【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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新人騎士の驚き

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「ねえ、そこの騎士さま。貴方、この辺りの担当の方?」

治安維持の目的で街中を巡回していた騎士は、背後からの声に振り返った。

「ああ、そうだけど何か・・・」

言いかけた言葉は、驚きで途中で止まってしまう。

・・・可愛い。

街の治安維持という任務を与えられたばかりの新人騎士は、今が任務中だという事も忘れ、一瞬、目の前の娘に見惚れていた。

「・・・あの?」

怪訝な顔をされ、慌てて我に返る。
こほん、と咳払いを一つ。

「・・・失礼。なにかご用でも?」

いけない、いけない。
ようやく正式な騎士に任命されて初の任務を受けたのに、何をぼけーっとしてるんだ。

いくら可愛い子に声をかけられたからって・・・。

「『ペカンナット』っていうお店に行きたいんだけど、迷ってしまったみたいなの。もし場所を知ってたら教えてもらえる?」
「『ペカンナット』・・・? ああ、知ってるけど、君が行きたい所って本当にそこで合ってるかい?」
「? ええ」 

僕は驚いて、ただ黙って目の前の女の子をまじまじと見つめた。
だって言われたのが、あまりにもこの子にはそぐわない場所だったから。

でも、僕の視線を不快に思ったのか、女の子はあからさまに不機嫌な顔になった。

「なあに? 女性を不躾に眺めるものじゃないわよ?」
「あ、ご、ごめん。いや、君みたいな可愛い子が行くところじゃないような気がして・・・」
「武器屋にぐらい誰だって行くわよ。それで、道は教えてもらえるのかしら?」

誰でも行くような所じゃないと思うけど。
本気で行きたいみたいだから、大人しく説明しとくか。

そう思って行き方を説明しようとしたけれど。

・・・この子、この辺りの地名をあまり分かってないじゃん。

「ええと、君はこの辺りは初めて来るの?」
「三週間ほど前に、親せきを訪ねて王都に来たの。暫くここにいる予定だけど、元々ここの人間じゃないからお店とかよく分からないのよね」
「成程ね。だからこの辺りの地名もよく知らないのか。・・・いいよ。じゃあ、ペカンナットまで案内してあげる」
「本当? ありがとう、騎士さま。助かるわ」

騎士さま。・・・いい響きだなあ。
孤児院育ちの僕が、こんな可愛い子に「騎士さま」って呼ばれちゃうなんて。

「騎士さま?」

口元が緩んでいた僕を、きょとんとした顔で覗きこむ。

慌てて咳払いをして、誤魔化して。

そうだ、せっかくだもの。自己紹介しなくちゃ。

「僕はマイセンっていうんだ。今年騎士になっだばかりでね、初任務がこの地区のパトロールだったんんだ」
「まあ、それはおめでとう。でも、任務に就いたばかりなのに、この辺りの地理に随分と詳しそうね?」
「まあね。僕はここの隣にある街で育ったからね。ここら辺は結構詳しいよ」
「そうなんだ。あ、私はルナフレイア。ルナでいいわ」
「わかった、ルナ。じゃあ、僕のこともマイセンと」
「じゃあ、マイセン。ペカンナットまでよろしくね」

一緒に組んでいた騎士に連絡して、ルナと一緒にペカンナットへと向かう。

相棒から羨ましそうな視線を送られたけど、これも仕事の一環だからね。
遊びじゃないんだ。

・・・でも、何だかうきうきする。

いやいや、何を浮かれてるんだ。ちゃんと仕事しないと。
ええと、ペカンナットは確かフェルマス街にあった筈だから・・・。

任されていた地区のすぐ隣だ。
距離も大してないからすぐに着いちゃうな。

残念・・・って、僕は何を考えてるんだ?

恥ずかしくなって頭をぶんぶんと横に振ると隣を歩くルナが不思議そうな顔をした。

「マイセン?」
「何でもないよ、もう少しで着くからね」

それにしても、こんな可愛い女の子が武器屋に行って何をするつもりなんだろう。

似合わないよなあ。
この子には、甘い匂いのクッキーとか、ケーキとか、そういうのの方がぴったり来るような気がするけど。

・・・あ、ちょっとお茶とかに誘ってみる?
いやいや、駄目だろ。僕は任務中だぞ。

ここでまた頭を振って邪念を捨てようとしたところで、遠くから僕の名前を呼ぶ声がした。

あれ? ルナの声じゃない。

声のした方向へ振り向くと、僕の恩人の姿が見えた。

・・・なんでここに?

同じことを考えているようで、あちらも驚いた顔をしている。

「ごめん、ルナ。ちょっと挨拶して来てもいい?」
「ええ、勿論。知り合いの方?」
「うん。昔、凄くお世話になった人たちなんだ」

会えた嬉しさに胸がいっぱいになる。

そうだ。お二人は結婚したんだっけ。

「エレアーナさま。それにケインバッハさまも、お久しぶりです」
「久しぶりだな」
「いきなり声をかけてしまってごめんなさいね、マイセン。お仕事中だった?」
「道案内をしていたところです。お二人は今日はどちらに?」

僕の質問に、エレアーナさまは斜め後ろの大きな建物を手で示した。

「去年建てた工場の様子を見に来たの。それに、視察ついでに原料も届けられたら、と思って」
「工場? ・・・ああ、うがい薬とか石鹸を作るっていう」
「ええ。ホルヘの子たちも何人かここに就職したの。マイセンが知ってる子たちもいるわ。アレイとサリー、それにジャスパーも。覚えてるでしょう?」
「本当ですか? 僕も会いたいなあ。あの、後で寄らせてもらってもいいですか?」

懐かしい名前に嬉しくなって、つい声が弾む。

「勿論よ。待ってるわね」
「はい、それじゃちょっと行ってき・・・」
「ごめん、マイセン。ちょっといい?」

それまで後ろで静かに話を聞いていたルナが、僕に断りを入れてから前に出た。

「・・・お話し中に申し訳ありません。わたくしはルナフレイアと申します。もしよろしければ、わたくしもその工場を見せていただきたいのですが」
「え?」

僕は吃驚した。

だって、ルナの口調が、それまでの砕けたものとは全然違ってて。
それは、まるで貴族のご令嬢みたいだったから。
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