【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮

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工場見学

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エレアーナさまとケインバッハさまって、本当におおらかだと思う。

だって、いきなり知らない女の子が「工場を見学させてください」って言い出しても、「はい」って答えちゃうんだもん。

そう思いながら、目をキラキラさせて工場内を見学しているルナを見る。

・・・不思議な子だな。

さっきは一瞬、貴族令嬢なんじゃないかって思ったくらい凛としてた。

熱心に質問しては興味深げに頷いて、また質問しては感心して。

確かにエレアーナさまたちのする事って、僕たち孤児をものすごく助けてくれたよな。

その時、扉の向こうから見知った顔が現れる。

「アレイ、それにサリーも。元気だったか?」
「マイセン。お前、その服。・・・本当に騎士になれたんだな」

懐かしいホルヘの仲間だ。

「すごい建物だな。お前ら、ここで働いてるんだって?」
「ああ、俺は抽出担当、サリーはハーブの選別と在庫管理担当だ」
「売れ行きも順調に伸びてるのよ。原料のハーブの半分はエレアーナさまから無料で頂けるし、ホルヘやジュールベーヌの子たちも希望すれば卒園後にここで働けることになってるし、院の子たちも将来を悲観しなくなってるわ」
「他にもハーブ農園とか、働き口はいっぱいあるからな。職業を選べるなんて、昔じゃ考えられなかったけどさ」
「そうか。エレアーナさまの作られた品は前から人気があったもんな。これなら、これから先も心配いらないな」
「ああ。毎日が充実してるよ。ジャスパーもお前に会いたがるだろうな。ちょうど今、配達に行っちゃっててさ」
「そうか。残念だけど、また来るからさ」
「ああ。お前も頑張れよ。せっかく、夢が叶って騎士になれたんだから」

笑顔で頷くと、アレイがニヤついた顔で傍まで来て「あの可愛い子、彼女?」と聞いてきた。

「ばっ! 違うよ! 道が分からなくて困ってたから教えてあげようとしただけだよ」
「へえ? それだけでこんな所まで連れてきたの?」
「ち、違うし! あの子が来たいって言ったんだよ!」
「ふうん? まあ、でも確かにお前よりも工場の方に興味がありそうだし、嘘でもないのかもな」
「・・・そうだよ。だからそう言ってるだろ」

本当のことなのに、そう言われると何か胸がむかむかして。
少しだけ、イライラした。

ルナをちらりと見る。

うん、やっぱり僕のことなんか見ていない。
純粋にこの工場のシステムに興味があるみたいだ。

確かにこれは凄いよね。
このアイデアのお陰で、どれだけの孤児たちが助かったことか。

ちゃんとした職業と、十分な賃金、おまけに技術や知識を得られるんだもの。

僕だってあの剣術の授業を受けてなかったら、騎士はおろか、自警団員にだってなれなかった。

本当に・・・本当に、王太子殿下やケインバッハさま、エレアーナさまは僕たちの命の恩人なんだ。




「マイセン?」

あ、少しぼーっとしてたみたいだ。

気がつくと、エレアーナさまが僕の顔を覗き込んでいた。

「疲れてるんじゃないかしら? 騎士の仕事は大変でしょう?」
「い、いえ。まだ巡回しか任されてなくて、そんな大変なことなんて」
「巡回も大事なお仕事よ。だって、ルナフレイアさんは貴方が街角に立っていたお陰で道が聞けたのでしょう? ね? ルナフレイアさん」
「そうですね。なかなかそういう細かい所にまで人員を割けない都市が多いですけど、その点、王都は大勢の警護騎士が巡回警護に回されていて、困った時でも助けを求めやすいですね。こうして私もマイセンにしっかり助けてもらいましたし。それに自警団もしっかり組織されていて、連行とか点検確認とかの比較的危なくない仕事はそちらに任せているようですね。系統だっていて凄いと思います。今のこの時期でなければ、犯罪とかも少なさそうですし、とても良く治められているのではないでしょうか」
「・・・」

・・・なんだ? 今の意見は。

僕は目を丸くした。

「まあ、ルナフレイアさんって、警備にお詳しいのですね」

エレアーナさまが感心した声を上げた。
ケインバッハさまも驚いた顔をしている。

いや、これは詳しいとかそういう事じゃない。

まるで警護の経験者みたいな・・・。

「詳しいと言いますか、領地では私も警備に当たっていたものですから」
「・・・」
「ああ、でも、この工場のシステムも参考になります。うちの領地ではハーブとか薬草とかの知識はないですけど、こんな風に地域住民に雇用を生み出す仕組みは、是非、真似させていただきたいですね」
「・・・」
「あ、勿論、お許しがいただければ、ですけど」

ルナ以外の全員が、話の内容が理解できなくて固まっていた。

ええと、どういうこと?

警護についてたって?
それより、領地って言った?

ルナって、もしかして本当に、貴族だったりするの?

「・・・ルナフレイア、と言ったか。君はもしや家名を持っているのか? もしあれば聞かせてもらっても?」

ケインバッハさまも僕と同じことを考えたようだった。

「あ、言ってませんでした? いけない、私、いつも自己紹介し忘れるんですよね。この間お会いした貴族の方にも途中までそのことに気がつかなくて・・・。ええと、では改めまして」

こほんと咳払いを一つ。

そして優雅にカーテシーをして。

「ご挨拶が遅れましたことをお詫び申し上げます。わたくし、ルナフレイア・ロッテングルムと申します。普段は北の辺境伯領に住んでおりまして、このたび王太子殿下のご成婚まで王都に滞在することになりました」
「ロッテングルム・・・」

名前を聞いて驚いたのは、エレアーナさまやケインバッハさまだけじゃない。

僕だって騎士のはしくれだ。
新米だけど。

うん、新米だけどね。
それでも、常勝無敗の騎士団長、カーン・ロッテングルムの名前くらいはよく知ってるから。
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