【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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リュークザインの見合いについて その10

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「ラエラ嬢もご存知のように、通常、家柄に差があれば、低いとされる家の者からの離婚の申し立ては許されていない。たとえどれほど酷い仕打ちを受けた場合でも、だ。だが私たちの結婚においては、貴女にもそれを自由に申し立てる権利を与えよう」

ラエラ嬢は、表面上は穏やかな態度を崩さなかったが、声には微かに動揺が現れていた。

「・・・意図をお聞きしたいのですが」
「む?」
「リュークザインさまは、わたくしが貴方さまに離婚を申し立てる日が来るとお思いなのですか?」

ベルフェルトの言葉が頭の中で鳴り響く。

『お前の悪い癖だがな、下手に感情を隠そうとするなよ。変な誤解をされたくないだろう。ラエラ嬢が何を思っているのかを理解したいのならば、お前の思った事をその通りにぶつけて来ることだ』

だから、多少気恥ずかしいとはいえ、はっきりと言葉にした。

「そんな日が来るとは思っていないし、そうなることも願っていない。というより、貴女が私との離婚を望むなどという想像すらしたくない」
「でしたら・・・」
「権利がないから望んでいるのに申し立てが出来ないのだ、とは考えたくない。貴女には選ぶ自由があり、その上で、私と共に生きることを選んでもらいたいのだ」
「・・・」
「・・・たとえ、私たちの間にあるのが政略結婚に対する義務感だけだとしても、貴女は敢えて私と共に生きることを選んでくれている、と、そう思いたい。だから、それは決して行使して欲しくない権利だし、それを使う日が永遠に来ない事を願ってもいるが、敢えて貴女に与えることにするのだ。貴女が望んで私と共にいるという事実を手に入れるために」

ぐっと唇を引き結んで、ラエラ嬢の返答を待つ。
だが、ラエラ嬢は、どこか呆けているようで、いくら待とうと彼女からの答えが返ってこない。

「・・・ラエラ嬢?」

そっと伺うように名前を呼ぶ。

ラエラ嬢は、ほっと大きく息を吐き、困ったように眉を下げた。

「本当に貴方というお方は、どこまでも真っ直ぐにぶつかってこられるのですね。あの日のまま・・・お変わりになることなく・・・」
「・・・何の話だ?」

問いかけるも、苦笑して首を左右に振るだけで、その質問には答えない。

「こちらは何とか貴方の気を惹こうと小細工ばかり弄していたというのに。・・・リュークザインさまは、こうして真正面からお気持ちを伝えてくださるのですね」
「ラエラ嬢・・・?」
「相変わらず・・・素敵すぎて困ったお方ですわ」

私に、というよりも、自分自身に呟いているようなそんな口調に、思わず訝しむような視線を投げかける。

それに気づいたのか、はっと我に返ったような表情を浮かべると、恥ずかしげに俯いた。

「申し訳ありません。その、とても嬉しいですわ。ええ、先ほどのお言葉、とても嬉しく思っております。・・・嬉しすぎて勘違いしてしまいそうなくらいに」

そう言いながら頬を朱に染める。

勘違い?
勘違いとは、何を?

ラエラ嬢は、それまで伏していた眼を上げた。

「だって、六年前からずっと、わたくしはリュークザインさまをお慕いしていたのですよ? そんなお優しい言葉をかけられたら、自分に都合のいい解釈をしてしまいますわ。もしや・・・わたくしに恋をして下さったのではないか、なんて」

『心を尽くして説明しろ。そうしたら、きっとラエラ嬢から大事な話が聞ける』

ベルはそう言った。
そう言ってはいたが。

お慕いしている?

六年前から?
誰を? 私を?

口を開いても、言葉が出てこない。

ベルが言っていたのはこのことだったのか、とか、何故ベルが知ってるんだ、とか、そもそも自分の聞き間違いじゃないか、とか、色々な考えが頭の中を駆け巡ったけれど。

目の前にいる女性は、頬を染めて自分を見つめてくれている。
理知的な眼を潤ませて、所在なさげに立っている。

ごくりと唾を呑みこむ。

きちんと、言わなければ。

「・・・勘違いでは、ない・・・と思う」

きちんと、言う。

「どうやら私は、貴女に恋をしているようだ」
「リュークザイン・・・さま」
「答えてくれ、ラエラ嬢。離婚申し立ての権利を得たとしても、貴女は私を選び続けてくれるだろうか」

ああ、きちんと言おうとしたのに。

口から飛び出してきたのは、なんともロマンチックでないプロポーズの言葉だった。

だけど、ラエラ嬢は花開くかのように微笑んで。

「勿論ですわ」

そう答えてくれた。

「リュークザインさま。離婚申し立ての権利、ありがたく頂戴いたします。ですが、それを行使する事なく、この先もずっと貴方さまと共にいる人生を選び続けるような自分でありたいと、わたくしは願っております」

そんな私のプロポーズに返すラエラ嬢の言葉もまた、少々ロマンチックとはかけ離れたものだった。
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