【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
132 / 256

いつか誰かに

しおりを挟む
王都にある商店街、その中心部から少しだけ離れた場所に、いつも客で賑わっている小さな食堂がある。

安くて美味くて量も多い、と三拍子が揃っているため、家族持ちや、ガタイのいい男性陣から特に人気があるのだ。

その食堂の奥にある個室で、今、ライナスバージとアッテンボローは酒を酌み交わしている。

「・・・お前、完全に飲みすぎだろ」
「だーいじょーうーぶーでぇーす」
「いや、それにしても、人格、変わりすぎだって・・・」
「そーんなこーと、なーいでぇーす」
「あーもう、面倒くせぇ・・・・」

呆れ顔で、髪をくしゃっとかき上げる。
紺色のストレートの髪が指の隙間からさらりと数本落ち、妙な色気を醸し出す。

アッテンボローも既にかなり飲んではいるが、大して酔ってはいない。
元から酒には強かった。

・・・というより、この男が弱すぎだ。

「お前、馬鹿か? 飲めないんなら誘うなよ」
「なーに言ってるんですかぁー? オレはー、のーめーまーすぅー」

そう言ってアッテンボローのグラスに手を伸ばそうとしたところを、ぺしんと引っ叩いてやる。

「いってぇー!」

今や王国一と噂される最強の騎士である筈の男は、目の前でぐでんぐでんに酔っ払っている。

それも、シーカーをたった三杯、飲んだだけで。

「道理で、なかなかグラスに口をつけなかった訳だ」

アッテンボローがシーカーを五杯、六杯、と勢いよくグラスを空ける中、ライナスは話ばかりで、なかなか酒に口をつけようとはしなかった。

まぁ、早々に酒を飲まれていたら、あんなに沢山、話は出来なかったから、それで良かったのだが。





「オレさ、お前の剣捌き、凄い好きなんだよね」

席に着くなり、意外な言葉がライナスの口から溢れてきて、アッテンボローは心底、驚いた。

「俺の? 剣捌きが?」
「なんか動きが綺麗なんだよ。洗練されてるって言うの? 流れるようで、無駄が無くてさ」
「・・・そうか?」
「ロッテングルム家の領地は辺境にあるだろ? そのせいか剣筋もさ、実戦一辺倒の粗野な動きばかりなんだよね。なんていうか、やっつければいいんだろ、的な動き? 別に嫌いじゃないし、馬鹿にするつもりもないけどさ、それのお陰で勝てる訳だし。でも、お前の動きを見てると、ああやっぱり、いいなぁって思っちまうんだよな」
「見た時の印象がどうあれ、勝てる方が良いと俺は思うが」
「まぁ、そうかもしれないけど。それに、羨ましくて真似しようとしたけど、結局、出来なかったしな」

俺は一瞬、固まった。

「真似?」
「そう」
「俺の?」
「そう」
「・・・」
「ん?」
「お前が・・・俺の・・・真似?」
「? 何か変か?」

いや、変だろ。

「・・・なんで」
「? だから言ったろ? 羨ましかったんだよ」

正直、ライナスの言っていることが分からなかった。

お前が?
俺のことが羨ましいって?

これまでお前に386戦中92勝しかしてない俺が・・・羨ましい?

・・・相変わらず呑気な男だ。

馬鹿馬鹿しくなって黙ってシーカーを呷りだすと、ようやくライナスも一杯目のシーカーに口をつけ始めた。

強くて、明るくて、気が良くて。
なんでこいつに彼女がいないんだろう。

「そういえばお前って、結局、彼女いないのか?」
「何それ、嫌味?」
「いや、だってお前、モテるだろ」
「モテた事ねーし」
「・・・」
「夜会でオレと踊ってくれる令嬢なんて、シュリエラ嬢くらいしかいねーし。だいたいアレだって頭数合わせだったし」

ここで俺は思い出した。
この男、もの凄く鈍いんだった、と。

試合や鍛錬の最中だったらどんな気配も察知するのに、夜会では秋波を送る令嬢たちの視線にも気付かない。

どこぞの令嬢方に捕まらないよう逃げ回ってる俺と違い、純粋に令嬢たちの姿を認識しないのだ。

モテない、モテない、と愚痴を零すけれど。
本人が気付いてないだけで、実際のところ、こいつは結構モテる。

だから驚いたんだ。
この唐変木が、どこぞのご令嬢とダンスを踊るなんて。

しかもそれが相当な美人で。
そりゃ、彼女だろうって誤解もするさ。

妹みたいなもんだって言っても、お前が自覚してないだけって可能性だってある。

そこまで考えて、胸がちり、と痛む。

・・・いいじゃないか。
だとしても似合いのカップルだ。

なんて強がってみせた時。

「おわぁっと、溢しちゃったぁー」

やけに明るい声がすぐ近くで聞こえてきて。

「あははー。服、濡れちゃったー。びしょびしょだぁー」

いつの間にか二杯目を空けていたライナスは、口調がおかしくなり始めていた。

「おい、ライナス?」
「服がすんげー濡れちゃったよー。こんなの、はじめてだぁー、って・・・あれぇ?」

首を傾げて、びしょ濡れになったシャツの胸元をじっと見ている。

「うーん?」

右に左に、忙しく首を傾げながら唸っている。

「どうした?」
「うーん。・・・前もぉ、こーんな風にー、服が濡れたことがあったような・・・?」
「知らねーよ」

首を振りながら唸るライナスに、呆れ顔で言葉を返す。

「うーん、いつだっけぇ? ・・・あっ! あーっ! 思い出したぁ!」
「煩い」
「シュリエラ嬢だぁっ! シュリエラ嬢がー、泣いたんだよー。賢者さまがーって、えーん、えーんってさぁ」

刹那、俺の動きがピシッと固まる。

「それで騎士服がぁ、こーんな風にー、びしょびしょになっちゃったんだよねー! もう、ものすごーく泣くもんだからさぁー」

シュリエラ嬢が、こいつの胸の中で泣いた。

その時の俺は、その事で頭が一杯で。

ライナスが三杯目のシーカーに手を伸ばした事なんか、気にも留めなかった。

ここまで来て、ようやく分かったから。
自分の気持ちを抑えつけるという選択の意味を。結果を。

己の手を伸ばさず、ただ遠くで愛でる事を選んだ花は、いつか必ず他の誰かに。

そうだ。
ライナスでなくても、いや、ライナスでなければ、また違う誰かに。

手折られる日が来る、という事を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...