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アッテンボロー、拉致られる
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ベイベル国からの客人たちの調査が始まり、リュークザインを始めとする諜報機関の面々は、多忙を極めていた。
諜報機関トップであるリュークザインの仕事量もまた、相当なものとなっていた。
「ハトの数は十分に確保できたのか?」
「バリューガ語を理解する者五名をベイベル国からの客人たちに貼り付けさせている。後は数名をシャウヘッセ伯爵のとこに送ったよ。まぁ、今のところ大した収穫はないがね」
ベルの報告中に、最近リュークザインの秘書として勤めることになったラエラがお茶を運んでくる。
「申し訳ありません。わたくしがあの時、もっと多くの情報を聞き取れていれば・・・」
「いや、君はよくやってくれた。一令嬢がバリューガ語を理解できるとは思っていなかったからこそ得られた情報だ。そういう意味では、飛ばしたハトたちが隙をつくのは難しいだろうな」
お茶を口に含むと、カップを手にしたままリュークはしばしの間考え込んだ。
「何かお考えですか?」
ラエラが問うた。
「・・・あちらも私たちの動きは警戒しているだろうと、そう思ってな」
「それは当然だろう。暗部に属するオレはともかくとして、表側でトップとして立つお前は名も知られている。まず一番に探られるだろうよ。周りの近しい者たちも含めてね」
「・・・」
吐いた台詞とは全くそぐわない涼しい顔でそう発言したベルを、リュークはぎっと睨む。
「ラエラ、君は」
「わたくしの事なら心配は無用です。それなりに身を守る術は身につけておりますので」
「・・・シャルムは領地に引っ込んでいるからいいとして、後は・・・」
そこで言葉を切り、カップをテーブルに戻す。
「ベル」
「なんだ」
「あいつを連れて来い」
「あいつ? 誰のことだい?」
「あいつだ」
「はいはい、あいつね。わかりましたよ。で、今?」
「勤務外になり次第、だ」
「了解」
くすくすと笑いながら、ベルは席を立つ。
会話の内容を把握できず、呆気に取られるラエラの横を通り過ぎると、ベルは扉の向こうへと消えていった。
「・・・あいつとは、どなたの事ですの?」
ベルフェルトが去った後、ラエラはリュークザインに尋ねていた。
「よく来てくれたな」
「よく来てくれたって・・・。いきなり人を捕獲しといて言う台詞ではないと思いますが」
目の前にいる相手が誰かという事くらい、警護に就く者として分かっていた。
分かっていても噛みつかずにはいられなかった。
任務を終え、騎士寮へと帰ろうとした矢先、背後からとっ捕まえられた挙句、目隠しされて、この部屋に担ぎ込まれたのである。
騎士としての矜持がズタズタだ。
「そう悲嘆するな。不意打ちやら小狡い手口やらは護衛騎士の領分ではないだろう。まぁ、オレは好んで使う手だがな」
横に立つ男の笑顔がまた小憎らしい。
「まずは名乗らせてもらおう。リュークザイン・ライブニヒ、諜報機関『デサィファミス』の長官を務めている。この場所は、隠匿対象でな。特定されないために目隠し等の処置をした事、理解して貰えると有難い」
「・・・アッテンボロー・ガルマルクです」
では、目の前のこの人物が、ライナスの言っていたシュリエラ嬢の兄君か。
それに、俺の勘違いじゃなければこの声。
この声は、あの夜、柱の影から俺を尋問した男の声にそっくりだが、どういう事だ?
「よし、アッテンボロー。時間がないので単刀直入に言わせてもらう」
アッテンボローの背に、汗が伝う。
「私の妹、シュリエラと見合いをしろ」
「・・・」
「私の妹、シュリエラと見合いをしろ」
「・・・は?」
「君は耳が悪いのか? 私の妹・・・」
「聞こえてます、聞こえてます!」
慌ててエンドレスなやり取りを遮る。
「・・・これは一体、どういう事なんでしょうか。何か理由がおありなのでは? ライブニヒ長官」
「理由なら勿論ある」
リュークは重々しく頷いた。
「現在、ある任務を遂行中なのだが、その関連で諜報機関の者やその周辺の人物がターゲットから狙われる可能性がある。私の家族で言えば一番狙われやすいのが妹だ。だから君に妹と見合いをしてもらいたい」
「・・・話がよく分からないのですが」
「君は妹が好きなのだろう?」
「は?」
「嫌いなのか」
「嫌いじゃないです、それを言うなら、むしろ好きですけど!」
「ならば、いいだろう。今週末に場を儲けるから予定に入れておけ」
「ですが、シュリエラ嬢は」
「あいつは私の決めた相手と結婚すると言っていた。そして私は君が良いと思った。だから会って来い」
「・・・」
リュークザインの言葉に、アッテンボローは唇を噛む。
そんなアッテンの様子など、意にも解さぬ調子でリュークは言葉を続ける。
「それから・・・君はカトリアナ嬢の専属護衛だったな」
「・・・はい」
「シュリエラをカトリアナ嬢付きの侍女にする。出来るだけ早く、そうだな、最速で明後日というところか」
「は?」
アッテンボローは話についていけず、ぽかんと口を開けたまま聞き返した。
「週日はカトリアナ嬢の護衛として侍女であるシュリエラにも目を配ってやってくれ。そして休日は婚約者候補としてシュリエラの側にいるように」
「・・・」
ここで、やっと話を理解した。
よくは分からないが、何か大きな案件を追っているのだろう、ということ。
ライプニヒ長官にとっては、シュリエラ嬢の安全が気がかりである、ということ。
この見合いやら侍女とやらの話も、彼女の安全確保の一環であること。
だが。
だがどうして。
「どうして、俺なんですか」
ただの護衛としての見合い相手なら、他にいくらでもいるじゃないか。
せっかく。
次に会えたら告白しようと思っていたのに。
こんな。
こんな形で。
思わず俯きそうになった時、リュークザインは呆れたように言った。
「・・・他の男に頼める訳がなかろう。あいつが惚れているのは君なのだから」
諜報機関トップであるリュークザインの仕事量もまた、相当なものとなっていた。
「ハトの数は十分に確保できたのか?」
「バリューガ語を理解する者五名をベイベル国からの客人たちに貼り付けさせている。後は数名をシャウヘッセ伯爵のとこに送ったよ。まぁ、今のところ大した収穫はないがね」
ベルの報告中に、最近リュークザインの秘書として勤めることになったラエラがお茶を運んでくる。
「申し訳ありません。わたくしがあの時、もっと多くの情報を聞き取れていれば・・・」
「いや、君はよくやってくれた。一令嬢がバリューガ語を理解できるとは思っていなかったからこそ得られた情報だ。そういう意味では、飛ばしたハトたちが隙をつくのは難しいだろうな」
お茶を口に含むと、カップを手にしたままリュークはしばしの間考え込んだ。
「何かお考えですか?」
ラエラが問うた。
「・・・あちらも私たちの動きは警戒しているだろうと、そう思ってな」
「それは当然だろう。暗部に属するオレはともかくとして、表側でトップとして立つお前は名も知られている。まず一番に探られるだろうよ。周りの近しい者たちも含めてね」
「・・・」
吐いた台詞とは全くそぐわない涼しい顔でそう発言したベルを、リュークはぎっと睨む。
「ラエラ、君は」
「わたくしの事なら心配は無用です。それなりに身を守る術は身につけておりますので」
「・・・シャルムは領地に引っ込んでいるからいいとして、後は・・・」
そこで言葉を切り、カップをテーブルに戻す。
「ベル」
「なんだ」
「あいつを連れて来い」
「あいつ? 誰のことだい?」
「あいつだ」
「はいはい、あいつね。わかりましたよ。で、今?」
「勤務外になり次第、だ」
「了解」
くすくすと笑いながら、ベルは席を立つ。
会話の内容を把握できず、呆気に取られるラエラの横を通り過ぎると、ベルは扉の向こうへと消えていった。
「・・・あいつとは、どなたの事ですの?」
ベルフェルトが去った後、ラエラはリュークザインに尋ねていた。
「よく来てくれたな」
「よく来てくれたって・・・。いきなり人を捕獲しといて言う台詞ではないと思いますが」
目の前にいる相手が誰かという事くらい、警護に就く者として分かっていた。
分かっていても噛みつかずにはいられなかった。
任務を終え、騎士寮へと帰ろうとした矢先、背後からとっ捕まえられた挙句、目隠しされて、この部屋に担ぎ込まれたのである。
騎士としての矜持がズタズタだ。
「そう悲嘆するな。不意打ちやら小狡い手口やらは護衛騎士の領分ではないだろう。まぁ、オレは好んで使う手だがな」
横に立つ男の笑顔がまた小憎らしい。
「まずは名乗らせてもらおう。リュークザイン・ライブニヒ、諜報機関『デサィファミス』の長官を務めている。この場所は、隠匿対象でな。特定されないために目隠し等の処置をした事、理解して貰えると有難い」
「・・・アッテンボロー・ガルマルクです」
では、目の前のこの人物が、ライナスの言っていたシュリエラ嬢の兄君か。
それに、俺の勘違いじゃなければこの声。
この声は、あの夜、柱の影から俺を尋問した男の声にそっくりだが、どういう事だ?
「よし、アッテンボロー。時間がないので単刀直入に言わせてもらう」
アッテンボローの背に、汗が伝う。
「私の妹、シュリエラと見合いをしろ」
「・・・」
「私の妹、シュリエラと見合いをしろ」
「・・・は?」
「君は耳が悪いのか? 私の妹・・・」
「聞こえてます、聞こえてます!」
慌ててエンドレスなやり取りを遮る。
「・・・これは一体、どういう事なんでしょうか。何か理由がおありなのでは? ライブニヒ長官」
「理由なら勿論ある」
リュークは重々しく頷いた。
「現在、ある任務を遂行中なのだが、その関連で諜報機関の者やその周辺の人物がターゲットから狙われる可能性がある。私の家族で言えば一番狙われやすいのが妹だ。だから君に妹と見合いをしてもらいたい」
「・・・話がよく分からないのですが」
「君は妹が好きなのだろう?」
「は?」
「嫌いなのか」
「嫌いじゃないです、それを言うなら、むしろ好きですけど!」
「ならば、いいだろう。今週末に場を儲けるから予定に入れておけ」
「ですが、シュリエラ嬢は」
「あいつは私の決めた相手と結婚すると言っていた。そして私は君が良いと思った。だから会って来い」
「・・・」
リュークザインの言葉に、アッテンボローは唇を噛む。
そんなアッテンの様子など、意にも解さぬ調子でリュークは言葉を続ける。
「それから・・・君はカトリアナ嬢の専属護衛だったな」
「・・・はい」
「シュリエラをカトリアナ嬢付きの侍女にする。出来るだけ早く、そうだな、最速で明後日というところか」
「は?」
アッテンボローは話についていけず、ぽかんと口を開けたまま聞き返した。
「週日はカトリアナ嬢の護衛として侍女であるシュリエラにも目を配ってやってくれ。そして休日は婚約者候補としてシュリエラの側にいるように」
「・・・」
ここで、やっと話を理解した。
よくは分からないが、何か大きな案件を追っているのだろう、ということ。
ライプニヒ長官にとっては、シュリエラ嬢の安全が気がかりである、ということ。
この見合いやら侍女とやらの話も、彼女の安全確保の一環であること。
だが。
だがどうして。
「どうして、俺なんですか」
ただの護衛としての見合い相手なら、他にいくらでもいるじゃないか。
せっかく。
次に会えたら告白しようと思っていたのに。
こんな。
こんな形で。
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