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リュークザインの見合いについて その9
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「いやぁ、お前の婚約発表は、今、社交界で最も話題となっているな。どこに行ってもその話で持ち切りだぞ」
明らかに面白がっているとしか思えないベルフェルトの口調に対し、リュークザインの口調は素っ気ない。
「それ以外にすることもないとは、暇な奴らだ」
「だがな、今回ばかりはあいつらの気持ちも分からんでもないぞ。なにせ伝統あるライプニヒ公爵家の若き当主と、十年ほど前に当代で子爵位を賜ったカリエス家のご令嬢という組み合わせだ。しかもラエラ嬢は、デビュタント以降、社交界に一切顔を出さかった謎のご令嬢だったからな。どこでどうやって知り合ったのか、この婚約には何か裏があるのではないか、など、話の種には事欠かないだろうよ」
「下らん。噂スズメの話はもういいから仕事をしてくれ」
婚約にまつわる噂については、自分の耳にも入っていた。
それらは皆、事実とは全く異なる、面白おかしく脚色した下卑た作り話ばかり。
ラエラ嬢が聞いたら傷つくのではないだろうか、と、心配してベルに相談したら一笑に付された。
曰く、「ラエラ嬢は筋の通った芯の強い女性だから大丈夫」と。
その言葉に納得しつつも、何故、一度会ったきりのお前がそこまで言い切れるのかと、言いがかりのような言葉が口をつきそうになり、そんな自分に驚いて。
こんな感情的でみっともない自分を見たら、きっとラエラ嬢は失望するだろう。
互いの間にあるのは条件に基づく合意であって恋愛感情ではないのだから。
嫉妬という重たい感情をぶつけたら、きっと彼女はこの手からするりと逃げてしまう。
そうしたら別の男が彼女を伴侶とするのだろう。
それは嫌だ。
それだけは避けたい。
あの女性の尊敬の眼差しを裏切りたくはない。
それだけが互いを繋ぐ絆なのだから。
「どうした、リューク? 何が不安なんだ?」
ひっそりと溜息を吐いたつもりが、ベルは気づいていたようだ。
この男には、嘘もごまかしも通用しないから厄介なのだ。
「あんな素晴らしい女性を婚約者として得ておいて、そんな憂い顔はいただけないね。堅物のお前が、こうして恋に落ちて、晴れて相思相愛の仲になったんだ。何を心配することがあるというんだい?」
「相思相愛だと?」
言っている意味が分からず、目の前の親友を凝視した。
そんな私を見て、ベルはぎょっとしたような表情を浮かべ、それから呆れたような口調で話を続けた。
「おい、まさかだろ、リューク。お前はまだ気づいてないのか?」
「気づいてないとは、何をだ?」
「何をって、・・・ああ、この朴念仁め。まさか、お前がここまで鈍い男だとは思ってなかったぞ」
何が面白いのか、首を横に振りながら大笑いしている。
話についていけず、少々イラッとしながら笑いが治まるのを待っていると、ようやく落ち着いてきたのか、ベルが真面目な顔でこんな事を言いだした。
「まあ、こういう事は本人の口から聞くべきだよな。うむ、そうだ。友ではあるが、この件に関してはオレは完全なる部外者だ。よし、リューク。今からオレは大切なことを言うからな。親友の助言をありがたく聞きたまえ」
ベルフェルトは酔狂な男ではあるが、私のことはいつも真剣に気にかけてくれる奴だ。
だから意味が分からないながらも、その通りにする気ではいたのだが。
もう一度言う。
その通りにする気だった。
だが何でこんなことを?
「リュークザインさま?」
「・・・やあ」
「いつもの顔合わせの日取りを急に今日になさりたいなんて・・・。なにか話し合いが必要になるような問題でもありましたか?」
「い、いや、そんなことはないのだが」
ベルに言われて、今日いきなりラエラ嬢と会うことになって。
現在、がちがちに緊張しながら彼女の前に立っている。
じっとこちらを見ていたラエラ嬢が、何かに気づいたように、すっと手を伸ばしてきた。
「な?」
焦って思い切りのけぞる。
するとラエラ嬢は不思議そうな表情を浮かべ、差し出した手をひらひらと振ってみせた。
「汗が酷うございます。これでお拭きくださいませ」
ハンカチで拭ってくれていたのだ。
羞恥で顔が真っ赤になった。
なんだ、私のこの反応は?
無様すぎる。
いくら何でも意識しすぎだろうが。
「す、すまない」
「いえ。それで今日はなんのお話を?」
「あー、と、それがその・・・」
ベルフェルト、こんな言葉が本当に私の悩みを解決するのか?
そう思ったが。
お前を信じるぞ。
「・・・結婚するにあたり、条件を一つ追加しようと思っている。貴女が持つ権利についてだ」
「条件の追加、ですか。わたくしの権利を?」
「ああ」
ぐっと拳に力を込める。
こんな言葉、たとえラエラ嬢を思ってのことだとしても言いたくはない。
「離婚を申し立てる権利だ」
「・・・は?」
ラエラ嬢の声が、わずかに低くなった。
明らかに面白がっているとしか思えないベルフェルトの口調に対し、リュークザインの口調は素っ気ない。
「それ以外にすることもないとは、暇な奴らだ」
「だがな、今回ばかりはあいつらの気持ちも分からんでもないぞ。なにせ伝統あるライプニヒ公爵家の若き当主と、十年ほど前に当代で子爵位を賜ったカリエス家のご令嬢という組み合わせだ。しかもラエラ嬢は、デビュタント以降、社交界に一切顔を出さかった謎のご令嬢だったからな。どこでどうやって知り合ったのか、この婚約には何か裏があるのではないか、など、話の種には事欠かないだろうよ」
「下らん。噂スズメの話はもういいから仕事をしてくれ」
婚約にまつわる噂については、自分の耳にも入っていた。
それらは皆、事実とは全く異なる、面白おかしく脚色した下卑た作り話ばかり。
ラエラ嬢が聞いたら傷つくのではないだろうか、と、心配してベルに相談したら一笑に付された。
曰く、「ラエラ嬢は筋の通った芯の強い女性だから大丈夫」と。
その言葉に納得しつつも、何故、一度会ったきりのお前がそこまで言い切れるのかと、言いがかりのような言葉が口をつきそうになり、そんな自分に驚いて。
こんな感情的でみっともない自分を見たら、きっとラエラ嬢は失望するだろう。
互いの間にあるのは条件に基づく合意であって恋愛感情ではないのだから。
嫉妬という重たい感情をぶつけたら、きっと彼女はこの手からするりと逃げてしまう。
そうしたら別の男が彼女を伴侶とするのだろう。
それは嫌だ。
それだけは避けたい。
あの女性の尊敬の眼差しを裏切りたくはない。
それだけが互いを繋ぐ絆なのだから。
「どうした、リューク? 何が不安なんだ?」
ひっそりと溜息を吐いたつもりが、ベルは気づいていたようだ。
この男には、嘘もごまかしも通用しないから厄介なのだ。
「あんな素晴らしい女性を婚約者として得ておいて、そんな憂い顔はいただけないね。堅物のお前が、こうして恋に落ちて、晴れて相思相愛の仲になったんだ。何を心配することがあるというんだい?」
「相思相愛だと?」
言っている意味が分からず、目の前の親友を凝視した。
そんな私を見て、ベルはぎょっとしたような表情を浮かべ、それから呆れたような口調で話を続けた。
「おい、まさかだろ、リューク。お前はまだ気づいてないのか?」
「気づいてないとは、何をだ?」
「何をって、・・・ああ、この朴念仁め。まさか、お前がここまで鈍い男だとは思ってなかったぞ」
何が面白いのか、首を横に振りながら大笑いしている。
話についていけず、少々イラッとしながら笑いが治まるのを待っていると、ようやく落ち着いてきたのか、ベルが真面目な顔でこんな事を言いだした。
「まあ、こういう事は本人の口から聞くべきだよな。うむ、そうだ。友ではあるが、この件に関してはオレは完全なる部外者だ。よし、リューク。今からオレは大切なことを言うからな。親友の助言をありがたく聞きたまえ」
ベルフェルトは酔狂な男ではあるが、私のことはいつも真剣に気にかけてくれる奴だ。
だから意味が分からないながらも、その通りにする気ではいたのだが。
もう一度言う。
その通りにする気だった。
だが何でこんなことを?
「リュークザインさま?」
「・・・やあ」
「いつもの顔合わせの日取りを急に今日になさりたいなんて・・・。なにか話し合いが必要になるような問題でもありましたか?」
「い、いや、そんなことはないのだが」
ベルに言われて、今日いきなりラエラ嬢と会うことになって。
現在、がちがちに緊張しながら彼女の前に立っている。
じっとこちらを見ていたラエラ嬢が、何かに気づいたように、すっと手を伸ばしてきた。
「な?」
焦って思い切りのけぞる。
するとラエラ嬢は不思議そうな表情を浮かべ、差し出した手をひらひらと振ってみせた。
「汗が酷うございます。これでお拭きくださいませ」
ハンカチで拭ってくれていたのだ。
羞恥で顔が真っ赤になった。
なんだ、私のこの反応は?
無様すぎる。
いくら何でも意識しすぎだろうが。
「す、すまない」
「いえ。それで今日はなんのお話を?」
「あー、と、それがその・・・」
ベルフェルト、こんな言葉が本当に私の悩みを解決するのか?
そう思ったが。
お前を信じるぞ。
「・・・結婚するにあたり、条件を一つ追加しようと思っている。貴女が持つ権利についてだ」
「条件の追加、ですか。わたくしの権利を?」
「ああ」
ぐっと拳に力を込める。
こんな言葉、たとえラエラ嬢を思ってのことだとしても言いたくはない。
「離婚を申し立てる権利だ」
「・・・は?」
ラエラ嬢の声が、わずかに低くなった。
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