【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

文字の大きさ
169 / 256

新婚さんのお出かけ予定

しおりを挟む
湯あみを終えたケインバッハは、洗い髪を乾かすのもそこそこに寝室に入ると、ソファに座って本を読んでいた愛しい妻の隣に座る。

「明日は何か予定はあるのか?」

声が少し弾んでいる。
さり気なく聞いたつもりのようだが、何か期待しているのはバレバレだ。

エレアーナは本から目を外し、夫に微笑みかける。

「せっかくケインさまがお休みの日なのですもの。一緒に出かけられると嬉しいのですが」
「そうか」

口元が微かに緩む。

「どこか行きたいところは?」
「そうですね・・・。久しぶりに孤児院の子どもたちの様子を見に行きたいですわ。あ、あと、新しく経てた工場も」

いかにもエレアーナらしい返答に、予想通りとはいえ苦笑が漏れる。
ケインバッハとしては愛する妻にドレスや宝石などを買ってやりたくて仕方ないのだが、エレアーナの望みはいつも別のところにある。

少し残念に思いながらも、エレアーナの希望を優先しようと確認ための言葉を続ける。

「となると、ホルヘとジュールベーヌか。工場はどこにあったかな」
「西区のフェルマス街ですわ。運営や製造が上手くいっているか心配なものですから」
「雇用の機会を広げる貴重な場だからな。まだ立ち上げて一年も経っていない施設だから、あちらも色々と相談したいことがあるかもしれない。明日の午後にでも回ってみるか」
「午後、ですか?」
「ああ、午後に出発する」
「朝からではなく?」
「朝はきっと、起きるのが辛いと思うぞ。・・・君が」

そう言いながら、首元に唇を寄せる。

「忘れたのか? 俺たちは新婚なのだが」
「あ・・・」

エレアーナは言葉の意味に気づき、頬を真っ赤にして俯いた。

「俺も明日は朝早くから王城に向かう必要もない事だし、今夜はゆっくり夫婦の時間を楽しもう」
「ゆっくり・・・?」
「ああ、ゆっくり」

腰まである長く柔らかい髪をひと房掬い、くるくると指で弄びながら、顔は首元に寄せたまま、ちゅ、と、うなじに口づける。

「んっ・・・」

ぴくん、と震えた身体に、そっと腕を回して抱きしめた。

「・・・エレアーナ」
「はい・・・」
「君を俺だけの愛称で呼びたいんだが」
「え・・・?」

話をしながらも、ケインの唇は首筋に軽く押し当てたままで。
結果、必然的に話すたびに吐息が首にかかる事になり、エレアーナの首元までもが赤く染まってしまう。

「義父上も義兄上も君のことを『エレ』と呼ぶだろう? つまらない独占欲と笑ってくれて構わないが、俺だけの愛称で君を呼びたい。それで考えたんだ。レアナというのはどうだろう」
「レアナ・・・」
「ああ、俺だけの呼び名だ。レアナ」
「はい」
「レアナ、愛してる」
「ケインさま・・・。わたくしも貴方を愛しておりますわ」

二人はどちらからともなく唇を重ねた。



次にエレアーナが目を覚ました頃には、もう日は高く昇っていた。

少し気怠い身体は存分に愛された印のようで、恥ずかしくもあり嬉しくもある。

出発を午後にしてもらって、正解だったわ。

そう思いながら、一旦起こした身体をもう一度ぱふんとベットに沈める。

顔を横に向ければ、すぐ隣に、まだ眠っている夫がいた。

ふふ、無防備な寝顔が可愛い。

ブライトン邸の庭園で初めて会った時から、彫刻のような麗しい顔だと思ってたけど。

あの頃より年齢を重ねた今は、少年から大人の男性へと美しさの範疇が変わっていき、そこにきりっとした精悍さと色っぽさまで加わって。

妻がいると分かっていても、好きになっちゃうご令嬢とかいらっしゃるんじゃないかしら。

そんな心配を、ついしてしまいそうになるくらい、貴方は素敵で。

「・・・美しい令嬢から言い寄られても、ちゃんと断ってくださいね?」
「・・・当たり前だろう」

エレアーナは目を瞠った。

頭の中で考えてただけのつもりだった。
まさか口に出していたとは思ってもいなくて。

うっかり本音を呟いてしまったことに恥じらい、そっと俯く。

そんなエレアーナの頬を、ケインバッハの大きな掌が宥めるようにそっと撫でる。

「俺の眼には、いつだってレアナ、君しか映っていない」
「・・・」

恥ずかしさで黙り込んでしまったエレアーナの顔を見つめながら、ケインバッハは薄い笑みを浮かべる。

そして額に口づけを落とすと「そろそろ支度をしよう」と声をかけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

むにゃむにゃしてたら私にだけ冷たい幼馴染と結婚してました~お飾り妻のはずですが溺愛しすぎじゃないですか⁉~

景華
恋愛
「シリウス・カルバン……むにゃむにゃ……私と結婚、してぇ……むにゃむにゃ」 「……は?」 そんな寝言のせいで、すれ違っていた二人が結婚することに!? 精霊が作りし国ローザニア王国。 セレンシア・ピエラ伯爵令嬢には、国家機密扱いとなるほどの秘密があった。 【寝言の強制実行】。 彼女の寝言で発せられた言葉は絶対だ。 精霊の加護を持つ王太子ですらパシリに使ってしまうほどの強制力。 そしてそんな【寝言の強制実行】のせいで結婚してしまった相手は、彼女の幼馴染で公爵令息にして副騎士団長のシリウス・カルバン。 セレンシアを元々愛してしまったがゆえに彼女の前でだけクールに装ってしまうようになっていたシリウスは、この結婚を機に自分の本当の思いを素直に出していくことを決意し自分の思うがままに溺愛しはじめるが、セレンシアはそれを寝言のせいでおかしくなっているのだと勘違いをしたまま。 それどころか、自分の寝言のせいで結婚してしまっては申し訳ないからと、3年間白い結婚をして離縁しようとまで言い出す始末。 自分の思いを信じてもらえないシリウスは、彼女の【寝言の強制実行】の力を消し去るため、どこかにいるであろう魔法使いを探し出す──!! 大人になるにつれて離れてしまった心と身体の距離が少しずつ縮まって、絡まった糸が解けていく。 すれ違っていた二人の両片思い勘違い恋愛ファンタジー!!

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】彼を幸せにする十の方法

玉響なつめ
恋愛
貴族令嬢のフィリアには婚約者がいる。 フィリアが望んで結ばれた婚約、その相手であるキリアンはいつだって冷静だ。 婚約者としての義務は果たしてくれるし常に彼女を尊重してくれる。 しかし、フィリアが望まなければキリアンは動かない。 婚約したのだからいつかは心を開いてくれて、距離も縮まる――そう信じていたフィリアの心は、とある夜会での事件でぽっきり折れてしまった。 婚約を解消することは難しいが、少なくともこれ以上迷惑をかけずに夫婦としてどうあるべきか……フィリアは悩みながらも、キリアンが一番幸せになれる方法を探すために行動を起こすのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...