなっ! なにが彼女だ。そんな上等なものオレにいるかっつーの」
「・・・違うのか? 前にファーストダンスを踊ってたろう」
「ファーストダンス? ・・・ああ、もしかしてシュリエラ嬢のことか?」

シュリエラ嬢。
ああ、確かにそんな名前だった。

「ああ、そのご令嬢だ」
「確かに何回かダンスは踊ったことあるけど、別に彼女でもなんでもねぇよ」
「ふーん、お前が珍しく踊った相手だから、てっきりそうかと思ったんだが」

普段、令嬢たちの視線にも、遠回しな誘い文句にも気づかないで殿下のお側に突っ立っているお前が、珍しくホールで踊ったりしたもんだから、後で結構な騒ぎになったんだぞ。

「あり得ねぇな。大体な、あの人、すっげー理想高いんだぞ」
「・・・まぁ、選り好みは激しそうだが」

あの気の強さだ。それに相当な美人だしな。

「・・・で、なに? シュリエラ嬢が誰かとトラブってたとか?」
「正確に言うと、そうではない。そのシュリエラ嬢とやらは、王太子殿下の婚約者殿を庇って他の令嬢たちと言い争っていた」
「なに? カトリアナさまがどうかしたのか?」

アッテンボローは、簡単に昨日遭遇した出来事について説明する。

「水をぶっかけられたのか・・・。それはシュリエラ嬢が一緒にいたときで助かったかもしれないな」

アッテンボローは首肯した。

「殿下の婚約者殿と初めてお言葉を交わしたが、随分と大人しい方のようだな」
「あー、まあ、普段はそうなんだけどね。あれで結構、芯が強い方なんだよ」
「・・・そうなのか?」
「ああ、自分に関してだと大抵のことは我慢しちまうけど、他の人のためだと人が変わったみたいに大胆になるんだ。・・・大した方だよ」
「へえ」
「まぁ、自分にされたことだったら、何されても許しちまうだろうからな。あの気の強いシュリエラ嬢がいてくれてよかったなって思うよ」
「殿下には報告しないでいいのか」
「あー、うん、まあ、ちらっとお耳に入るようにはしとくよ。カトリアナさまの意思もあるからな」

早朝の鍛錬後にそんな会話をしていたとき、ライナスが、ふ、と視線を上にあげた。

「? ・・・何だ?」
「あー、いや。お前の髪の色、似てるなって」
「俺の髪?」
「ああ、カトリアナさまと同じ、深い青。本当、綺麗な色だよな、海みたいで」

羨ましいよ、と言ってアハハと笑って。

・・俺はお前の天才的な剣の才能が羨ましいがな。

そう思ったけど、口には出さなかった。



今でも思い出す。
あの日の最後の試合。

俺とライナスが勝ち残り、優勝をかけた決勝戦。
互角に闘えたのは最初の数分間だけだった。

十分だと思っていた間合いを、秒で詰められて。
体勢を整える間もなく、剣を下から打ち上げられた。
衝撃で放しかけた剣を何とか堪えたけれど、今度は頭上から、強烈な一撃を叩きつけられて。

それから。

何度か打ち合ってあっさり決着がついた。
模造剣をすっ飛ばされて。


・・・あの後、控室で泣いたっけな。


はあ、と大きく溜息を吐く。

少しは追いつけたかと思っていただけに、あの時あっさり負けたのがショックだった。

あれからずっとあいつの背中を追い続けて、追い続けて、ひたすら訓練を繰り返して。

いつか、あいつに勝つ。
才能の差を努力で埋めてやる。

そして、何の引け目もなく、あいつの隣に並ぶんだ。



そんな決意も新たに、今日も熱心に自己練習に励んで。
勤務時間となり、王城内の持ち場についていた時だった。

直立不動の姿勢で辺り周辺を警備していると、少し離れたところから物音がした。

・・・なんだ?

別の場所に立っている警備担当の騎士に、持ち場を離れることを目で合図し、音のした方へと慎重に進んでいく。

女性の声だ。二人、か。

この展開に妙な既視感を覚えながらも、更に歩を進めると、二人の令嬢が地面に屈んで何かを拾っている。

「わたくしは六枚拾いましたわ。そちらはどうですか?」
「ええと、これで八枚・・・ですね。困りましたわ。あと二枚足りません。風でどこかに飛ばされてしまったのでしょうか」
「あちらでネリも探してくれてます。きっと大丈夫ですわ」

何か紙きれのようなもの抱えているが、どうやら困っているようだ。
声をかけようと茂みをかき分けて進み出たところで、その中の一人がライナスの言っていたあの令嬢であることに気づく。

シュリエラ嬢だ。

そこで、思わず動きが止まる。
あちらも、突然、現れ出た騎士に驚いて視線を上げ、アッテンボローを見つめる。

「あら? 貴方は昨日の・・・」

どうやら向こうも覚えていたようだ。

「あちらで警備に就いていたのだが、声が聞こえたので、何かあったのかと・・・」

アッテンボローの説明に、ああ、と頷き、失くし物を探していたのだと答えた。

「失くし物・・・。それで、見つかったのか?」
「いえ、まだ全部は」

と答えたのは、もう一人の令嬢だった。

「今、わたくしの侍女があちらを探してくれています」

そう言って、さらに奥へと視線を向けた先で、がさがさと茂みが揺れ、侍女が現れた。

「お嬢さま、あちらに一枚だけ飛んできてました」
「そう・・・。ネリ、ありがとう」

令嬢の顔はまだ晴れない。

「・・・まだ足りないのか?」
「ええ、あと一枚、どこかにある筈なんですけれど・・・」

そう言って、悲しそうに目を伏せる。

・・・それにしても、随分と美しい令嬢だ。

アッテンボローは、思わず目を瞠るも、ふとそれが気恥ずかしくなり、視線を上へと逸らした。

「・・・む?」

その拍子に、上方の木の枝葉に一枚の紙が引っかかっているのが視界に入る。
アッテンボローは、背伸びをし、手も思い切り伸ばして何とか指で挟むと、目の前の令嬢に差し出した。

「これか?」

令嬢の顔が、ぱっと華やぐ。

「ええ、これですわ。ありがとうございます。わたくしったら、地面しか見ていなくて・・・。まさか木の枝に引っ掛かってたなんて」

見惚れるような、艶やかな笑顔だった。

「よかったですわね、エレアーナさま」
「ええ、本当に。シュリエラさまも、一緒に探してくださってありがとうございました」
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