【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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取り調べ

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「んで結局、潰れんのかよ・・・」

三杯目のシーカーで、すっかり喋りがおかしくなったライナスは、ひとしきり賑やかしくはしゃいだ後、糸が切れた人形のように、ぱたりと倒れ込んだきり動かなくなった。

そして今、こうしてアッテンボローは、ライナスバージを背負い、騎士寮に戻ろうとしている最中である。

鍛え抜かれた身体を持つ騎士にとって、男一人、担ぐのは何の造作もない。

それでもやはり、同じく鍛え抜かれた筋肉を持つライナスバージの身体は、見た目よりも地味に重い。

ライナスとアッテンは同期ではあるが、アッテンボローの方が一つ年上だ。
背もライナスより頭ひとつ高い。

「これ、身長差が逆だったら、かなり運びづらかったな」

よいしょ、と、担ぎ直して再び歩きだす。
ライナスの頭が軽く揺れ、もにょもにょと何かを呟いている。

「ん? 何か言ったか? この酔っ払いめ」

言葉は悪いが、アッテンボローの口元には笑みが浮かんでいる。

「んー、アッテン・・・」
「なんだ」
「お前の剣・・・かっこいいなぁ・・・」
「・・・」
「強い・・・のに・・・優雅でさぁ・・・」
「ばーか」
「オレの・・・あこがれ、なんだよぉ・・・」
「いいから寝とけ」
「・・・分かってんのかぁー?」
「分かんねーよ」
「なーんで・・・分かんねーんだよぉー・・・」
「さぁな」

それから暫くの間、ライナスはアッテンボローの背中でぶつぶつと何やら呟いていたものの、その声は小さすぎて、もうアッテンボローには聞き取れなかった。

やがて再び眠りに落ちたのか、声も聞こえなくなり、すーすーと寝息が聞こえてきた。

「ガキかよ」

思わずぽつりと呟きが漏れる。
だがもう、背中からの反応はない。

夜道は人影もほとんどない。
カツン、カツン、と靴音だけが響いていて。

「なんで分かんねーのかよ、てか。・・・ホント、なんでだろうな」

答えなど期待しない問いが、アッテンボローの口から溢れた。


門を抜け、王城の敷地内に入る。

騎士寮まであと少し。

背中からずり落ちそうになっているライナスの体を、もう一度、担ぎ直す。

回廊を通り抜けようとした時、不意に前方から低い男の声がした。

「こんな夜更けに王城内をうろつくとは・・・一体、何者だ?」

警戒する声に、アッテンボローの体が、一瞬ぴくりと跳ねる。

・・・気配がなかった。

これでも騎士の端くれ。
人の気配には敏感な筈なのに。

相手の只ならぬ雰囲気に、それまでのほろ酔い気分が、すぅっと消える。

「近衛隊第二分隊所属、アッテンボロー・ガルマルクです。
こちらは同じくライナスバージ・ロッテングルムです」
「ほう。お前がガルマルクか。・・・確か、殿下の婚約者であるカトリアナ嬢の護衛に就いていたな?」

声の主は柱の影に隠されていて、こちらからは姿が見えない。

「左様でございます」
「ライナスバージはどうした。もしや酔っ払って潰れたか?」
「はい」
「今日は二人とも私服のようだが、護衛の任務はなかったのか? ライナスは王太子付きだろう?」
「今宵は非番にて、二人で飲みに出かけておりました」
「意外と仲が良かったのだな」
「は?」
「・・・なんでもない。アッテンボロー、お前は確か、現当主、ゲイブル・ガルマルク伯爵の嫡男であったな」
「は? はい」
「若手の騎士の中では、そちらのライナスバージと一、二を争う剣の腕だと聞いている」
「・・・それはどうでしょうか。自分の方がかなりの数を負け越しております」
「その負け越しの大半が僅差だった筈では?」
「・・・負けは負けです」
「成程。相当な負けず嫌いのようだな。しかも意地っ張りときたか」

少し面白がっているような口調だ。

「アッテンボロー。お前の他に兄弟はいるのか?」
「は、はい。六つ離れた弟が一人おりますが」
「お前が爵位を継ぐ予定は?」

・・・何故、こんな事を聞かれているのだろう。
まるで取り調べのように、細々とこちらの身の上を尋ねてくるが。

もしや、俺に何か疑いでもかけられているのだろうか?

「父はまだまだ息災です。加えて自分も未だ独り身ですし、騎士として学ばねばならぬ事が多くございますれば、身代を継ぐ予定は決まっておりません」
「そうか」

アッテンボローは少々、混乱していた。
柱の影にいる男は未だ誰かも分からず、纏う空気は常人のそれでない事だけは確かで。

なのに、こちらへ投げかける問いは、どこか的が外れているようにも思える。

「お前に恋人はいるか?」
「・・・いえ」

なんだ、この質問は。
いよいよ柱の影の男の意図が分からない。

「そうか。ならば想い人は?」
「は?」
「お前には、心に想う女性はいるのか?」
「は、いえ、あの、その・・・」

なんでここまで突っ込んだ質問を?

そう思いつつも、頭の中には問われてすぐに思い浮かんだ女性がいた。

暁色の髪をした美しい女性。
想うだけでは苦しいままだと、ようやく気が付いた恋。

だが、それを真っ正直に言ってもいいものなのか。

そもそも、このような問いに馬鹿正直に答えるべきなのか?
相手の意図も測りかねているのに。

だが。
想いを自ら否定するのは。
否定、するのは。

ライナスとの会話の際に感じた、あの胸の焦げつくような、ちりり、という感覚を思い出す。

しばしの逡巡の後、躊躇いがちにアッテンボローは口を開いた。

「心に想う女性はおります。・・・秘めたる想い故、相手の女性は自分の気持ちなど露ほどもご存知ないかと思いますが」
「ほう・・・? そうなのか」

男の声は、いよいよ面白そうな響きを帯びた。
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