【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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「シュリエラ嬢の父、というと・・・前ライプニヒ公爵のことか?」

シュリエラが頷く。

「少し長い話になりますわ。こちらにいるエレアーナさまが、殿下の婚約者候補になった頃まで遡りますから」

そう言って静かな声で語り始めた話は、内々に処理されたライプニヒ公爵家とその傍系の陰謀にまつわるもので、突然のファーブライエン卿の病死やブルンゲン卿の怪死の謎を解いてくれた。

予想だにしなかった出来事を立て続けに告げられ、頭が追いつかない。

そんな大事件が秘密裏に処理されていたとは。
そして、賢者くずれだけでなく、賢者ワイジャーマまでもがこの国を訪れていたとは。

俺は驚きを隠せずにいた。

何よりも、不忠を働いた家門を滅することを良しとせず、悪行者のみを断罪して終わらせた陛下の英断に驚いた。

リュークザイン・ライプニヒも、ベルフェルト・エイモスも、今やリーベンフラウン王国の安全機構の要となる存在として重用されている。

今更ながらに陛下の心の広さと寛大さに頭が下がる思いだった。

そしてそれは、目の前にいるこの令嬢たちに対しても。

かつて命を狙い狙われた家の令嬢同士。
かつて想った相手の婚約者となった令嬢、今の想い人がかつて愛した令嬢、今は悔いていながらも以前に相手を攻撃しようとした令嬢という奇妙な繋がりで。

なのに、今は。
これほどまでに心を寄せ合って、信頼を置いて。

・・・そういうことか。
そういうことなのか、ライナス。

変われる人もいるんだな。
・・・本当に変わろうとするのなら。



その後、院長からの報告を受け、それぞれの迎えの馬車に乗って帰路に就く。

その馬車の中、普段は不必要な会話をしないカトリアナ嬢が、珍しく俺に声をかけた。

「アッテンボローさまを見ていると、昔のレオンさまを思い出しますわ」

全く心当たりのない言葉に首を傾げる。

「俺と・・・殿下がですか? そんな恐れ多い事がある筈はないと思うのですが・・・」

俺の答えに、ふふ、と笑みを零す。

「レオンさまは、ご自身をとても厳しく断じられるお方で・・・それはもう、何もそこまで、と、こちらがハラハラする程で」
「はあ・・・」
「そのまま黙って享受すれば事が簡単に済むものを、敢えて困難な方へ、困難な方へ、と進んで行かれるのです。決してご自分を甘やかさない。本当に・・・何とも潔い清廉さをお待ちの方でらっしゃって」
「・・・確かに殿下は確清廉潔白でご立派なお方ですが、俺は決してそのような人間ではありません」

すると首を傾げて、不思議そうに問いかけてきた。

「周りの者がそれで良いと言っても、決して楽に進む事を良しとしない。貴方もそんな方なのでは、と思ったのですが」
「・・・」

どう返事をしてよいのか考えていると、更に言葉が続いた。

「先ほどシュリエラさまもお話されましたが、エレアーナさまが賢者くずれからお命を狙われることになってしまいました。その事でレオンさまは、それはそれはお心を痛められた時期があったのです。・・・ご自分がエレアーナさまをお望みにならなければこんな事にはならなかった、と、そうご自分を責められて・・・」

そのときの事を思い出したのか、悲しそうに目を伏せる。

「そのまま婚約の話を進めるのを躊躇ったレオンさまは、エレアーナさまへの想いを胸に秘めたまま身を引こうとしていたケインさまを敢えて引っ張り出して、レオンさまとケインさまのお二人で、揃って愛を告白する舞台を用意されたそうですわ」
「え・・・?」
「驚きますでしょう? 王命とすれば、どのご令嬢でも、妃として思いのままに選ぶことが出来るというのに」
「・・・そうですね」
「気になって、手に入れたくて仕方ないのに、不安で、怖くて、自分でいいのかと心配されて・・・。せっかくエレアーナさまと会う機会があっても、申し訳なさが先に来て、すぐに席をお立ちになってしまう・・・。本当に、あの頃のレオンさまは見ていられませんでした」

苦笑と共に、そんな言葉を紡いで。

「ですからわたくし、はしたなくもレオンさまに発破をかけたのですよ。自分の想いを否定なさってはいけません、と」

肩を竦めて、少し恥ずかしそうに微笑んだ。

「レオンさまは、その言葉を真摯に受け止めてくださいました。・・・結果的に、エレアーナさまはケインさまと結ばれることになりましたけど、それが分かった時も、レオンさまはとても清々しいお顔でいらっしゃった。・・・それは、それまでに精一杯の事をなさったからです」

そう言って、俺の目を真っ直ぐに見つめた。

「今のアッテンボローさまを見ていると、何故だかあの頃のレオンさまを思い出してしまうのです」
「・・・それは・・・」
「自分で自分の気持ちを縛ってしまう。抑え込む。気付かなかった振りをする。・・・そんな気持ち、もしやアッテンボローさまはお感じになったことはありませんか?」

あくまでも静かに、穏やかに、カトリアナ嬢は問うてきた。
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